不安定な働き方に関する議論

カテゴリー:労働法・働くルール多様な働き方

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  • 国別労働トピック:2017年7月

シェアリングエコノミーや待機労働契約など、新しい働き方の普及に伴い、雇用の不安定さや、労働者としての権利が保障されにくいといった問題が顕在化している。柔軟な働き方への労働者や雇用主のニーズを考慮しつつ、制度の悪用を防止するための方策の必要性が議論されている。

自営業者を利用するコストを引き上げて悪用防止を

シェアリングエコノミーの従事者は、通常、自営業者として扱われ、最低賃金や休暇などが適用されないほか、事業者側には社会保険料の拠出が発生しないなど、被用者や労働者とは制度上の扱いが異なる。しかし、実態は従属的な労働者でありながら、契約上は自営業者として扱われることで、本来適用されるべき法的な権利が保障されていないとして、従事者が事業者を提訴する動きがみられ、雇用審判所がその主張を認める判決が相次いでいる。昨年10月には、ウーバー社(配車サービスのプラットフォームを提供)のドライバーが労働者としての権利を求めて申し立てを行い、雇用審判所はこれを認める判断を示したところだ。また、今年に入ってからも、複数の自転車便の配達人による申し立てが、相次いで雇用審判所で認められている(注1)。いずれの判決も、従事者は自営業者であるとの事業者の主張は実態に即していない、と指摘する内容となっている。さらに、料理の配送サービスDeliverooの配達人も、同種の申し立てを検討しているという(注2)

メイ首相は昨年、こうした新しい働き方の拡大に付随して不安定の度合いが増している労働者の法律上の扱いについて、シンクタンクRSAのマシュー・テイラー所長に検証を依頼(Taylor Review)した。報告書は7月の公表が予定されているが、同氏は大まかな方向性として、実態が伴わない自営業者については、現状の法制度における労働者としての権利を保証すべきであると述べている。自営業者か労働者かを判断する基準としては、事業主の従事者に対する管理(control)の度合いに注目することを提案している。また、こうした制度濫用のインセンティブは、自営業者とその他の労働者で税・社会保険負担の条件が異なることで生じている側面があるため、より一貫した制度への転換をはかる必要を指摘している(注3)

原則、労働者として権利保障を―議会雇用年金委

議会でも、雇用年金委員会がこの問題に関する検討会を立ち上げ、5月初めに報告書を公表したところだ(注4)。近年の自営業者の増加や不確定な労働時間、不安定な短期雇用契約、あるいはシェアリングエコノミーの仕事など、近年の急速な労働市場の変化に、既存の社会保障制度が対応する必要があるとの問題意識から、検討会はとりわけシェアリングエコノミーにおけるニセ自営業者の問題を厳しく追及する姿勢を示し、当事者である事業者や労働組合、シンクタンクなどからの意見聴取を実施した。

報告書は、一部の雇用主による制度の悪用により、労働者を搾取から保護できていないだけでなく、社会保障制度への負担が増している可能性を指摘。ある者が自営業者かどうかについて、雇用主に選択を許すのではなく、原則として労働者として扱うべきであると提言している。また従来は、自営業者は社会保障制度による支援の適用をほとんど受けていなかったため、社会保険料の拠出に関して異なる条件が適用されることにも妥当性があったが、2016年に実施された公的年金の一元化により、社会保障制度から得る利益は被用者・労働者とほぼ同等になっており、このため拠出に関する条件も同等とすべきであるとしている。ただし、自営業者という働き方自体は積極的な選択でもありうるとして、これを希望する人々に対してはジョブセンタープラス(公的職業紹介機関)が専門的なサポートを提供すること、また低所得層向けの給付制度がこうした選択を阻害しないよう提言している(注5)

待機労働契約からの転換を申請する権利

一方で、ここ数年急速に拡大している待機労働契約(zero-hours contract)も、同様に不安定な働き方として関心を集めてきたところだ(注6)。予め決まった労働時間がなく、仕事のあるときだけ使用者から呼び出しを受けて働く働き方で、労働時間に応じて賃金が支払われる。使用者には仕事を提供する義務はなく、また労働者の側でも仕事を受けるか否かは任意で、他の使用者の求めに応じて働くこともできるとされるが、実態としては労働者にこうした自律性は乏しく、特定の使用者の元で従属的に働く場合も多いとみられる。また、育児や学業などとの両立のニーズに合った柔軟な働き方として評価される一方で、労働時間の不安定さが所得の不安定さにつながっていることも、問題として指摘されているところだ。

統計局が5月に公表したデータによれば、待機労働契約の従事者数は2016年10―12月期の平均でおよそ90万人、統計上は過去10年間でおよそ6倍に増加している(注7)。宿泊・飲食業(19万9000人、業種別就業者の22.0%)、保健・福祉業(18万3000人、同20.2%)、運輸・芸術・その他サービス業(15万9000人、17.6%)などで比率が高く(図表参照)、多くは未熟練職種や介護・レジャー・その他サービス職などの従事者とみられる。また、全体の3分の1にあたる30万人が、16~24歳の若年層だ(注8)

現地メディアによれば、テイラー氏は上記のレビューにおいて、より安定的な労働時間を希望する労働者には、使用者に対して労働時間が定められた契約への切り替えを申請する権利を付与し、使用者にはこれを真摯に検討することを義務付ける、との提言を盛り込むとみられる(注9)

経営側はおおむねこれに賛同しているとみられるものの、ナショナルセンターのイギリス労働組合会議(TUC)は、雇用主が明確な理由や判断基準を提示せずに申請を拒否できるとみられること、また待機労働契約の従事者が、仕事を提供されなくなることを恐れて申請を避ける可能性があることなどを挙げ、提案は実効性を欠いていると批判している。

図表 待機労働契約による労働者数(2016年10~12月)
図表:画像

  • 出所:Office for National Statistics "Contracts that do not guarantee a minimum number of hours: May 2017"

参考資料

参考レート

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