「ブラック企業リスト」の公表基準を示す

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「重大な労働保障違法行為の社会公表弁法」(以下:弁法)が2017年1月1日に施行された。弁法は、多額の賃金未払いなど労働・社会保障の関連法規に著しく違反した企業名の公表などを規定している。また、農民工(農村出身の出稼ぎ労働者)の権利保護の観点からは、国務院弁公庁が2016年1月19日に賃金未払い企業の「ブラックリスト(黑名单)」を公表することなどを含む意見書(注1)(以下:意見書)を出している。同年11月15日には人力資源・社会保障部と関連部門が「農民工賃金支払い状況検査」を実施すると発表。検査の結果、問題が発覚した企業に対しては「意見書」に基づく罰則を科す。

違法企業名はメディアで公表

2004年に公布された「労働保障監察条例」には「企業(事業主)に、労働保障に関する法律・法規・規則の重大な違反行為があった場合、関連労働保障行政部門が社会的に公表する」(第22条)との規定がある。しかし、「重大な違反行為」には何が該当するかは具体的にあげられておらず、公表内容や公表方法も明示されていなかった。弁法により、それらの初めての全国統一的な基準が示された。

「重大な違反(違法)行為」とは次のとおりである。(1)給料をピンハネしたり、理由もなく支払いを遅延したりする行為で、金額が大きい場合。賃金を支払わず、刑事責任を追求される場合、(2)社会保険に加入しない、または社会保険料を支払わないで、その程度が甚だしい場合、(3)労働時間および休憩・休暇の規定に違反する行為で、その程度が甚だしい場合、(4)女性労働者及び未成年労働者の特殊労働保護規定に違反する行為(注2)で、その程度が甚だしい場合、(5)児童労働者使用禁止の規定に違反する行為の場合、(6)労働保障違法行為で社会に甚だしい悪影響を与えた場合、(7)他の重大な労働保障違法行為があった場合。

「未払いの金額の大きさ」や「程度の甚だしさ」などの具体的な基準は示されておらず、個々の取り締まりの判断において、行政当局による裁量の余地は少なからず残されている。
公表する内容は、(1)法規に違反した企業の正式名称と「統一社会信用コード」 (注3)(または登録番号)および住所、(2)法定代表者または責任者の氏名、(3)主な違法行為の事実、(4)処理状況(処罰の内容など)、である。国家機密、商業秘密および個人のプライバシーに関する情報は公表しない。

これらの内容は人力資源・社会保障行政部門のホームページ、および当該地域の主要な新聞・雑誌、テレビなどのメディアによって公表される。公表の頻度は地級市(注4)や県レベルでは四半期に1回、中央(人力資源・社会保障部)や省レベルでは半年に1回とするが、必要な場合は随時公表するとも記されている。

農民工の権利保護策

違法企業を公表し、「ブラックリスト」化する措置は、中央政府が農民工の権利保護対策として2016年1月にまとめた意見書にも含まれている。

意見書は「建設分野において、施工の元請け企業は請け負ったプロジェクトの農民工への賃金支給について全責任を負い、下請け企業は募集・採用した農民工への賃金支給について直接の責任を負う」「工事代金未納などを理由に賃金を減額したり、または不払いにしたりしてはならず、経営リスクを農民工に転嫁してはならない」との方針を示した。

そのうえで、(1)企業は出稼ぎ労働者と労働契約を結び、その名簿を作成し、雇用の記録をつけるようにする、(2)建設現場では「実名管理制度」を実施し、「労働報酬記録手帳」を作成して、労働者の身分、勤務状況、賃金などの情報を記入する、(3)工事の元請け企業が銀行を通して賃金を支払う方法を推奨する、(4)企業は労務費専用口座を設け、人件費とその他の費用を分けて管理するようにする、など、企業が個々の農民工に賃金を支払う責任や手順を明確にする措置を提示している。

賃金未払いの企業は「ブラックリスト」に掲載し、定期的にその情報を社会に公開する制裁を科す。それらの企業は、政府調達、入札、生産許可などで全国的に制限を受ける。

このほか、賃金不払いに対する緊急運転資金制度を整備するとともに、賃金不払保証金制度の構築を検討し、企業がすぐには未払い賃金の問題を解決できない場合、または事業主が賃金未払いのまま逃亡した場合に、これらの制度を利用して賃金の一部や基本的生活費を立て替え、農民工の生活苦を一時的にしのぐ対策を盛り込んでいる。

2016年11月15日には人力資源・社会保障部など12部門(省庁等)(注5) が「農民工への賃金支払い状況の特別検査に関する通知」を出した。それによると、2017年春節(1月28日、前後の1月27日~2月2日が祝日)の前までに、農民工を多く使用する建設、交通、製造、飲食サービスといった労働集約型の中小企業、個人経営者、政府が投資する建設プロジェクトの施工企業、鋼鉄・石炭など生産能力の過剰な企業に対して、関連省庁等が賃金支払い状況を検査する。問題が見つかった企業は上記の「意見書」に基づき処罰する。

上海市人力資源・社会保障局は「早清(事前または早期の対応)・高圧(違法行為への圧力強化)・合力(各行政部門の連携推進)」で対処する方針を示しており、農民工に賃金支払いの遅延・未払いがあった場合、電話(365日24時間対応)またはウェブサイト、郵便、(窓口への)直接訪問で当局に訴えるよう呼びかけている。

労働紛争の未然防止のために

春節(新暦で1月下旬から2月中旬)には、都市への出稼ぎ労働者である農民工が故郷に里帰りする。この時期に企業は賃金をまとめて農民工に支払う習慣になっている。しかし、支払いを遅らせたり、支払わずに夜逃げしたりする企業が後を立たず、労働紛争が頻発する原因になっている。

国家統計局「2015年農民工監測調査報告」によると、2015年に農民工2億7747万人の約1%が賃金支払いの遅延や不払いの被害を受けた。この数は2014年より0.2%増加している。2015年の未払い賃金は1人あたり平均9788元で、前年より2.9%増えている。

また、労働契約のない状態で働いている農民工の割合は、2014年が62.0%、2015年が63.8%で依然として高い水準にあり、賃金未払い問題が生じる温床になっている。

農民工への賃金未払い問題は社会の安定に影響を及ぼす。中国各地の労働環境を監視している香港のメディア・中国労工通訊によると、中国におけるストライキの発生件数は、春節の時期に跳ね上がっている(図1)。2015年1月は272件で前月より100件、16年1月は503件で前月より82件それぞれ増加しており、この時期の発生が際立つ。

政府は違法企業の公表措置を広めることにより、法令順守の徹底、悪質な企業の淘汰をはかり、未払い賃金をめぐるトラブルの芽を摘みたい考えだ。

図1:中国におけるストライキ発生件数
図1グラフ画像

参考資料

  • 国務院、国家統計局、上海市人力資源・社会保障局、人力資源・社会保障部、中国政府網、中国労工通訊

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