労働運動の現状:イギリス
新しい組合像の模索

  • カテゴリー:労使関係
  • フォーカス:2004年12月

統合による「スーパー労組」の誕生

AEEU(合同機械電気工組合)とMSF(製造科学金融組合)の合併で誕生したAmicus(アミカス)に代表されるように、英国の労働組合は1990年代から統合を繰り返してきた。2004年に入り、再び大規模統合の波が押し寄せている。民間最大労組Amicusは8月にUNIFI(金融関連組合)、続く10月にGPMU(グラフィカル・ペーパー・メディア組合)を相次いで合併。この結果、Amicusは15万人の組合員を新たに加え、120万人の組合員を擁する巨大組合となり、英国最大労組であるUNISON(公務部門労組)に迫る勢いとなった。UNISON自体、公共部門労組であるNUPE、医療部門労組COHSE、地方自治体労組NALGOの3労組が合併して創設されたもの。現在これに次いで組合員数が多いのは、T&G(輸送一般労組)の83万6000人、GMB(全国都市一般労組)の70万4000人となっている(図1参照)。Amicus、UNISON、T&G、GMBの4労組は「ビッグ4」と呼ばれ、英国労働運動の動向を左右する。

このほか2004年に行なわれた他の大規模な統合は、地域組合のISTC(鉄鋼労組連盟)と織物・衣料・靴製造業、小売業及び物流業の組合KFAT(全国ニットウェア・履物・アパレル産業労組)の合併などだが、こうした大型統合の動きはまだしばらく続くと見られている。90年代初頭から見られた組織再編の現象。当時は産業・業種・部門内での統合が焦点となっていたのに対し、最近では他部門産業組合と統合し、より巨大化するのが特徴だ。こうした統合には、どちらかというとなり振り構わずといった印象さえ受ける。英国の労組はなぜこうまでして大型化を目指すのか。

組織率低下と組合承認の減少

これには組織率低下に伴う組織の弱体化といった背景がある。だが、これは何も英国に限った現象ではない。組織率の低下は世界的な傾向だ。しかし、この組織率低下、組合員の減少といった現象は英国の労働運動にとって致命的な影響を与えかねない。何故なら英国の労働運動の特徴がボランタリズムにあるからだ。ボランタリズム、すなわち団体交渉など信頼に基づく紛争解決、法律の労使関係への不介入といった制度が英国の労使関係を形造ってきた。その前提には、使用者と対等に交渉できる強力な組合の存在が不可欠。しかし近年、労使の力関係が崩れつつある。明らかに使用者側に有利になっているためだ。その主な要因は、組織率の低下と使用者による組合承認の減少にあると言われている。組合承認(union recognition)とは、労働組合が企業内で活動することを使用者が承認するもので労使双方にとってきわめて重要なもの。これらは、労働市場の変化、女性労働者の増加など社会構造の変化が背景にあるが、やはりサッチャー政権下での組合規制の政治的影響が大きいと言えるだろう。

図2を見て欲しい。サッチャー氏が政権に就いた1979年には55.4%、90年代の初めには40%近くあった組織率が2001年には28.8%にまで落ち込んでいる。こうした変化は、英国の労使関係の特徴とされてきたボランタリズムの基盤、すなわち圧倒的に労働組合の闘争力を衰退させた。そしてこの傾向はブレア労働党政権に変わっても大きな変化を見せていない。むしろ最近は、EU指令を基に、労働組合とは別の従業員代表を通じた労働者参加を保障しようとする新たな潮流が生まれている。

組合承認(union recognition)については、1960年代まで承認は労使の自治に委ねられていたが、1971年労使関係法で承認法制が導入され、その後、承認法制は廃止、再導入、改正を繰り返してきた。組合承認の新規締結件数は、2年連続で大幅に減少している(表1参照)。

