「新一線都市」が大卒者の転入に優遇策

カテゴリー:地域雇用若年者雇用労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2017年11月

武漢、成都、南京など「新一線都市」といわれる都市が、戸籍取得の条件緩和や生活費の支援などで大卒者の転入を促進する政策に力を入れている。これらの都市は「新一線都市」といわれ、北京、上海、広州、深圳の「一線都市」に続く経済規模を有する。大卒者にとって、人口過剰の「一線都市」での就職は困難になってきている。「新一線都市」ではこうした大卒者の就職先の受け皿になる環境を整備することで、若い優秀な人材の流入を促し、都市の活性化・発展をはかろうとしている。

若い優秀な人材を誘致

政府は現在、安価な労働力を用いて大量生産する労働集約型の産業を中心とする体制から脱却し、高付加価値で生産性の高い分野の産業の発展を促進する政策をとっている。前者の産業を担ったのは農村部からの出稼ぎ労働者である「農民工」だった。近年は「農民工」不足が問題になり、各地の企業はその「争奪」や「引き留め」のため、給料を引き上げるなどの措置をとっていた。一方、今後の後者の産業を担うのは、高度な技能を有する大卒者らである。労働集約型産業の競争力が低下し、これまでのような発展が望めないなかで、各地方は高付加価値産業の企業誘致とともに、若い優秀な人材の流入を促す措置を講じることで、都市の活性化につなげようとしている。

増加する大学生に移住を呼びかけ

中国ではGDP(国内総生産)などに基づいて都市を三つ、あるいは五つのレベル(「一線都市」~「五線都市」)に分けている。最上位の「一線都市」は北京、上海、広州、深圳の四大都市を指す。経済誌『第一財経』傘下の「第一都市研究所」は2013年に「二線都市」のうち、とくにビジネスや人材活躍の環境を備え、地域の中心都市としての影響力や将来性がある都市を「新一線都市」とする概念を提唱し、成都、杭州、南京、武漢、天津、西安、重慶、青島、瀋陽、長沙、大連、厦門、無錫、福州、済南の15市をあげた(その後、2016年に発表されたリストでは福州、済南に代わって、蘇州と寧波が加わった)。

中国共産党機関紙「人民日報」のウェブサイトである「人民網」によると、2017年の大卒者は約750万人にのぼるとみられる。2012年に30%だった大学への進学率は、2016年に42.7%へと高まっている。「新一線都市」は都市としての競争力を高めるために、こうした大卒者をターゲットに、戸籍取得の条件緩和や住宅費・生活費の支給などの優遇措置を次々と打ち出し、移住を呼びかけている(表1)。

表1:「新一線都市」での大卒者移住の優遇政策
都市 公布時期 主な内容
武漢 2017年4月 卒業後3年までの大卒者:卒業証書があれば戸籍を取得できる。
卒業後3年を越える大卒者:固定した住所、雇用契約書、社会保険納付記録があれば戸籍を取得できる。
相場より安い大卒者向け賃貸住宅(最低賃料月額153元)に入居できる。
長沙 2017年6月 大卒者(大学院生を含む):(転居前の)戸口本(日本の戸籍謄本に相当するもの)、身分証明書、卒業証明書があれば戸籍を取得できる。
大卒者(学士):2年間で6000元の家賃・生活補助金を支給。
大卒者(修士):2年間で1万元の家賃・生活補助金を支給。

住宅購入者には3万元の支援金を支給(初回のみ)。

大卒者(博士):2年間で1万5000元の家賃・生活補助金を支給。

住宅購入者には6万元の支援金を支給(初回のみ)。

ポストドクター:一括10万元の生活補助金を支給。
成都 2017年7月 大卒者:卒業証明書があれば戸籍を取得できる。

就職活動や転居手続で他の地域から成都に来る場合、7日間の宿泊費を支給する。

西安 2017年6月 大卒者:45歳以下であれば戸籍を取得できる。修士以上は年齢制限なし。
南京 2017年7月 大卒者:企業と雇用契約を締結、または創業し、かつ企業従業員養老(年金)保険に加入していれば、住宅補助金(家賃)を24カ月間支給する(学士600元、修士800元、博士1000元)。

就職先が「北上広」から「新一線都市」へ

人材サービス会社「智聯招聘」が2017年5月に発表した「2017年大学新卒者求職状況調査報告」によると、「新一線都市」での就職を希望する者は37.5%で、「一線都市」の29.9%を上回った。

また、ビジネス特化型SNS「脈脈」のデータ研究院が2017年6月に発表した「職業データ白書(夏季号)」は、住宅価格の高騰や戸籍取得の難しさなどから、若者が「一線都市」の「北上広」(北京、上海、広州)から離れつつあると指摘した。それによると、過去1年間に「一線都市」から「二線都市(新一線都市を含む)」に移動した人の45.9%が「25~29歳」、22.0%が「20~24」の若年層だった。白書は「二線都市の給料は確かに低いが、消費レベルは一線都市ほど高くないので、生活にかかる圧力もあまり大きくはない」という回答者の声を紹介している。

参考資料

  • 新華網、人民網

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