金融機関で若年者の離職増加の傾向

カテゴリー:雇用・失業問題労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2017年11月

フランス銀行協会(Association Française des Banques)が2017年6月に公表した報告書によると、フランスの民間銀行に勤務する行員のうち、自己都合で離職する若い行員が増えていることがわかった。銀行の業務内容の変化に要因があるという指摘があるが、職に対して不満があると若い行員は離職する傾向が強くなっているとも言われる。また、金融業界では若い世代の経験者を外部から引き抜く傾向が強まっており、労働市場が流動化しているとの見方もある。

自己都合離職の増加

フランス銀行協会は、加盟する約200行に勤務する20万人近くの従業員を対象として、採用、昇進、欠勤、能力形成、離退職といった雇用管理に関する調査を行った。行員の職種別(総合職と技術職・専門職)、契約形態別(無期雇用と有期雇用)、性別に、2014年から2016年まで3年間の変化を分析している。

調査項目の中で特に際立って変化が見られたのが、離退職である。無期雇用契約の行員の離職理由で最も多いのが「退職(引退)」であるが、調査が行われた3年間で41.2%から32.6%に減っている。それに対して、2番目に多い「自己都合の離職」の割合が、2014年の24.8%から31.1%(2016年)に増えており、退職(引退)とほぼ同水準になった。

若年者離職の増加と引退年齢の上昇

離退職を年齢別にみると若年者の比率が高まり、中高年の比率が低下している。離職者に占める30歳未満の割合は、2014年の13.7%が2016年には16.6%まで上昇した。30歳以上40歳未満でも24.3%から27.4%に上昇しているのに対して、60歳以上の比率は43.2%から36.5%に下がった。退職(引退)の平均年齢にも変化が見られる。2014年の60.9歳から2016年の61.2歳に上がっている。65歳以上で退職した者の割合が、2014年の3.2%から2016年の5.2%に、63歳から64歳で退職した者の割合が2014年の7.9%から2016年の9.0%に引き上がっており、引退年齢が遅くなる傾向が見られる。

採用者の平均年齢は2016年の31.5歳へと上昇しており、大学5年次以上卒業者(修士号学位以上)の割合が増える傾向がある。これは、有資格の経験者を競合他社から引き抜く傾向が金融業界の労働市場に定着しつつあることを示している。

若年者の離職と銀行業務内容の変化

若年者の離職が増えた理由について、仕事に対する価値観の変化や銀行業務の仕事内容の変化などが挙げられている。

フィガロ紙によれば、職業紹介会社Robert Waltersのシニア・マネジャーの発言を引用し、最近の銀行に就職する若年者は、有名銀行で2~3年の職業経験を積み人脈を形成することによって、起業して独立する志向があると指摘する。銀行勤務で社会的信用を獲得し、起業が成功しなくとも、職業経験に基づいて金融業界に再就職することも可能であると考える傾向が強いという(注1)

また、レゼコー紙も金融業界を顧客として職業紹介事業を行うFAB Group代表の発言を取り上げ、1990年代まで、銀行に勤務する若年者は仕事に不満があれば、問題解決して勤続することを優先させたが、最近の若者は不満があれば離職してしまう傾向が強いと指摘する。また、銀行・貸付業全国労働組合代表の発言から、最近の銀行では販売員としての役割を求める場合が多くなってきており、若年者が期待する仕事内容と相違が生じていることが指摘されている。若い行員は、資産運用の専門家やコンサルタントとしての仕事を志向する傾向が強いが、最近の銀行業務は、金融商品とは直接関係のない営業が増えている。商工銀行(CIC)では携帯電話事業CIC Mobile事業が主要な事業になっており、各支店で電話加入の受付間窓口を併設し、金融商品の販売だけでなく、携帯電話の利用者獲得も職務として重要な位置を占めている。銀行業務内容が変化しているため、若者の志向とミスマッチを起こし、離職を増やす要因となっていると指摘している(注2)

参考文献

(ウェブサイト最終閲覧日:2017年11月20日)

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