外国人労働者受入政策
移民の社会的統合めざすEU
—共通の移民政策の策定にむけて

EUは1990年代に、ソ連崩壊、東西ドイツ統合、バルカン紛争、ユーゴ崩壊などといった政治情勢を背景に、第三国からの移民の主要な目的地となった。1992年にその数は、EU史上最大規模の130万人を記録。その形態も、亡命者、難民、移民の家族、労働者、越境移民、短期移民――などと多様化した。同時に、不法移民も増加の一途をたどり、不法入国や人身売買が社会問題となり、合法化(アムネスティ)の動きが活発化した。

一方、受け入れ側のEU諸国でも、IT部門、医療などの熟練部門、農業、建設、旅行、家内サービスなどの低熟練部門や一部地域で人手不足により移民への需要が増加したばかりでなく、長期的にも、移民の補充なしには、今後迎える深刻な高齢化に対応できない現実に迫られている。EUの推計によると、EU25カ国の労働力人口は、2020年までに現在の3億300万人から2億9700万人に、2030年には2億8000万人にまで減少。逆に、65歳以上の高齢人口は、2000年に7千100万人であったものが、2020年には9千300万人、2030年には1億1000万人に急増し、高齢依存率が23%から40%へとほぼ倍増する(図1)。国連の推計では、EU15カ国の労働力人口の維持には、2050年までに約7900万人(年間140万人)もの移民の補充が必要だという。

図1 EU25カ国の年間人口成長率
(65歳以上及び15-64歳層)

図1

出所:Eurostat

これらを契機にEUは、移民・難民問題を「共通の問題」と捉え、20世紀後半まで主流であった「ゼロ移民政策(厳格な規制)」から、「共通のフレームワークによる秩序ある流入管理」へと政策転換を図り、ここ数年次々と新方針を打ち出している。EUは、労働市場のニーズをみたす移民の受け入れ及び統合を、「欧州雇用戦略」の掲げるリスボン・ターゲットの達成に必要な一手段としても位置づけ、入国管理、統合政策、差別の除去、不法移民対策、加盟国民及び第三国民の雇用ギャップの削減――などの多面的なアプローチで、共通政策策定にむけた取り組みを急いでいる。

EU共通の移民政策の枠組み

EUの移民政策への法的権限は、1999年に発効したアムステルダム条約と、それに続くタンペレ欧州理事会決議を土台に確立している。同条約が具現化した基本理念は、1)人道的、経済的にバランスの取れた受入を原則とする移民及び亡命・難民の流入管理に向けた総合的なアプローチを策定する、2)域内に居住する第三国民への公正な処遇を実現する、3)送り出し国及び中継国とのパートナーシップを移民管理戦略の重要項目とする、4)ジュネーブ条約及び国際条約に基づく各国義務を尊重した共通の亡命・難民保護政策を確立する――の4原則(デンマークが「オプトアウト(除外)」、イギリス及び英国が「選択的参加(オプトイン)」であるほかは、全加盟国を対象とする)。これに基づいて欧州委員会は、1)受け入れ体制整備、2)送り出し国の状況(頭脳流失問題等への対策を含む)、3)統合政策、4)不法移民対策――の4点に焦点をあて、第三国民の入国許可及び居住条件に関する共通の法的枠組みの策定と、EU法制がカバーしない諸政策の段階的ガバナンスに取り組んでいる。

このうち入国許可及び居住条件については、1)EUに1年以上合法的に居住する第三国民の配偶者及びその子女を対象とした家族再統合に関する指令、2)5年以上の長期滞在者に対する自国民と均等待遇に関する指令、3)人身売買及び密入国の被害者に対する居住許可に関する指令――の3指令を既に採択。また、学生の受け入れに関する指令について、2004年3月時点で政治的合意が成立しているほか、研究を目的とする第3国民の受け入れに関する指令が議論のたたき台にあがっている。就労目的の第三国民の受け入れに関する指令については、現時点で加盟国の合意が得られず、欧州委員会はこれを、2004年下半期の交渉課題のひとつに位置づけている。

