学校制度と職業教育
ドイツの学校制度と職業教育

1.学校制度 -中等教育段階が職業選択の岐路

ドイツでは、学校制度が、日本の「六・三・三制」のような単線型ではなく、初等教育期間を経た時点で、種類の異なる学校を選択し就学する分岐型である。ほとんどの児童は、日本の小学校同様、最初は基礎学校(グルントシューレ)で机を並べるが、4学年を終えた時点で、中等教育期間をどこで学ぶか、方向を決断しなければならない。なお、この4学年修了後の2年間は、次に学校種別ごとにオリエンテーション(観察指導)段階を設ける場合と、オリエンテーション段階を学校種別に関係なく設ける場合がある。

次の中等教育段階の前期には、1.ハウプトシューレ(「基幹学校」などと訳される)2.実科学校(レアルシューレ)3.ギムナジウム-の-3つのコースのうち何れかに進むのが一般的である。加えて、この3つの学校形態を包含した総合制学校(ゲザムトシューレ)がある。

中等教育の後期には、それぞれの課程の内容が大きく変化する。ハウプトシューレの場合、課程を終えれば修了証が授与され、生徒は修了資格を得る。同校の課程を修了せず、修了証を得ないで卒業するケースもある。修了資格の有無に関わらず、ハウプトシューレ卒業後は職業学校に行くと同時に企業内で職業訓練を受ける、いわゆる「デュアルシステム」に基づく職業教育の段階に進むのが一般的なコースとされる。

実科学校の修了資格を得た後は、デュアルシステムのプロセスへ進む場合と、上級専門学校に進む場合に分かれる。ギムナジウムに進学している場合は、上級段階に進んでアビトゥーア(ギムナジウム卒業資格試験、合格により大学入学資格を得る)に備えるのが一般的とされる。なお、デュアルシステムによる職業教育の対象者は、2000年時点で、ハウプトシューレ未修了者2.4%、同校修了者32%、実科学校等修了者36.6%、大学入学資格保持者(ギムナジウム、上級専門学校等修了者)15.8%、その他の職業学校等からの者13.2%となっている。

※ドイツの学校系統図(文部科学省「教育指標の国際比較」平成16年版)参照

ドイツの学校系統図
School system in Germany

図

参考資料:H16年度文部科学省 教育指標の国際比較

就学前教育

幼稚園は満3歳からの子どもを受けれ入れる機関であり、保育所は2歳以下の子どもを受け入れている。

義務教育

義務教育は9年(一部の州は10年)である。また、義務教育を終えた後に就職し、見習いとして職業訓練を受ける者は、通常3年間、週に 1~2日職業学校に通うことが義務とされている(職業学校就学義務)。

初等教育

初等教育は、基礎学校において4年間(一部の州は6年間)行われる。

中等教育

生徒の能力・適性に応じて、ハウプトシューレ(卒業後に就職して職業訓練を受ける者が主として進む。5年制)、実科学校(卒業後に職業教育学校に進む者や中級の職につく者が主として進む。6年制)、ギムナジウム(大学進学希望者が主として進む。9年制)が設けられている。総合制学校は、若干の州を除き、学校数、生徒数とも少ない。後期中等段階において、上記の職業学校(週に1~2日の定時制。通常3年)のほか、職業基礎教育年(全日1年制)、職業専門学校(全日1~2年制)、職業上構学校(職業訓練修了者、職業訓練中の者などを対象とし、修了すると実科学校修了証を授与。全日制は少なくとも1年、定時制は通常3年)、上級専門学校(実科学校修了を入学要件とし、修了者に高等専門学校入学資格を授与。全日2年制)、専門ギムナジウム(実科学校修了を入学要件とし、修了者に大学入学資格を授与。全日3年制)など多様な職業教育学校が設けられている。また、専門学校は職業訓練を終えた者等を対象としており、修了すると上級の職業資格を得ることができる。夜間ギムナジウム、コレークは職業従事者等に大学入学資格を与えるための機関である。

なお、ドイツ統一後、旧東ドイツ地域各州は、旧西ドイツ地域の制度に合わせる方向で学校制度の再編を進め、多くの州は、ギムナジウムのほかに、ハウプトシューレと実科学校を合わせた学校種(5年でハウプトシューレ修了証、6年で実科学校修了証の取得が可能)を導入した。

高等教育

高等教育機関として、大学(総合大学、教育大学、神学大学、芸術大学など)と高等専門学校がある。修了にあたって標準とされる修業年限は、通常、大学で4年半、高等専門学校で4年以下とされているが、これを超えて在学する者が多い。

2.職業教育

(1)前期中等教育 -「労働科」のカリキュラム

4年間の初等教育を終え、ハウプトシューレや総合制学校を中心に、前期中等教育に入る段階から、「労働科」などの名称で職業準備教育を行う教科が設けられる。多くの州では「労働科」だが、州によって「労働・経済・技術」などと名称が異なる場合がある。

