請負・派遣:アメリカ
人材ビジネス最前線

米国の人材ビジネスには、1)一般的な人材派遣(比較的短期の契約で、契約ごとに様々な企業で就労)、2)プレース&サーチ(人材紹介)、3)アウトプレースメント(再就職支援)、4)PEO(Professional Employer Organization)によるスタッフリーシング――の4形態がある。業界全体の売上高は、2002年度の予測値で、1486億米ドル(図1)。このうち、5割以上のシェア(2002年度予測値で売上高837億ドル)を占めるのは、一般的な人材派遣だ。アメリカ人材派遣協会による派遣労働者総数は、218万人程度(図2)。業種別内訳をみると、オフィス部門(25.0%)、製造部門(19.3%)、IT/SE部門(23.3%)、医療(12.7%)、専門職(13.0%)、技術職(6.7%)の構成比となっている(図3)。派遣労働市場における全般的な雇用吸収力は、ITバブルの崩壊とともに若干停滞したものの、雇用の柔軟性と労働費用のコントロールという両面から、今後も拡大が予測されている。

人材ビジネスのうち、最近急成長を遂げているのは、PEOによるスタッフリーシング。顧客である企業の共同雇用主となる契約を締結し、顧客企業の人事関連業務を代行するサービスだ。多くの労働者を擁し、複数顧客企業と契約締結するPEOは、福利厚生費の抑制や雇用管理の一元化が可能。健康保険料など福利厚生費の高騰、複雑かつ頻繁な法改正が行われる雇用労働法制、採用・解雇などに関する煩雑な手続及びコスト増――などに頭を悩ます顧客企業が、業務・コスト負担の軽減策として、注目している。PEOは現在、人材ビジネス全体の約30%を占め、2003年度の業界売上高はトップ25社だけで250億ドルにも及んでいる。

また、人材派遣市場における日米の比較でみると、米国では製造部門に就労するブルーカラーの派遣労働者比率が高いため、男性の派遣労働者が多いことが特徴的な点として挙げられる。1997年の統計では、派遣労働者全体の44.7%が男性であった。だが、ここで注意が必要なのは、米国では請負・派遣の区別が日本のように明確ではないことだ。米国には、禁止業務、派遣期間など労働者派遣に関する特別な法規制が存在せず、派遣の正式な定義も確立していない。例えば、一つの企業や工場に大量の派遣労働者を就労させている派遣元事業者のほとんどが、現場に自社の管理者を置いて労働者の管理を行っており、日本では「請負」の範疇に属するものが、「派遣」の扱いになっている場合も多い。

東京大学社会科学研究所が実施した調査結果は、米国企業の派遣・請負社員の活用について、「当該事業所の主たる商品生産、サービス供給にかかわるコア職種においては派遣が、非コア職種には請負の活用が多い」「職種別では、技術・技能職、サービス職、事務職で派遣の比率が高く、建設職、コンピュータシステム、会計・経理、整備、清掃・ビル管理、機械整備・補修で請負の比率が高い」――と分析している。だが、特に大規模工場などでの製造現場で両者の区別は明確でない。米国では「請負」「派遣」という区分けよりもむしろ、外部人材活用をアウトソーシングと位置づけ、1)下請け型アウトソーシング、2)派遣型アウトソーシング、3)横受け型アウトソーシング(特定の機能を一括して外部に委託する方式)――と区分けする方が一般的なようだ。

オフショアリングも含めたアウトソーシングの活用について米国カッティング・エッジ・インフォーメーションが2002年に公表した調査は、米国企業の実に90%以上が、何らかのアウトソーシングを活用していることを明らかにしている。

米国における外部人材活用の主な理由は、1)需要の変動への対応、2)特別なスキルの調達、3)ダウンサイジングによる正社員数のコントロール、4)欠勤社員の代替、5)基幹社員の雇用維持、6)将来の採用のためのスクリーニング、7)付加給付のコントロール、8)管理業務の簡素化――などさまざま。また、特別法制定により対応が求められる課題としては、1)正規労働者との賃金格差(付加給付含む)、2)低い社会保険適用率、3)雇用差別、4)短期派遣労働者の起用による雇用保険濫用――などが挙がる。このうち、生産業務における正規労働者と派遣労働者の賃金格差をみると、米国では、ホワイトカラーにおける両者の賃金格差が13%程度であるのに比して、ブルーカラーにおける格差は29%程度とかなり大きいことがわかる。また、男性派遣労働者が比較的危険な仕事に就く傾向も指摘されている。日本における製造現場への派遣拡大に伴い、その動向に注目が集まりそうだ。