1999年労使関係法は、ここ数年の英国における雇用法制定の最終地点であり、1980年代に行なわれたサッチャー改革の方針を転換させるに至った。1997年に政権についた労働党は、労働組合運動に対する支援強化を公約にかかげ1999年組合承認に関する新たな法律-1999年雇用関係法-を成立させ、強制的な組合承認の手続きを制度化した。組合承認に関するTUCの報告書(2003年度版)は、雇用関係法について一定の評価をしている。しかし承認協定の増加分の多くが、同規則の法的強制力によるものではなく、労使の自主性に基づいて締結されていることから、1997年、労働党が政権に就いて以来推進されてきた労使協調路線いわゆる「パートナーシップ」が、とくに組合承認件数の増加に寄与していると考えられている。今回の報告書では、労使関係法は十分にその効果を発揮していると結論づけている。しかし、労働組合側では、昨年を上回る承認契約の新規締結件数の確保は難しいと考えているとの報告もあり、その理由として、合意が比較的容易な承認契約から先に締結に至る可能性が高く、それ以外については、使用者側が承認に強く反対していることが考えられる。TUCは政府に対し、簡略化された法的手続きの導入を含む、労使関係法の見直しを図るために、多くの重要な修正を行なうよう提案したとの報告もある。労働組合は現在、全交渉単位から40%の賛成票を得る必要があるが、TUCでは過半数の賛成票を条件にすべきであると考えている。さらに、棄権票は自動的に反対票とみなされている。TUCは、雇用している労働者が20人以下の中小企業が、労使関係法の対象から除外されている点についても反対している。今回の報告書では、現在よりも早い段階で、労働組合と労働者間の意思疎通の向上を図るなどの限定的な措置を含む、以上のような重要な問題が、政府の労使関係法改正案に盛り込まれていないとしている。

減少続く組合員数

DTI(英国貿易産業省)のLFS(労働力調査)によると、医療サービスなどの業種における労働組合加入者が増加した結果、2003年度の労働組合員総数は738万人となり1989年以降、初めて増加に転じた。ただし、本誌11月号で報じた通り、『組合認証官(Certification Officer)報告2003-2004』によれば、組合員の減少数をTUC(英国組合会議)加盟労組に限定して見ると、減少幅はより大きい。逆にTUC非加盟労組では組合員数は増加しているという結果がでている。実は、非加盟労組組合員数の増加が、TUC加盟労組の組合員数の減少を補うという構造は長年に亘り続いている。TUC加盟労組の組合員数は、英国における従業員の約21%に過ぎない。TUC非加盟労組の多くが公共部門に属しており、労組加入率は長年50%以上を維持してきた。一方、TUCの組合員は従来から、製造業部門の従業員が多数を占め、失業率が高いのが特徴。この事実をふまえ、TUCは近年、公共部門労働組合の組合員数の増加を図る方策を進めているものの製造業部門における組合員数の大幅な減少によって、成果を上げていない。政府が公共部門の雇用削減を目標に掲げていることから、これまでのように非加盟公共部門労組の組合員数の増加が、製造業部門に属するTUC加盟労組員数の減少を結果的に補うという構図はいつまでも続かないだろう。組合員の減少は組合財政の弱体化を招く。生き残りには、組織の統合しか選択肢がないというのが現状のようだ。

労働運動発祥の地、英国ナショナルセンターTUCも、こうした現状に手を拱いて見ているわけではない。状況を打開すべく、現書記長のブレンダン・バーバー氏が中心となって1997年、ニューユニオニズムキャンペーンをスタートさせ、オーガナイジングアカデミーを創設した。このポリシーは明快で、新しい産業(IT、サービス分野)、新しい労働者(パート、テンポラリーワーカー)の組織化にある。いわば、組織化という組合運動の原点に立ち返ろうとするものだ。ニューユニオニズムの旗印のもと、こうした試みが効を奏するか。多様化する労働市場をリードする労働組合像が求められている。

注:GPMUとUNIFI と は現在アミカスと統合

注:RCNとBMAはTUC未加盟

出典:TUC資料を基に作成(RCNとBMAの組合員数については『組合認証官報告2003-2004』を基に作成)

図2:英国組合組織率の推移

図2 英国組合組織率の推移

資料出所:国際労働比較2004(労働政策研究・研修機構)



2004年12月 フォーカス: 労働運動の現状

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