日曜・夜間就労に関する労使合意、小売業での成立の動向

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  • 国別労働トピック:2017年7月

フランスでこれまで禁止されてきた日曜および深夜就労は、2015年8月に公布・施行された「経済成長・活性化および機会均等法」(注1)(通称、マクロン法:Loi Macron) により、国際的観光地区(ZTI:zones touristiques internationales)の小売商店に限って、日曜および平日夜9時以降の営業が認められるようになった。その条件は労働組合の合意もしくは従業員の過半数代表が賛成することである。フランスの企業には複数の労働組合があって、それぞれで労使交渉を行うことが一般的である。労働組合組織率の低さから従業員が組合員である割合は極めて少ないが、各事業所における従業員が賛同する労組を投票で決め、賛同する従業員の割合によって労使が合意するかどうかを判断する。施行から1年を経過した2016年半ば頃から、百貨店等で取り入れるようになってきた。

大手家電量販店のダーティーを皮切りに

最初に日曜日の営業を始めたのは大手家電量販店のダーティー(Darty)である。その後、その他の小売業の店舗において労使の合意が締結され、日曜営業を開始するところが徐々に増えていった。衣料品小売業のエタム(Etam)やザラ(Zara)、タチ(Tati)、化粧品販売のマリオノ(Marionnaud)やセフォラ(Sephora)などである。日曜営業に関する労使合意の内容、日曜日の割増賃金(注2)、ベビー・キッズ・シッター費の補助や交通費の特別支給といったものだった(注3)

マレ地区BHV:百貨店で最初の労使合意

百貨店では2016年半ばになってから本格導入がすすんだ。最初の労使合意は、パリ市役所近くの3区から4区またがるマレ地区で営業するBHV Marais (ベー・アッシュ・ヴェー・マレ)で成立した。16年7月3日から日曜営業を始めた(注4)。その内容は、日曜日に就業した場合、年間15日曜日まで、100%の割増賃金の支払い、もしくは代休の付与だった。同社の複数の労働組合のうち、SUD(連帯統一民主労働組合)と管理職総同盟(CFE-CGC)が合意したが、労働総同盟(CGT)は反対した。一方、キリスト教労働者同盟(CFTC)は、反対しないものの合意文書への署名はしなかった(注5)

ギャラリー・ラファイエット:500人の無期雇用増

フランスで最大規模を誇るパリ・オスマンの百貨店ギャラリー・ラファイエット(Galeries Lafayette)でも2016年5月に労使合意が成立した(CFE-CGCとCFTCが賛成・署名しCGTは反対した(注6))。最高で年間8回の日曜営業とその際の2倍の割増賃金の支払いと1日の代休の付与、あるいは賃金の割増はないが2日の代休付与、もしくは日曜日の就労に対して賃金は支払われないが3日の代休付与のいずれかを、従業員が選択できるという条件が合意の内容である。これは、パリ・オスマン店で就業するギャラリー・ラファイエットの社員のみに適用される。テナントの従業員や他の店舗の従業員には適用されない(注7)。パリ・オスマン店で営業時間が延長されることを受けて、新たに500人を無期雇用契約(CDI)で雇用した。募集は2016年11月から始まり、17年1月8日から日曜営業を開始している。

ボン・マルシェ:あくまでも自発的な就労が条件

パリ左岸にある老舗デパートのボン・マルシェ(Bon Marché)では、2016年11月25日、労働組合の民主労働総同盟(CFDT) およびCFE-CGC (両労働組合を合わせて、労働組合選挙で63%の得票率) が合意して労使合意が成立した。日曜日の就業はあくまでも自発的であり、日曜日の就業に対して2倍の賃金が支払われる。なお、代休は付与されない。17年3月19日から日曜営業が開始している。

プランタン:ベビーシッター代60ユーロ補助も

大手デパートの中で最後に日曜営業に関する労使合意が成立したのは、プランタン(Printemps)であった。労使合意が成立するためには、従業員の30%の賛成が必要であるが、当初、CFDTおよび CFE-CGCの2労組は、30%を得ていなかった。プランタン最大労働組合のCGTが反対していたためである。その他、独立系のUNSA(独立組合全国連合)は、売場の従業員の3分の2を占める各テナントの従業員が考慮されていないことや日曜就労に伴う人員補充が確約されていないことを理由として合意に署名しないこと表明した。しかし、12月30日になってUNSAは、合意の賛成を妨げていた主要な論点が解消されたとして労使合意に署名することを決定した。その内容は、日曜就労に対する賃金倍額と、年間12日曜日までの就業およびそれに対する代休付与、15歳未満の子供のベビー・キッズ・シッター手当60ユーロであった。

フナック:繁忙期日曜就労に3倍の賃金

書籍やCD・DVD、情報通信機器(パソコンや携帯電話など)を販売し、フランス各地に100店舗以上を展開するフナック(FNAC)でも、労使が日曜就労に同意した。同社の労働組合のうち賛成派であるCFDT、CFTC、CGCの得票が30%以上となり、反対するCGT、FO、SUDの得票を上回り、2017年1月25日に合意が成立した。合意内容は、繁忙期の日曜日(年間12日)に就労した場合の通常の3倍の賃金の支払い、その他の日曜日の通常の2倍の賃金の支払いである。なお、代休の付与はない。日曜営業に必要な店舗の従業員数を3.1%増加させることも合意に盛り込まれた(注8)

モノプリ:夜間営業(22時まで営業時間延長)

スーパーマーケット・モノプリ(Monoprix)では、大都市の店舗で営業時間を22時まで延長する労使合意が2016年12月10日成立した。対象は、パリ、リヨン、マルセイユの大都市にある100店舗以上である。

合意の内容は、21時以降の就労は強制ではないこと、就労した場合には割増賃金が支払われるといったことである。賃金割増率は、21時以降段階的に25%、50%、70%となる。10歳未満の子供のいる従業員が夜間就労する場合、ベビー・キッズ・シッター代補助として年間500ユーロの手当が支給される。また、上級管理職や中間管理職などには、閉店手当として15ユーロから20ユーロが支給される。

評価が分かれる日曜営業の経済効果

日曜営業の経済効果が試算されているが、専門家の意見は分かれている。サクソ・バンク(Saxo Bank)のエコノミストのクリストファー・デンビック氏は、「小売商からのデータが判断して売上の顕著な増加は見られず、消費支出が長時間に分散している」として、日曜営業の経済効果に否定的である。それに対して、パリの高等商業学校(ESCP Europe、グランド・ゼコールの一つに数えられるビジネス・スクール)の教官ジャン=マルク・ダニエル氏は、マクロン法の経済効果は長期的に見ることができ、経済活性化の期待ができるとしている(注9)

(ウェブサイト最終閲覧日:2017年6月21日)

参考レート

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