なお、製造現場での人材派遣先行国の米国では、人材教育の面で、日本への参考例も多い。例えば1996年に業界大手の米国マンパワー社は、医薬品・医療機器の製造現場への派遣スタッフの事前研修用CD-ROM教材「GMPスキルウェア(製造管理及び品質管理規則)を独自開発し、活用を開始。GMPとは、医薬品・医療機器などの製造工程における安全・品質を確保するために、製造時に遵守・実践すべき事項を定めたものだ。同社はまた、製造業務専門の能力測定システム「ウルトラデックス」を独自開発。1)組立測定(精密部品)、2)作業適性測定、3)分類・照合測定、4)組立測定(手動工具使用)、5)計算・記録測定、6)検査測定、7)的中操作測定――の7項目の能力測定プログラムを派遣先ニーズに応じて実施し、派遣スタッフに必要とされる技能や能力などを測定・判断している。これを参考に、マンパワー・ジャパン株式会社は今年7月、GMP研修スキルウェアの日本版を作成。製薬業界の製造現場への派遣人材教育の強化に着手し、今後食品や化粧品業界におけるスキルウェアの応用も検討する方針を明らかにしている。

請負ではEMS(製造請負サービス)が急速な伸び

一方、請負労働者とは、「請負契約によって、自ら雇用する被用者や、サービス顧客に提供する会社に雇用される労働者」と定義されており、通常は一つの顧客先へのみ派遣され、顧客先の事業場などで就労する労働者が対象となるという理解が一般的だ。米国労働統計局の調査では、2001年度の請負労働者数は約63万人であるが、上述の通り請負・派遣の区分が曖昧であるため、日本との正確な比較は難しい。

請負の分野で急成長を遂げ、世界規模でビジネス展開しているのは、EMS(Electronics Manufacturing Service:製造請負サービス)。既述のアウトソーシングの分類では、横受け型にあたるビジネスだ。EMSは、国際規模で企業間競争が激化しはじめた90年代初頭から活発化した製造工程に特化した製造請負工場への生産一括委託方式。製造メーカーが維持できなくなった製造工場を買収し、請負専門工場として大躍進を続けている。自社ブランドを持たず、メーカーから依頼のあった製品の生産を一手に引き受け、製品販売、マーケティング以外のすべての工程を行う隠れメーカーといえよう。EMSとメーカーのファブレス化(自ら生産設備を持たず自社開発した製品を他社に委託して生産する方式)という構図は、近年の米国ハイテクメーカーの競争優位を条件付ける鍵。米国のハイテク産業では、川上から川下まで1社がまかなう従来型の垂直統合型ビジネスから、複数の専売業者の連携による水平分業型ビジネスへ移行が進んでいる。

EMS最大手は、カリフォルニア州ミルピタスに本社を置き、世界21カ国に活動を広げているソレクトロン。この他、SCIシステム、セレスティカ、ジェービル・サーキット、フレクストロニクスなどが業界上位企業だ。売上高、雇用規模ともに急成長している(図4)。

EMS台頭の背景には、1)顧客ニーズの多様化と製品ライフサイクルの短命化、2)グローバル化による企業の世界的競争の激化、3)米国主導のグローバルスタンダード経営の普及――などといった要因がある。こうした流れのなか、各国ごと、部門レベルごとの自前のサプライチェーンマネジメントの構築を進めてきた従来型日本企業経営では、1)グローバルレベルでの利益確保が追いつかない、2)垂直型ビジネスではコストも膨大――などといった批判があがっており、EMSが日本の製造業復活の鍵との論調もある。だが、EMSは、雇用吸収力が大きい半面、投資銀行などの金融機関から工場と従業員をリースして資本投下しないため、リストラによる従業員のレイオフのリスクが高い。また、在庫リスクなどの面で、立場の弱い部品サプライヤーが厳しい状況を強いられるケースが多く、米系の一部の大手企業の独壇場となっているのが現状だ。さらに、ファブレス化により、中長期的には、コアとなる技術基盤を失い、企業の独自性が「ブランドイメージ」的価値だけとなる危険も指摘されている。

製造現場への派遣解禁、グローバルレベルでのEMSの台頭といったシナリオのなかで、労働者の雇用保障の低下を招かぬよう、企業系列や地域の産業クラスターを活かした日本独自の新たなモデルの模索が求められるところだ。

図1

パソナウェブサイトより

図2

リクルート・ワークス研究所レポート vol.2より

図3

パソナウェブサイトより

参考資料

  1. 「欧米諸国の労働市場サービス:英・独・蘭・仏・米の労働力需給調整システムの課題と展望」リクルート・ワークス研究所2002Vol.2
  2. 月刊人材ビジネス2004年12月号
  3. 「アメリカにおける非正社員化―派遣、PEO、請負、アウトソーシング」リクルートワークス研究所
  4. 石井久子「アメリカにおける労働者派遣の拡大:その実態と展望」高崎経済大学論集第43巻第2号(2000)29頁~43頁。
  5. 「米国企業の人的資源管理と外部人材活用:1996-1997NOSデータの再分析」東京大学社会科学研究所人材ビジネス研究寄付研究部門研究シリーズNo.2(2004)。
  6. 三島啓二「ハイテク産業におけるEMSの台頭」立命館大学2001年度優秀修士論文
  7. 日本労働研究機構「アメリカの非典型雇用-コンティンジェント労働者をめぐる問題」(2001)
  8. Staffing Industry Report新しいウィンドウへ
  9. パソナウェブサイト新しいウィンドウへ
  10. IT Pro (日経コンピュータ)新しいウィンドウへ
  11. 日本経済新聞社プレスリリース新しいウィンドウへ

2005年1月 フォーカス: 請負・派遣

関連情報