定期賞与と福利厚生費の一部を最低賃金の算入範囲に含める最低賃金法の改正

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  • 国別労働トピック:2018年7月

韓国の国会は5月28日、最低賃金の算入範囲を拡大する最低賃金法改正案を可決した。2019年1月から毎月1回以上定期的に支給される賃金のうち、賞与は月額最低賃金の25%を超える部分、現金で支給される福利厚生費は同7%を超える部分が最低賃金に算入されることとなる。この比率は段階的に縮小され、2024年以降は全額が最低賃金に算入される。

文政権の大幅な最低賃金引き上げ

文大統領は2017年の大統領選挙において、時給6,470ウォンの最低賃金を2020年までに1万ウォンに引き上げると公約した。

韓国政府は、2018年1月1日から最低賃金を16.4%引き上げ、時給7,530ウォンとした。ここ5年間の平均引き上げ率7.4%を上回る大幅な改定であり、中小企業の人件費負担の増加が懸念された。政府は、従業員30人未満の小規模企業に対する支援策として、そこで働く約300万人の労働者に対し、毎月最大13万ウォン(2018年は総額2兆9,700億ウォン)を支援することとした。

韓国の賃金体系は非常に複雑であり、賞与や福利厚生費が実質的な賃金として定期的に支給されている。基本給が最低賃金水準であったとしても、定期賞与や福利厚生費と合計すると年収が高い労働者がいる。最低賃金の引き上げによりこうした労働者の基本給が引き上げられ、定期賞与や福利厚生費が支給されない低賃金労働者との格差がさらに拡大する恐れがあった。

最低賃金法改正までの経緯

労使及び公益委員で構成される最低賃金委員会は2017年7月15日に2018年の最低賃金を決議する際、最低賃金の算入範囲などの制度改善に向けた課題を議論し政府に建議することに合意した。これに基づき、専門家によるタスクフォースが設置され、2017年9月から12月まで労使が提起した課題を議論し、12月22日にタスクフォース案を発表した。最低賃金委員会は2018年1月からタスクフォース案について議論したが合意に到らず、同案は3月7日、政府に移送された。

政府は最低賃金法改正案を国会に提出し、国会の環境労働委員会での労使からの意見聴取、審議・議決を経て、同法案は5月28日の本会議で可決された(2019年1月1日施行)。

最低賃金法の主な改正内容

法改正により、毎月1回以上定期的に支給される賃金は最低賃金に算入されることとなった。ただし、次の賃金は算入されない。

  1. 勤労基準法の所定労働時間あるいは所定労働日について支給する賃金以外の賃金で、雇用労働部令で定める賃金(超過勤務手当など)
  2. 賞与、その他これに準ずるものとして雇用労働部令で定める賃金の月の支払額のうち、当該年度の時給最低賃金を基準に算定された月の換算額の25%に相当する部分
  3. 食費、宿泊費、交通費などの労働者の生活補助あるいは福利厚生のための性質の賃金として、次のいずれかに該当するもの
    • a)通貨以外のもの(現物)で支給する賃金
    • b)通貨で支払われる賃金の月の支払額のうち、当該年度の時給最低賃金を基準に算定された月の換算額の7%に相当する部分

これにより、毎月1回以上定期的に支給される賃金のうち、賞与は当該年度の時給最低賃金を基準に算定された月額最低賃金の25%を超える部分、現金で支給される福利厚生費は同7%を超える部分が最低賃金に算入される。

最低賃金に算入されない定期賞与及び福利厚生費の比率は表1のとおり段階的に縮小され、2024年以降は全額が最低賃金に算入される。最低賃金の算入範囲の拡大を理由に、賃金総額を以前よりも引き下げることは違法である。

表1:定期賞与、現金支給福利厚生費の最低賃金未算入率
年度 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年~
定期賞与 25% 20% 15% 10% 5% 0%
現金支給
福利厚生費
7% 5% 3% 2% 1% 0%

出所:韓国雇用労働部「最低賃金法改正の主な内容」

使用者が1カ月を超える周期で支給する賃金を、総額の変動なしに毎月支給するよう変更する場合、特例として勤労基準法で義務づけられた過半数労働組合または過半数代表者との合意なしに就業規則を変更することができることとした。ただし、賞与の支給が労働協約に規定されている場合は、労使合意に基づき労働協約を変更する必要がある。

