外国人労働者受入政策
ドイツの移民政策と新移民法

欧州の「移民大国」

約733万5000人、全人口に占める比率が8.9%にのぼる外国人が居住しているドイツ(2003年末現在、EU国籍所有者を含む)。欧州では外国人数が最も高く、外国人比率も英国やフランス(英3.4%、仏6.1%、ともに99年。OECDによる)に比べ高い。英・仏では旧植民地出身の外国人が多いのに対し、ドイツでは高度成長期のトルコ人を中心とする外国人労働力の受入れ、90年代のドイツ系を含む東欧からの移民など、他の先進国とは異なった特徴がみられる。73年の第一次オイルショック以降増加傾向にある外国人労働者に対して、これまでドイツ政府は抑制的な政策を取ってきたとされる。一方、ITなど専門性の高い分野では、高い資格をもつ外国人労働力の導入が主張され、00年には、これらの労働力を対象とする「グリーンカード」のシステムが導入された。また、外国人の在住許可の簡素化をはじめとした移民、難民受入れ制度の整備を目的とする「新移民法」が、01年11月の法案提出以降、議決方法をめぐる問題などにより長期にわたる検討を経た後、今年7月に可決された。このようなドイツの現状と政策を、労働の側面を中心に概観する。

移民法の成立とその背景

旧西独では60年代に外国人労働力受入れが最盛期を迎え、73年にはオイルショックを契機として新規の外国人労働者募集が中止される。しかしその後、既住の外国人の家族呼び寄せ、東西冷戦の終焉やバルカン半島情勢の悪化による東欧からの難民受入れなどにより、外国人数は増加の一途をたどった。70年当時4.9%だった外国人比率は、80年代に7%台となり、90年代中盤まで増えている(久本憲夫「ドイツの外国人と新移民法」、『国際経済労働研究』2003年2月号による)。現在の外国人数(03年末、連邦統計庁による)を出身国別にみると、合計約733万5000人中、EU(旧加盟15カ国)出身者が約185万人を占めるが、トルコ出身者はこれより多い約187万8000人である。EU新加盟国の中ではポーランド出身が約32万7000人と多く、その他欧州では、バルカン半島地域のユーゴスラビア(セルビアおよびモンテネグロ)約56万8000人、クロアチア約23万7000人、ボスニア・ヘルツェゴビナ約16万7000人が際立っている。その他では、アジア約91万2000人、アフリカ31万1000人、アメリカ(北米と南米の合計)約22万8000人と、比較的分散している。

現在の外国人比率の高さは、労働市場にも影響を及ぼしている。今年9月のデータによると、ドイツの失業者数約425万7000人のうち、外国人はその12.5%に相当する約53万4000人を占める。全体の失業率が10.3%なのに対し、外国人の失業率は20%と、ほぼ2倍の数字である。

このような現状を背景として生まれた新移民法は、グリーンカード制度(後述)にみられる専門的・高資格労働者の積極的な受入れ要素をもつ一方で、経済移民一般の受入れ要件を厳しくしたものとなっている。この新移民法は02年3月に連邦参議院で可決、03年1月より施行される予定だった。しかし同院における議決方法が憲法裁判所で「違憲」とされ、その後与野党の度重なる調整を経て、今年7月にようやく可決、05年1月より施行される運びとなった。

移民受入れ制度の整備

新法によって、外国人受入れから国内統合プロセスまでの流れが整理された。これまでは「有期および無期の滞在許可」「滞在権」「滞在承認」「滞在資格」と分かれて複雑だった認可の制度は、有期の「滞在許可」、および期限を定めない「居住許可」の二つに統合される。これらの認可業務は、旧来の関係組織を改組して新設される「連邦移民・難民局」が行う。その主な任務は、1)外国人の「中央登録」の実施、2)教育など統合プログラムの展開と実施、3)自由意思による帰国促進措置の実施、4)連邦雇用機関など関係機関との労働移民に関する情報協力--などである。

労働力移入に関しては、高資格労働者(エンジニア、情報技術者、数学・科学関係の専門家、教育・研究者など)について、当初から継続的な滞在を想定し、期限を定めない「居住許可」の付与を定めている。一方、それ以外の労働者は、原則として73年以来の「募集停止」状態が継続され、例外は、外国人労働者の雇用に「公共の利益」が認められる場合や東欧各国との協定に基づく受入れなど、限定的である。なお、移民受入れの制度化を促進するために当初法案に盛られていた「点数制」導入(資格などを点数化し、最適な外国人受入れ選択手続きを実施する)は、移民に抑制的な立場を取る野党CDU・CSU(キリスト教民主・社会同盟)の反対で削除されている。

自営業者の受入れについては、ドイツ国内で「100万ユーロ()以上の投資および最低10人の雇用創出」が満たされれば、「滞在許可」(有期)が付与される。学生に対しても、学位取得・卒業後に就業する道が開け、求職活動のため卒業後最長1年ドイツ滞在を許可される。これらの「滞在許可」および「居住許可」取得のためには、これまでは労働許可と別個に手続きしなければならなかったが、労働管理機関の同意を前提に、外国人担当機関が一括して取り扱うこととなった(いわゆるワン・ストップ・サービス)。

高資格労働者の受入れについては、今回の新法に先んじて、IT技術者を主な対象とする「グリーンカード制度」が00年8月より省令によって導入されている。対象者はIT分野で大卒程度以上の資格をもっているか、同分野で年間10万マルク(当時。約5万ユーロに相当)以上の年収を得る条件で労働契約を結んでいることが必要とされた。この制度自体は、来年の新移民法施行に伴い、04年末で役割を終える予定である。過去4年間で付与した労働許可件数は1万7000件にとどまり、政府が予定していた「最大2万件」には及ばなかった。制度導入後、ITバブルの崩壊、米国テロ事件などにより景気が低迷したことも、制度が最大限に機能しなかった原因と考えられている。

新移民法で予定している高資格労働者受入れについて、連邦政府が設けている移民問題評議委員会は、2005年にドイツ国内で2万5000人の需要があると報告している。同委員会はドイツが高失業状態であるにもかかわらず、高資格の「適切な、特定の労働市場にマッチした」移民労働者が必要であると指摘した。今後、ドイツでは、人口の動きと労働市場の動向を背景に、新移民法施行後の政策評価・検討が進むと考えられる。



2004年11月 フォーカス: 外国人労働者受入政策

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