シェアリングエコノミー従事者の特徴と権利

カテゴリー:多様な働き方

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  • 国別労働トピック:2017年7月

シンクタンクのCIPDは3月、シェアリングエコノミーの従事者に関する調査報告書を公表した。多くが副業としてこうした仕事に従事しており、仕事や働く時間に関する自由度の高さが積極的に評価されているとみられる一方で、自営業者として扱われることにより、労働者としての権利が保障されていないといった不満もみられるなど、複雑な状況がうかがえる。

従事者は約130万人、多くは副業

シェアリングエコノミーの普及に伴い、従事者の雇用法上の権利をめぐる議論が広がっている。従事者は通常、自営業者としてサービスの提供に従事しており、このため最低賃金や休暇などが適用されないほか、事業者側には社会保険料の拠出が発生しないなど、被用者や労働者とは制度上の扱いが異なる(図表1)。しかし、実態は従属的な労働者でありながら、契約上は自営業者として扱われることで、本来適用されるべき法的な権利が保障されていないとして、従事者が事業者を提訴する動きもみられる。

図表1:就業者の区分による雇用法上の権利/保護
図表:画像

  • 注:雇用法上の就業者の区分は、「被用者」(employee)、「労働者」(worker)及び「自営業者」(self-employed)に大別され、このうち雇用契約に基づく「被用者」に対しては、雇用法制の定める広範な権利が保障される一方、「自営業者」については、差別禁止法制のみが適用される。「労働者」は、被用者のほか、雇用関係は存在しないが就業実態が純粋な自営業者と認められない場合を含む概念。
  • 出所:CIPD (2017) “To gig or not to gig? Stories from modern economy”

CIPDは、こうした議論にエビデンスを提供することを目的に(注1)、シェアリングエコノミーの従事者を含む労働者に対する調査を実施(注2)、その結果をまとめた。報告書はまず、シェアリングエコノミー従事者の数を就業者全体の4%、およそ130万人と推計している。シェアリングエコノミー従事者とそれ以外の労働者のそれぞれについて、回答者の年齢階層別比率をみると、従事者では18―29歳層が39%、30―39歳層が30%で、それ以外の労働者(それぞれ21%と23%)に比して若い世代の割合が高い。また、従事者の58%が期間の定めのない雇用に就いている被用者であると回答しており(それ以外の労働者では78%)、本業としてシェアリングエコノミーに従事している層は全体の25%に留まる(注3)。平均的な時間当たり報酬額は、従事する分野によっても異なり、乗客輸送サービスや配送サービスではいずれも6ポンド、短期の仕事の請負で7ポンドなどで、場合によって最低賃金を下回る水準にあることが推測される(注4)。また、安定して仕事が得られているとする層は、26%と少ない。

仕事の機会や金銭面での不安定さにもかかわらず、従事者の多くが、収入や仕事に対して満足していると回答しており(収入に満足しているとの回答は51%、仕事に満足しているとの回答は46%)、これには、仕事における独立性・自律性や、働く時間を自ら選択できる柔軟性が影響しているとみられる。ただし、こうした評価は、従事しているサービス分野によっても異なる(図表2)。輸送サービスのドライバーは、総じて報酬水準や自由度の高さに対する満足度が高い傾向にあるが、配送サービス従事者の報酬や仕事への満足度は相対的に低い。

また、自らを自営業者と感じている(feel like their own boss)とする従事者は38%にとどまり、感じていないとする47%を下回る。従事者の63%が、労働者としての権利(最低賃金、休暇手当等)の保証に向けて規制が強化されるべきであると回答している。また、シェアリングエコノミー事業者に対して、教育訓練の提供や、職域年金への拠出を義務付けるべきであるとの意見も半数以上を占める(それぞれ58%と50%)。ただし一方で、シェアリングエコノミーに従事することを選択した時点で、より高い柔軟性や独立性と引き換えに、仕事の安定性や労働者としての利益を放棄することを選択している、とする回答も50%にのぼり、従事者の意識の複雑さが窺える(注5)

報告書は一連の結果を受けて、シェアリングエコノミーの従事者は未だごく限定的であること、従事者の権利に関する現在の議論は、全体を代表するものではないことを指摘した上で、しかしコスト削減を目的として自営業者を利用しつつ、従属的な働き方を強いる手法については懸念を示しており、規制強化が必要であるとしている。

図表2:報酬・仕事における独立性への満足度等
図表:画像

  • 注:雇用法上の就業者の区分は、「被用者」(employee)、「労働者」(worker)及び「自営業者」(self-employed)に大別され、このうち雇用契約に基づく「被用者」に対しては、雇用法制の定める広範な権利が保障される一方、「自営業者」については、差別禁止法制のみが適用される。「労働者」は、被用者のほか、雇用関係は存在しないが就業実態が純粋な自営業者と認められない場合を含む概念。
  • 出所:CIPD (2017) “To gig or not to gig? Stories from modern economy”

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