この職業準備教育の一般的な内容(州ごとに多少の差異がある)は、1.地域における学校教育と職業教育・訓練2.職業選択と職業活動3.個人と労働市場の関係4.社会的、技術的、経済的条件を考慮した雇用機会と雇用の課題5.労働法の関連規定と青少年労働保護の重要な規定-など。

このような授業に加えて、学年が上がると(基礎学校入学から数えて第8、第9学年が多い)、ほぼすべての州で職場訪問あるいは企業実習を実施している。企業実習については、ハウプトシューレや実科学校などでは生徒全員、ギムナジウムでは希望者を対象とするのが一般的だ。実習の前後には志願表作成、面接のロールプレイング、関係者や専門家への質問と対話、実習結果の発表などのプログラムが組まれる。卒業間近の企業実習では、生徒の職業選択を考慮して、職業を1つに限定する。このほか、連邦雇用機関が所管している職業情報センター(BIZ)が学校を訪問し職業選択や相談窓口などに関する情報提供を行う。

(2)後期中等教育 -「デュアルシステム」による職業訓練

デュアルシステムは、義務教育終了後、職業学校に通いながら、主に企業内で職業訓練を受ける二元的なシステムである。職業学校は各州の教育省が所管する公立校であり、州の学習指導要領に従ってカリキュラムを組んでいる。一方、生徒は同時に企業(多くは私企業)において訓練ポストを得ている訓練生でもある。

職業訓練を開始する年齢は、2001年現在で19歳前後であり、1970年時点の平均16.6歳から上昇している。この原因としては、学校修了者の年齢が高くなったこと、上級専門学校等を経てから職業訓練を始める者が増えたこと、ギムナジウム修了者で職業訓練に移る者の増加などがあげられる。

職業訓練の期間は2年から4年で、多くの場合3年半程度である。訓練を終えると商工会議所や手工業会議所等の職能団体が実施する修了試験を受け、これに合格すると職業資格を得ることができる。修了試験は、二度まで受験可能である。

職業訓練修了後、訓練生が訓練を受けた企業に残る割合は、旧西地域で約6割、旧東地域で5割弱である。

3.最近の動向 -「デュアルシステム」の現状と問題点

デュアルシステムはこれまで、国内の他の世代に比べて若年層の失業率が相対的に低く安定していることなどから、有効な労働市場政策として評価されてきた。最新の失業率(本年4月)を見ても、全体の失業率が10.7%なのに対し、25歳以下の若年者は9.5%である。また、職業教育と資格取得、そして就労へのプロセスがスムーズに連携しており、キャリア形成にとっても優れたシステムと見られている。

しかし、最近の厳しい経済情勢と労働市場の変化、技術革新と産業構造の転換などから、デュアルシステムの有効性に対する疑問の声も出ている。

まず、企業が提供する職業訓練ポストの不足が深刻な問題となっている。連邦教育・研究省によれば、1990年に企業の28.7%が職業訓練を行っていたが、2001年には23.8%に低下し、低落傾向にある。また、連邦雇用庁によると、職業訓練の開始時期に当たる10月の登録職業訓練ポスト数は、2002年に約24万8000(対前年比約3万9000減)、2003年に約21万3000(対前年比約3万5000減)と、2002年から急速に減少傾向を強めている。デュアルシステムでは訓練の実施が企業に委ねられており、訓練コストの負担感が増大していることが主な原因である。

このような状況を改善するため、シュレーダー政権は、職業訓練の場を提供しない企業に対して課徴金の支払いを課す「職業教育訓練保障法」を提起し、本年5月初旬にこの法案は連邦議会を通過した。しかし分担金の賦課には企業や野党のみならず、与党内にも反対が出ており、同法の施行には紆余曲折が予想されている。

次に、デュアルシステムの訓練内容が、情報技術などの技術変化やサービス産業の増加などの構造変化にリアルタイムに対応できていないことがあげられる。また、産業によっては習得する技術の陳腐化が早まっていることも問題となっている。

さらに、訓練を受ける側の問題として、ハウプトシューレ修了証を持たないなど基礎的な学校教育を修了せずにドロップアウトする者や、職業訓練を途中で止めてしまう者の増加が浮かび上がっている。これらの層は労働市場に参入しようとしても、失業者になる割合が高い。第一次シュレーダー政権はこのような層の若年者に対する職業訓練や資格取得促進などを進める「青少年・若年失業者のための緊急プログラム」(JUMP)を1999年に開始し、この政策は現在もJUMP-PLUSとして引き継がれている。しかし、この評価は十分になされているとはいえず、政策の継続・見直しと経験の蓄積が必要とされている。


参考

  1. 『諸外国の若者就業支援政策の展開 -ドイツとアメリカを中心に-』(労働政策研究・研修機構 労働政策研究報告書 No.1)

2004年6月 フォーカス: 学校制度と職業教育

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