労働時間制度
フランスの労働時間制度

労働時間は、労働法典新しいウィンドウへ第L212-1条~第L213-12条に定めがあり、週35時間とされている。週労働時間については従来、原則として39時間とされてきたが、1998年6月13日の「労働時間短縮に関する方向付けとインセンティブ付与のための法」(いわゆる「オブリ法第1法」)と2000年1月19日の「交渉にもとづく労働時間の短縮に関する法」(いわゆる「オブリ法第2法」)により労働法典が改正され、労働時間の短縮が実現された。()

週35時間制は、オブリ法により従業員21人以上の事業所では2000年2月から、そして20人以下の事業所では2002年1月から施行された。ただし、2001年9月にフランス政府は、中小企業に対して、時間外労働も含めた労働時間の上限の一時的引き上げを実施した。経済情勢をふまえ、中小企業の負担を軽減するためである。現行の労働時間制度の柱は以下の通り。

法律・制度の特色

1.法定労働の原則(第L21-1条)

拡張された集団協定や労働協約、又は企業や事業所の協定もしくは合意がある場合は、1年間を平均して1週間当たりの労働時間が35時間を超えず、かつ1年間の総労働時間が1,600時間を超えないときは、当該年の全て又は一部の期間において、週労働時間を変更することができるという「変形労働時間制・弾力的労働時間制度」を定めている(第L212-8条)。

従来労働法典では、「実労働時間」は「実際に職務が遂行されている時間 であり、着替えや食事に必要な時間を除く」と規定されていた。しかし、1993年11月の欧州委員会指令「労働時間編成の諸側面」に従い、オブリ法第1法で「実労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下にあり、職務遂行及び個人的な事柄を行うために中断することのない職務遂行に関連した労働時間をいう」とした新たな定義が導入された。さらに同法第2法において、下記の具体的な項目が付加された。

  • 食事時間と休憩時間を実労働時間に算入する。
  • 作業着の着用が法令、協約、就業規則、雇用契約で定められている場合で、かつその着用が作業場あるいは企業の敷地内で行われる場合は、実労働時間に算入する。
  • 1日の労働時間が6時間を超える場合の20分の休憩時間(オブリ法第1法にて規定)を実労働時間に算入する。

2.超過勤務時間と超過勤務手当

超過勤務時間とは、週35時間又は1年単位の変形労働時間制における年間1,600時間を超える労働時間を意味する(第L212-5条)。超過勤務時間については、以下の率で計算した超過勤務手当を支払わなければならない。

  • 週当たり8時間未満の超過勤務時間・・・25%
  • 週当たり8時間を超える超過勤務時間・・・50%

また、一定時間以上の超過勤務を行った場合、労働者には超過勤務手当に加えてさらに有給の「代償休日」を取得する権利が発生する。

3.上限規則

労働法典は、時間外労働も含めて、1週間当たり48時間を超えてはならないという「絶対的上限」を定めている。特別な状況下においても、1週間当たり60時間を超えてはならず、この場合には企業委員会もしくは従業員の代表の意見を聴取したうえで、労働監督官の許可が必要となる。

1日当たりの労働時間については、10時間を上限とするが、従業員代表の意見を聴取し、労働監督官の許可がある場合は、最長12時間まで延長することができる。

超過勤務時間についても、上限を定めている。超過勤務時間の上限の原則は、年間130時間で、重大な変形労働時間制の導入の場合は90時間とされている。この限度を超えた労働については、労働監督官の許可を必要とする。しかし、週35時間労働制の導入に際して、中小企業を中心とした使用者側の負担を考慮し、超過勤務時間の1年当たりの上限は、2002年10月より180時間に延長された。

最近の課題・動き

こうした労働時間短縮の法制化の背景には、1970年代後半からフランスが陥った深刻な経済不況や上昇傾向の続く失業率が存在する。フランスの時短政策の目的は、労働時間の短縮を軸とした新たな働き方を導入することにより、企業や経済の成長を促し、その方向を雇用増加につながる成長へ誘導させることであった。この雇用創出を目的としたフランスの時短政策は、「ワークシェアリング」が議論され始めた日本でも注目され、政府主導の労働時間短縮による「雇用創出型ワークシェアリング」と特徴づけられている(これに対し、オランダは政労使合意に基づいて進められた「多様就業型ワークシェアリング」、ドイツは労使間交渉に基づき企業レベルで雇用の維持を進めた「緊急避難型ワークシェアリング」とされる)。ただ、政府主導といっても、立法による全企業・事業所への時短の義務付けと同時に、その適用については企業内の労使間交渉に委ねられているという点が、フランスの特徴である。

ラファラン内閣は、2002年にオブリ法第2法に基づき労働時間制度に関する報告書新しいウィンドウへを作成している
(Gouvernement francais,La reduction negociee du temps de travail:Bilan2000-2001)。それによれば、2001年末までに民間部門従業員の53%、860万人(内フルタイム労働者は740万人)が、35時間労働制に移行し、オブリ法第1法及び第2法によって27万人の雇用が創出されたという。ただ、同報告書の調査時期である1998-2001年のフランスは、景気回復局面にあり、企業がより多くの労働力を必要としていた時期でもあった。

フランスの週35時間制は、「ワークシェアリング」「雇用創出」「仕事と家庭の両立」等というキーワードとともに注目されるが、その影響や効果の分析にはもう少し時間が必要である。


参考資料

  1. 奥田香子(2001)「フランスの雇用・時短政策と35時間労働法」『日本労働研究雑誌No.496』
  2. 清水耕一(2003)「フランス35時間労働法の性格と意義(PDF:239KB)新しいウィンドウへ」科研費助成研究 『35時間労働下のトヨタ生産システムの研究』(研究代表者清水耕一岡山大学経済学部教授)研究成果中間報告
  3. 日本労働研究機構(2002)『調査研究報告書No.149欧州のワークシェアリング-フランス、ドイツ、オランダ-』
  4. 日本労働研究機構(2002)「週35時間労働制がもたらした影響(PDF:404KB)」『海外労働時報No.321』
  5. 矢野昌浩(2002)「週三五時間労働時間法と雇用連帯省報告」『労働法律旬報 No.1524』

参考資料:

  1.  各国の労働時間制度比較

2004年5月 フォーカス: 労働時間制度

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