最低賃金の算入範囲拡大による影響

最低賃金の算入範囲拡大の影響を企業規模別にみたのが表2である。既存の最低賃金の影響を受けていた労働者(最低賃金の引き上げにより、賃金引き上げが必要な労働者)の91%は算入範囲拡大後も最低賃金の影響を受け、最低賃金引き上げにより賃金がそのまま引き上げられる。

表2:最低賃金の算入範囲拡大後の企業規模別影響率 (単位:千人、%)
企業規模 労働者数 影響率 影響率
増減率
現在 改正後
全規模 15,354 21.6 19.7 -9.0
1~4人 4,077 38.9 36.6 -5.9
5~9人 2,036 22.2 20.8 -6.2
10~29人 2,895 17.6 15.9 -9.8
30~99人 2,661 15.9 13.8 -13.1
100~299人 1,739 14.8 12.3 -17.0
300人以上 1,947 4.6 3.2 -30.2

出所:韓国雇用労働部「最低賃金法改正の主な内容」

最低賃金の影響から脱する労働者の割合は全体で9%に過ぎず、企業規模が大きく、所得水準が高いほど、その割合が高い。小規模企業の労働者ほど、定期賞与や現金で支給される福利厚生費の割合が低く、算入範囲の拡大後も最低賃金の影響から脱する割合が低い。 最低賃金の算入範囲拡大の影響を所得分位ごとにみたのが表3である。年収2,500万ウォン以下(所得1~3分位)で最低賃金の影響を受ける労働者の少なくとも93.3%(最低301万8000人)は、算入範囲拡大後も最低賃金の引き上げ率と同率で賃金が引き上げられると推定される。

表3:最低賃金の算入範囲拡大後の所得分位別影響率 (単位:千人、千ウォン、%)
所得
分位
労働者数 平均賃金 影響率 影響労働者数 影響率
増減率
現在 改正後 現在(A) 改正後(B) 差(A-B)
全体 15,354 2,530 21.6 19.7 3,318 3,021 -297 -9.0
1/5 3,172 824 66.9 65.4 2,122 2,075 -47 -2.2
2/5 3,037 1,476 30.9 28.2 939 855 -84 -8.9
3/5 3,025 2,005 5.7 2.9 174 88 -85 -49.1
4/5 3,057 2,861 1.7 0.1 51 2 -49 -96.0
5/5 3,063 5,528 1.1 0.0 33 0 -33 -100.0

出所:韓国雇用労働部「最低賃金法改正の主な内容」

ただし、定期賞与または福利厚生費が月額最低賃金のそれぞれ25%または7%を超える最大6.7%(最大21万6000人)の労働者は、算入範囲拡大後、最低賃金の引き上げ率と同率の賃金引き上げはないものと推定される。

2018年の月額最低賃金157万ウォンが2019年に10%引き上げられ、173万ウォンになった場合の事例が表4である。事例1では、月額最低賃金173万ウォンに対し、定期賞与は25%未満、福利厚生費も7%未満のため最低賃金に算入されず、基本給が10%引き上げられ、173万ウォンとなる。

事例2では、月額最低賃金の25%を超える定期賞与7万ウォンと月額最低賃金の7%を超える福利厚生費5万ウォンの合計12万ウォンが最低賃金に算入される。このため、基本給の引き上げは173万ウォンから12万ウォンを差し引いた161万ウォンでよいことになる。

事例3では、月額最低賃金の25%を超える定期賞与3万ウォンと月額最低賃金の7%を超える福利厚生費18万ウォンの合計21万ウォンが最低賃金に算入される。しかし、月額最低賃金173万ウォンから21万ウォンを差し引くと152万ウォンとなり、前年の基本給を下回るため、基本給は前年同額の162万ウォンに据え置かれる。

表4:最低賃金を10%引き上げる場合の事例(2018年:月額157万ウォン⇒2019年:月額173万ウォン) (単位:万ウォン)
表4:画像

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出所:韓国雇用労働部「最低賃金法改正の主な内容」に基づき作成

最低賃金法改正の評価

政府は、今回の最低賃金法改正を、低賃金労働者の賃金保障と中小企業の負担軽減とのバランスを追求したものと説明している。

経済界は、最低賃金の急激な引き上げによる企業負担が軽減されると歓迎した。労働組合側は、賃金というより使用者が「福祉の恩恵」として提供する食事手当、通勤手当、住宅手当などの福利厚生費まで最低賃金に入れるのは不合理だと強く反発した。

参考資料

  • 韓国雇用労働部「最低賃金法改正案(5.28国会通過)関連の主な内容」2018年6月7日ほか

参考レート

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