シェアリングエコノミー従事者の権利保護をめぐる議論

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  • 国別労働トピック:2018年3月

シェアリングエコノミー従事者が、労働者としての権利を求めて使用者を提訴する複数のケースで、原告の訴えを認める判決が相次ぐ中、雇用法上の区分の明確化をはじめとして、従事者の権利保護に向けた制度改正の必要性が議論されている。

労働者と認められないケースも

シェアリングエコノミーの従事者は、通常、自営業者として扱われ、最低賃金や休暇手当(有給休暇)などが適用されないほか、事業者側には社会保険料の拠出が発生しないなど、被用者や労働者とは制度上の扱いが異なる。しかし、実態は従属的な労働者でありながら、契約上は自営業者として扱われることで、本来適用されるべき法的な権利が保障されていないとして、従事者が事業者を提訴する動きがみられ、雇用審判所がその主張を認める判決が相次いでいる。いずれも、従事者は自営業者であるとの事業者の主張は実態に即していないことを指摘する内容となっている。11月には、昨年の雇用審判所の判決を不服としたウーバー社(配車サービスのプラットフォームを提供)の上告について、雇用控訴審判所が棄却する判断を示した。判決文は、同社のドライバーは自身の事業ではなくウーバー社の輸送サービス事業に組み込まれた形で役務を提供しており、また同社の管理を受けていること、あるいは本人以外の代替要員による実施も認められていないなど、雇用審判所による一連の指摘事項を確認、ドライバーを労働者と認める雇用審判所の判断を支持している(注1)

一方で、中央仲裁委員会(Central Arbitration Committee)(注2)は同月、飲食店の料理の配達サービスを行うデリバルー社の配達従事者に関して、労働者とは認められないとする判断を示した。ロンドン市内のカムデン地区(注3)の従事者を組織した独立系労組IWGB(Independent Workers Union of Great Britain)が、団体交渉権を有する労働組合として同社に承認を求める申し立てを昨年11月に行っていたものだ(注4)。中央仲裁委員会は、デリバルー社と配達従事者の間の契約書の内容に注目、同社が5月の審理開始直前に行った改訂により、代替要員による配達が認められていること、また実際にもそうした実態があることが使用者側の証人により示されたことなどを理由に挙げ、従事者ではなく自営業者であるとして、IWGBの承認申請を却下している。

現地メディアによれば、自転車便の配送従事者による雇用審判所への申し立てで今年1月に敗訴したシティスプリント社は、雇用控訴審判所におけるウーバー社の敗訴からほどなく控訴の取り下げを決めており、原告の配送従事者に対して、雇用審判所の判決に前年の休暇手当にあたる200ポンドあまりを支払うとみられる。一方で、前後して実施された契約文書の改訂により、従事者の自営業者としての位置付けの明確化がはかられたとされる。原告を支援したIWGBは、改訂の前後で働き方自体に変更はないにもかかわらず、新たな契約により、従事者には雇用審判所が認めた労働者としての権利が保障されないままであると述べ、同社は制度を悪用している、と批判している。

法的区分の明確化の必要性

シェアリングエコノミーや派遣労働、待機労働契約など、新しい働き方の拡大に伴う労働時間や報酬などの不安定さの問題への対応策をめぐっては、政府の依頼を受けた専門家(注5)が報告書を作成(7月に公表)、多岐にわたる制度改正が提案されたところだ。報告書は、雇用法上の区分に関する定義の明確化をはかり(注6)、従事者自身(あるいは使用者)が自らの法的な位置づけについて容易に判断可能とするよう提言。その際、労働者と自営業者を区別する基準として従来重視されてきた、代替要員による役務提供の可否よりも、使用者による管理(報酬額や、業務に関わる指揮命令など)の度合いを重視するよう求めている。また、労働者相当の者には、休暇手当や傷病手当の権利などを付与する一方で、最低賃金制度については、時間に基づく適用は適切ではないとの考え方から、平均的な報酬が最低賃金の1.2倍以上となることを使用者が示すことができれば、現行の最低賃金制度における出来高払い(piece rate)によることを提言している。

専門家による報告書を受けて、従来からシェアリングエコノミー従事者の権利保護に関する検討を行っていた議会の雇用年金委員会とビジネス・産業戦略・技能委員会が合同で検討会を設置、関係者からのエビデンスなどを検証の上、11月に法改正を含む提案をまとめた報告書を公表した。大きくは、専門家による報告書の提案を踏襲する内容で、雇用法上の区分の明確化や、違反雇用主に対する罰則の強化徹底などを求めている。一方、専門家報告書がこうした労働者に対する最低賃金のより柔軟な適用を提案しているのに対して、委員会報告書はこうした逸脱を認める法改正を行わないよう政府に要請している。

政府は、専門家報告書による各種の制度改正案に対して、年明け以降に方針を示すとみられる。

雇用年金委員会およびビジネス・産業戦略・技能委員会による提言(要旨)

  • 雇用法上の身分に関する定義を明確化、労働者と自営業者を区別するにあたっては、代替要員による役務提供の可否よりも、企業による管理監督を重視する。
  • 一定規模以上の自営業者を利用する企業に対しては、「労働者として扱うことを基本とする」(worker by default)法制度を導入。
  • 契約上、就業時間が定められていない労働者に対して、最低賃金に加算額(プレミアム)を設定する制度を、低賃金委員会(最低賃金制度に関する諮問機関)の下で試行的に実施。
  • 勤続期間を要件とする雇用法上の権利について、勤続の中断後も継続を認める中断期間を現行の1週間から1カ月に延長。
  • 類似の違反により雇用主が敗訴している事案について、高額の罰金や裁判費用の支払い命令をより頻繁に発行することを雇用審判所に義務付ける法改正、また賃金や法的地位、労働時間に関する集団訴訟の活用の促進。
  • シェアリングエコノミー従事者に関して、最低賃金の適用を緩和する法改正を実施しない。
  • 雇用主に対する雇用条件明細書(written statement of employment condition)の提供義務の範囲を、現行の被用者から労働者に拡大、また就業初日からその権利を保証、7日以内の提供を義務化。
  • 情報提供・協議規則の適用の要件となる従業員数(50人以上規模)の算定に、労働者数も加算(現状は被用者のみ)、また雇用主への申し入れに関して要件化されている参加従業員の比率も10%から2%に引き下げる。
  • 派遣労働者について、派遣先の直接雇用労働者との間の均等義務の逸脱を認める、いわゆる「スウェーデン型」逸脱(派遣事業者が派遣労働者を直接雇用、派遣先での労働条件等に関する均等義務の逸脱を認めるもの)の廃止。
  • 違反雇用主に対する罰則・罰金の強化、違反事業主の氏名公表の対象を非偶発的な(non accidental)違反者に拡大。
  • 新設された労働市場監督責任者(Director of Labour Market Enforcement)や各監督機関に対して、取り締まりのほか予防的活動の実施に必要な予算を提供、追加的な財源を要する場合は違反組織からの罰金引き上げにより対応。また今後5年間で責任者に与えられる権限と予算に関する方針を示すべき。

出所:House of Commons Work and Pensions and Business, Energy and Industrial Strategy Committees”A framework for modern employment”

参考資料

参考レート

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