学校制度と職業教育
フランスの学校制度と職業教育

1.学校制度

義務教育の年限は、6歳から16歳までの10年間である。6歳から11歳までの5年間は小学校(エコール)で初等教育を受け、その後中等教育に進む。中等教育には前期(11歳から15歳までの4年間)と後期(15歳から18歳までの3年間)がある。前期課程はコレージュといわれ、ここでの4年間の観察や進路指導の結果に基づき、後期課程への振り分けが行われる。生徒は、リセ(高校)または職業教育リセで後期中等教育を受け、その後、進学を希望する者は高等教育に進む。高等教育は、国立大学・私立大学・グランゼコール(高等専門学校)・リセ付設のグランゼコール準備級等により行われる。これらの高等教育機関への入学には、中等教育修了と高等教育入学資格を併せて認定する国家資格(バカロレア)取得試験に合格していることが条件となる。なお、EUによる欧州統合が進展するなか、高等教育におけるフランス独自の学年制は段階的に廃止されている。新しい学年制は、「学士3年+修士2年+博士3年」というヨーロッパ基準の制度で、「358」制と呼ばれる(従来は「348」制)。2002年度から実験的に導入されているが、国内の全大学が358制に移行するのは2006年度の予定とされる。

フランスの学校系統図
School system in France

図

参考資料:H16年度文部科学省 教育指標の国際比較

就学前教育

就学前教育は、幼稚園又は小学校付設の幼児学級・幼児部で、2~5歳の幼児を対象として行われる。

義務教育

義務教育の年限は6歳から16歳までの10年間。

初等

初等教育は、小学校で5年間行われる。

中等教育

前期中等教育は、コレージュ(4年制)で行われる。このコレージュでの4年間の観察・進路指導の結果に基づいて、生徒は後期中等教育の諸学校・課程に振り分けられる(いわゆる高校入試はない)。第3,4学年では普通教育課程のほかに技術教育課程などで将来の進路に合わせた学習内容が提供される。技術教育課程は職業リセに設けられる場合もある。後期中等教育は、リセ(3年制)及び職業リセ(2年制、職業バカロレア取得を目指す場合は2年修了後さらに2年の計4年)等で行われる。

高等教育

高等教育は、国立大学(学部レベル3~4年制、2年制の技術短期大学部等を付置している)、私立大学(学位授与権がない。年限も多様)、3~5年制の各種グランゼコール(高等専門大学校)、リセ付設のグランゼコール準備級及び中級技術者養成課程(いずれも標準2年)等で行われる。これらの高等教育機関に入学するためには、原則として「バカロレア」(中等教育修了と高等教育入学資格を併せて認定する国家資格)取得試験に合格し、同資格を取得しなければならない。グランゼコールの入学に当たっては、バカロレアを取得後、通常、グランゼコール準備級を経て各学校の入学者選抜試験に合格しなければならない(バカロレア取得後に、準備級を経ずに直接入学できる学校も一部にある)。なお、教員養成機関として、主として大学3年修了後に進む教員教育大学センター(2年制)がある。

2.職業教育

中等教育の後期課程は、普通教育および技術教育を行うリセ(3年制)と、職業教育を行う職業リセ(2~4年制)で行われる。職業リセでは、主に就職希望者を対象に、職業資格の取得を目的とする教育が行われ、2年制の課程修了時に受ける国家試験に合格すれば、「職業適格証(CAP)」と「職業教育免状(BEP)」を取得できる。職業バカロレア取得を目指す場合は、さらに2年制の課程に進学する。

1980年代から若者の高い失業率が慢性的に続くなか、フランスでは「職業教育の強化」が教育政策の重要な柱のひとつに位置づけられてきた。特にクレッソン内閣において、若者の就職を促進するための職業教育の充実、とりわけ産学連携が推し進められた。

この産学連携において、政府は、特に中等教育の後期課程における「交互教育(alternnace:教育機関における倫理教育と、企業の実習を組み合わせた制度)」の充実を図った。学校での教育と職場での訓練を交互に行うことにより、実際の現場で必要な能力を身につけさせ、若年者の能力の向上と就職を促進することが狙いである。企業での実習期間は、職業リセのCAP取得課程(2年間)で年間7週間、職業バカロレア取得課程(CAP後2年間)で年間9週間とされる。職業教育課程における企業での研修期間については、1989年に制定された教育基本法(通称:ジョスパン法)新しいウィンドウへによりすでに義務づけられていたが、1997年5月9日付け通達により、具体的実施方法が定められた。企業側の協力もあり、「交互教育」による企業での実習を受ける生徒数は増加している。

このような「交互教育」は、高等教育レベルにも導入されている。大学第1・2期課程の教育規定を定めた国民教育省令(1997年4月)では、「職業体験制度」の確立が明らかにされた。この制度は、企業での実習を経験させることにより、卒業した後に即戦力として働けるような人材を養成し、就職率を上げることを目指すものである。なお、高等教育における実習期間は、第2期課程において、4ヶ月半~5ヶ月となっている。

