高齢就業者の増加と年金政策の転換

カテゴリー:高齢者雇用

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  • 国別労働トピック:2017年12月

ドイツでは2007年に、年金政策の大きな転換があり、公的年金支給開始年齢の引き上げが決定された。以降、高齢者の就業率は上昇する傾向にあり、以後もその流れを促進する政策が導入されている。

2007年、年金政策を転換

かつてドイツでは、若年者や長期失業者の雇用機会拡大のため、高齢者の早期退職を勧奨していた。しかし、次第に少子高齢化に伴う「社会保障財政の悪化」や、「労働力人口の減少」が深刻な政策課題として語られるようになった。そこで、公的年金制度の維持や熟練労働者不足の解消を目的として、2007年に公的年金支給開始年齢の引き上げが決定された。引き上げは2012年に始まり、2029年までの長期にわたり、65歳から67歳へ段階的に引き上げられる。最終的に67歳で年金を受給するのは、1964年以降に生まれた人である。

高齢就業促進策も後押し

公的年金を受給しながら、月450ユーロまで非課税で働けるミニジョブ雇用(注1)には高齢者も多い。しかし、時給の下限がなく、低賃金労働の温床になっているとの批判があった。そのため2015年には、ミニジョブも含む全労働者を対象に法定最低賃金を導入したが、これは同時に高齢者の労働条件の改善にもつながった。さらに2017年1月からは、高齢者の就業を促すため「フレキシ年金(Flexi Rente)」を新たに導入した。これは、法定年金受給年齢を超えて働く高齢就業者のパートタイム労働と部分年金の関係を改善するものである。具体的には、それまで年金以外の追加収入が月450 (年5400)ユーロを超えると、年金受給額が段階的にカットされていたものが、新制度では上限が引き上げられ、月525(年6300)ユーロの収入を得ても、年金を満額受け取ることができるようになった。

高齢就業率の上昇

こうした政策の影響もあり、高齢者の就業率は、近年確実に上昇している。60~64歳の就業率は、2006年に29.6%だったが、2016年には55.7%と約2倍近く上昇した。また、65~69歳の就業率は、2006年に全体の6.6%のみだったのに対し、2016年には15.4%まで上昇した(図1)。

図1:高齢者の就業率(年齢別、2006/2016年)
図表1

  • 出所:Destatis(2007)

今後の政策展望

現地紙(Handelsblatt)によると、少子高齢化を背景に、政府の社会保障予算は増加し続けている。2016年の社会保障費は9180億ユーロだったが、2017年には9620億ユーロ、2021年には1.1兆ユーロまで増加することが見込まれている。社会保障費の最大支出項目は「年金」で、2000年から2016年にかけて、2170億ユーロから2920億ユーロに増加した。「医療費」も同時に1320億ユーロから2210億ユーロへ増加した。

今年9月24日に実施された総選挙でも年金政策は主要な争点の1つだった。選挙結果を受けて始まった「キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)」、「自由民主党(FDP)」、「緑の党(Die Grünen)」による連立協議(予備協議)においても、年金政策は重要な協議事項になっている。現時点では、選挙中の議論を引き継ぐ形で年金に関する各党の主張には隔たりがある(注2)。キリスト教民主・社会同盟は、70歳への年金支給開始年齢引き上げを否定するが、自由民主党は固定の年金支給開始年齢の廃止と可能な限り70歳までの就労を主張する。他方、緑の党は自営も含む国民皆年金制度の導入を求めている(注3)

参考資料

  • Destatis(2017.9.20)、Handelsblatt(2017.7.26)、Bundesregierung(25. November 2016)ほか。

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