社内請負の増加がもたらす問題点とその対策

カテゴリー:非正規雇用労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2017年7月

大企業(従業員数300人以上)の51.1%が派遣及び請負等の形態で所属外労働者を活用しており、所属外労働者の数は93万1250人(2015年は91万7634人)に上る。このうちの大部分は社内請負企業に所属する労働者であり、従業員数が300人未満の企業も含めると、社内請負企業に属する労働者の総数は100万人を超えると推測される。韓国労働研究院(KLI: Korea Labor Institute)は近年、多くの企業で活用されるようになった社内請負がもたらす問題点とその対策についてレポートを公表した。その概要を紹介する。

社内請負の増加傾向と普遍化傾向

社内請負は、企業が競争力のある事業を確保していくため、競争力のない事業をアウトソーシングするというひとつの戦略として導入・活用されてきたが、企業間の競争が熾烈さを増すにしたがって、次第に人件費の節減という目的で活用されるようになった。

韓国には従業員数300人以上の大企業に労働者の雇用形態の公示を義務づける制度(雇用政策基本法)がある(注1)。これに基づく2016年のデータによれば、大企業の51.1%が請負等の形態で所属外労働者を活用しており、製造業では77.5%が、非製造業でも41.6%が同形態の労働者を活用している。製造業ばかりでなく、サービス業でも広く社内請負が活用されているところが注目される。特に、教育サービス、金融保険、出版・放送・通信・情報サービスでは7割の水準で活用されており、社内請負は製造業に存在するというのがこれまでの一般通念であったとすれば、それを改めなければならないことが明らかとなった。また、大企業ほど雇用を外注化する傾向も見られる。特に近年、大企業における所属外労働者の数は増加していることが表からもわかる。大企業の雇用に対する社会的責任という側面を考えた場合、この事実が提起する問題は大きい。

表:従業員数300人以上の大企業における企業外所属労働者数(単位:人)
企業外所属労働者数
2014年 816,344
2015年 917,634
2016年 931,250
  • 出所:雇用労働部「企業雇用公示資料」(2014~2016)を基に作成

社内請負の濫用に対する批判

元請け企業は、直接雇用する正規職の業務と下請け企業の労働者の業務を分離し、直接的な業務指示をしない等、違法派遣、偽装請負と見なされる根拠を完全に取り除くことで、請負業務であることを主張するものの、下請け企業による完全に独立した業務と見ることが難しい様々な要因が存在する場合もある。事実、自動車製造の事業所における完成車の出荷業務に対し、裁判所は違法派遣であるという判決を出した例もある。

また、法的判断とは別に、企業は雇用に対し多くの責任を持つことが求められるという社会的正当性という側面でも、社内請負に対する過度の濫用に対する批判は少なくない。

更に、業務中の死亡事故の大部分が請負企業の労働者に集中しており、社内請負に対する自嘲的な呼び名として「危険の外注化」という造語さえ登場するようになった。下請け労働者の労働条件が元請け労働者のそれに比べて劣悪であるという研究結果もあり、元請け企業の社会的責任がより一層求められている。そのため、元請け・下請けの関係に対する法的、制度的見直しも必要となるであろう。

新たな法整備の必要性

以上のように、社内請負の拡大は様々な問題をもたらすと考えられるが、これらの問題については、社会、企業そして個人の3つの側面から考察することができる。

まず社会の側面から見た問題とは、社内請負の活用による正規職の減少と不安定雇用の増加は雇用の両極化につながっていくという懸念である。次に企業の側面から見た問題とは、同一企業内において、元請け労働者と下請け労働者の間で不平等が拡大することである。事実、下請け労働者の賃金水準は元請け正規職の52%(注2)に過ぎず、また各種の福利厚生からも除外されているという研究結果もあり、こうした賃金その他労働条件の格差が社内の下請け労働者への職務不満につながる場合や、社内請負の活用自体が企業内の労使関係を悪化させる要因として作用する場合もあり、最終的には企業にマイナスの影響を及ぼすと考えることができる。そして最後に個人の側面から見た問題とは、危険の外注化により労働者の命が危険にさらされることである。2016年雇用労働部の発表によれば、主要企業30社の過去5年間の死亡事故のうち、86.5%が下請け労働者に集中していた。

以上のように、社内請負の多様な問題点は、今後その活用に関する新たな法律の必要性を示していると言える。

KLIの政策提言

これまで社内請負関連の問題に対する政府の政策は、元請け・下請け間の格差の縮小に焦点が当てられてきたところであるが、格差は解消されないまま、社内請負の規模は増加傾向を見せている。社内請負企業に属する労働者の推定人数は100万人を突破し、「社内請負100万人時代」を迎えた今、より根本的な解決が求められている。そのための5つの具体的な提言を示す。

  1. 恒常的業務の直接雇用原則
    恒常的な業務については社内請負を禁止し、直接雇用の原則を適用する。ただし、どの業務が恒常的かについての定義が必要となる。そのための実務的なガイドラインを整備しなければならない。社内請負を直接雇用に転換するにあたっては、企業規模に応じて段階的に進められるよう、移行期間を設定する等の措置が必要となる。また、子会社を設立し、社内請負労働者を子会社の正規職に転換するという方法も考えられる。
  2. 社内請負に対する元請け責任の強化
    非恒常的な業務に請負を利用する場合であっても、下請け労働者の苦情処理や安全衛生問題に関しては、元請け企業が責任を負うことが望ましい。下請け企業の労働者も含めた労使交渉や労使協議を通じ、労働条件の格差縮小のための努力が必要である。また、危険の外注化の根絶のために労災保険法を改正し、労災事故に関しては元請け事業主の責任を明らかにする必要がある。
  3. 安全業務の内部化
    市民の安全と直接的にあるいは間接的に結びつく公共部門の業務委託は適切ではない。全て直接運営とするべきである。そのための法改正が必要である。
  4. 雇用関連の社会的責任に対するインセンティブの付与
    民間企業が雇用おける社会的責任を果たすように誘導する方策として、公共事業を請負う場合などに、企業にインセンティブを与える仕組みを取り入れる。例えば、社内請負企業の労働者を正規職に転換するなど、雇用関連で社会的責任を果たしている企業に対し、公共事業の契約で有利となるようなインセンティブを付与する等が考えられる。
  5. 政府の労働監督の強化
    政府が雇用の質を高めようとする意志を示し続けることは何より重要である。そのため、偽装請負、違法派遣を根絶しなければならず、労働監督の強化が求められる。

参考資料

  • 「労働レビュー」 2017年4月号 韓国労働研究院(KLI)

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