こうした職業教育を受けることにより、各種の資格を取得することができる。フランスでは、労働協約や企業協定を通じて資格取得者に一定の賃金水準の保障が図られており、学校体系に応じて段階的な資格の体系が整備されている。これらの資格を労働協約等で用いられる職業能力段階と比較したものが表1である。最低CAP、BEPを取得しなければ職に就くことはできないとされる。このように資格制度が高度に発達したフランスでは、各職業教育訓練を通して取得した資格に応じて、就業可能な職業の範囲が明瞭に区分されている。こうしたことから、資格を持たない人に対する対策が大きな課題となっており、学業不振によりリセを中退した無資格の若者(18~22歳)を対象とした職業教育学校(「セカンド・チャンス・スクール」)も設置されている。

表1:学校教育と職業能力
職業能力、技能度の水準 学校教育の水準と資格
職業能力IまたはII
  • グランゼコール免状等を所有しているもの
  • 大学の第2期課程(学士、修士)、第3課程(博士)の免状等を所有しているもの
第3課程博士(DEA)
高等教育専門研究免状(DESS)
修士(Maitrise)
学士(Licencie)
職業能力III
  • バカロレア取得後、2年間高等教育をおさめ、所要の免状等を所有しているもの
大学1期免状(DUEG)
上級技術者免状(BTS)
技術短大免状(DUT)
職業能力IV
  • バカロレア取得、または大学か短大に在学したが資格を得ていないもの
普通バカロレア(BacGe)
技術バカロレア(BacT)
職業バカロレア(BacP)
職業能力V
  • 職業リセを修了し所要の免状等を所有しているもの
職業適格証(CAP)
職業教育免状(BEP)
- 初等教育修了証(CEP)と同等な免状
中等教育前期課程修了免状(BEPC)

(『フランスの労働事情』1990年p208/2001年p187および『専門高校の国際比較日欧米の比較』P38を参考に作成)

3.最近の動向

学校教育機関を中心とした職業教育が行われてきたフランスでは、従来大学入学を目指すリセと職業教育機関とがそれぞれの教育・訓練を行ってきた。しかし近年は、より多くの者が大学入学資格を取得できるように、教育資格と職業資格の共通化を図る施策を進めている。また、資格社会のフランスにおいて、職業資格の無い者が職に就くということはたいへん困難なことであった。このため、全ての生徒が何らかの資格を取得できるようにする政策を進めている。具体的には、留年率が高く学業不振が深刻な問題となっているコレージュにおける教育課程の多様化や、職業リセの職業準備学級への進級の拡大、個人の適性にあった教育の提供等が挙げられる。また、コレージュや職業リセは、商工会議所や地方自治体、民間団体と共同して職業情報の提供に努めるとともに、「交互教育」の体系的整備を進め、関係各機関のネットワークの構築に力を入れている。

大学における技術・職業教育の充実も進められている。グランゼコールに比肩する水準の専門教育を実現し、大学と企業との関係を強化して大学生の就職促進を図るという目的で、大学付設職業教育センター(IUP)が、全国の主要大学に1991年度から設置されている。同センターでは、企業の要求に即した人材の育成を目指し、工学、商学、一般行政、財務管理、情報・コミュニケーションの5専攻が設置され、いずれも全教育期間の3分の1を企業実習にあてている。修了者は「高度技術者マスター」の免状が授与される。これは大学4年修了で取得できる免状(メトリーズ)と同格であり、より実務の修得を重視した免状である。また、中級技術者養成を目的とした2年制の大学付設課程であるIUT(技術短期大学部)やSTS(中級技術者養成課程)に、第3学年の課程が新設され、従来よりも高い水準の資格を授与することが可能となった。

1970年代後半から陥った経済不況、慢性的に続く若年者の高失業率、そして欧州統合の進展などを背景に、フランスは「国際化・情報化に対応した人材育成」と「産学連携による職業教育の振興」を目指してきた。この方向性については、政権が交代しても一貫して維持されている。特に、産学連携の強化による人材育成については、EUも強い支援をしており、その成果や今後の動向が注目される。


参考資料

  1. 伊藤一雄・佐々木英一・堀内達夫(編)『専門高校の国際比較-日欧米の比較-』法律文化社、2001年
  2. 日本労働研究機構(編)『フランスの労働事情』日本労働研究機構、1990年/2000年
  3. 本間政雄・高橋誠(編)『諸外国の教育改革-世界の教育潮流を読む 主要6か国の最新動向-』ぎょうせい、2000年
  4. 文部科学省『教育指標の国際比較 平成16年版』独立行政法人国立印刷局、2004年

2004年6月 フォーカス: 学校制度と職業教育

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