一方、統合政策に関しては、人種差別に対する最低限の保護に関する指令及び雇用差別禁止に関する指令を2000年に採択しているが、加盟国の実施レベルで遅れが目立っている。このため欧州委員会は、2001年に、1億ユーロの資金を注ぎ込んで6ヵ年の差別除去行動計画を策定したほか、2003年6月には、移民・統合・雇用に関する政策文書を採択。各加盟国に「統合コンタクトポイント」を設置して、国レベルの実施をモニターしている。社会保障分野では、2003年6月に、合法的な第三国民にEU加盟国民と同等の権利を付与する新規則が発効。また、第三国民の雇用促進のため、移民の技能・資格の相互認証の検討も進める方向だ。なお、移民の政治参加については、EU25ヶ国の大半が地方自治体レベルでの一定の選挙権を移民に認めているが、EUは、より広範な政治的権利の付与を求めている。

不法移民対策

秩序ある合法的な移民の流れを促進し、移民の社会的統合を目指すためには、急増する不法移民への対処も不可欠だ。IOM(国際移住機関)の2000年の推計によると、EU15カ国における不法移民数は少なく見積もって3百万人程度。年間ベースだと、ヨーロッパ警察(EUROPOL)の推計で、約50万人の非正規労働者が流入している。加盟国の一部では、不法移民の急増に伴い、合法化(アムネスティ)を実施。例えば、フランスでは、アムネスティを認められた外国人労働者が全移民の4%、ポルトガル、スペインでは14%、ギリシャ、イタリアでは25%にも及ぶ。

欧州理事会は2002年2月、不法移民・人身売買に関する包括的行動計画を採択。不法移民対策の柱として、1)査証政策、2)情報交換・分析の促進、3)国境管理、4)警察協力強化、5)外人法及び刑法上の罰則強化、6)再入国・送還政策――の6分野を定め、各加盟国との連携で、コントロールを強化している。これを具現化するため欧州理事会は、同年11月に、加盟国の国境管理に関する行動計画、不法移民の帰還に関する行動計画も採択している。

第三国との連携強化

このほかEUは、送り出し国・受入国双方にメリットのある持続可能な移民管理のアプローチの一環として、第三国との連携に注力。この目的のため新規予算を組み、2001年には1000万ユーロ、2002年には1250万ユーロを投入した。移民管理に関する問題やフレームワークが、EUと送り出し国・中継諸国との対話や、地中海諸国(バルセロナ・プロセスによる協力関係)やアジア欧州会合(ASEM)といった地域同盟との対話にも体系的に導入されつつあるほか、加盟国間レベルの二国間協定の締結も進んでいる。

今年5月に10カ国を加えて25ヶ国体制へと拡大し、比類ない規模の地域統合を実現したEU。多国協調主義に基づく21世紀の拡大EUの世界戦略は、さらにその境界線を、東へ、南へと広げる勢いだ。それは、域内労働力の自由移動の保障のみならず、域外諸国との関係強化を通して、積極的な第三国民の受け入れや社会的統合を実現しようとする移民政策にもあらわれている。2001年時点では、第三国民がEU15カ国全体の雇用に占める割合は3.8%(1430万人)(図2)に過ぎない。だが、高齢化の進展に伴い、その割合は増加していくことだろう。あらゆる人種、民族、思想、歴史・文化的多様性・多元性を容認した「社会的結束」を目指す拡大EUは、域内においても、対外的にも、これまでにない国際協調のあり方を模索しつつ、変容を遂げているといえよう。

図2 EU15カ国の人口構成
(2001年1月時点)

図2

出所:Eurostat


参考資料

  1. IOM、World Migration 2003 Managing Migration Challenges and Responses for People on Move (Geneva, IOM, 2003).
  2. COM(03)336 of 03.06.2003: Communication from the Commission to the Council, The European Parliament, the European Economic and Social Committee and the Committee of the Regions on Immigration, Integration and Employment.
  3. COM(04)508 of 16.07.2004: Communication from the Commission to the Council, The European Parliament, the European Economic and Social Committee and the Committee of the Regions: First Annual Report on Migration and Integration.

2004年11月 フォーカス: 外国人労働者受入政策

関連情報