シェアリング・エコノミー下の労働者に健康保険

カテゴリー:労働法・働くルール多様な働き方

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  • 国別労働トピック:2017年1月

シェアリング・エコノミー下で請負として働く労働者の数が増加の一途をたどる中、こうした働き方をする人の健康保険や年金といった社会保障をどのようにするかという問題が無視できなくなっている。

こうした状況に、連邦労働省は、実態把握のための調査にのりだしたほか、ウーバーやケア・ドットコムといったシェアリング・エコノミー企業が契約する労働者に健康保険を提供する試みが始まろうとしている。

ポータブルな社会保障を

連邦労働省女性局(Department of Labor, Women's Bureau)は、ポータブルな年金のあり方を探るために、総額15万ドルを三つのNPOに助成することを9月22日に明らかにした。

シェアリング・エコノミー下で請負として働いている貧困女性を特に対象としたもので、ポータブル退職手当創設助成プログラム(Portable Retirement Benefits Planning grant program)に基づいている。

助成されたのは、低賃金の家内および介護労働者に退職手当などを提供するためのモバイル・プラットフォームの構築、雇用主および州政府が提供する退職積み立て制度の利用の障壁についての調査などである。

オバマ政権は2017年度予算に確定拠出型年金(401K)の適用対象の拡大を織り込んでいるほか、同様の法案が上院財務委員会で可決している。

ポータブルな社会保障を創設する試みは民間企業でも始まっている。乗客と運転手をつなぐライドシェア事業を展開するウーバー社は資産運用をサポートするベターメント社(Betterment Inc.)と共同で運転手に個人退職口座の提供を始めた。インターネットを通じた在宅介護事業を行うケア・ドットコム社(Care.com)は労働者に対して医療費に充当する目的で年間500ドルを支給する予定であることを公表した。

請負労働者の社会保障対策が社会的議論に

ブルッキングス研究所はシェアリング・エコミー下で働く請負労働者に最適な退職手当のあり方を探るシンポジウムを9月23日に開催した。

議論の中心は、契約先を変えたり、複数の契約をもつなど、流動性が大きく不安定な状態にある請負労働者に対して、雇用主が提供する従来型の退職手当制度からの変更ができるかどうかだった。

シンポジウムの主催者であるブルッキングス研究所、退職保障プロジェクト副部長デービッド・C・ジョン氏は州政府が管理する退職積み立て制度の活用を含めた漸進的変化が必要だとする。州政府は公共部門の職員を対象とする退職積み立て制度をもっているが、この積み立て制度を民間企業の従業員も利用できるように連邦労働省が8月に制度変更を行っている。この枠組みに請負労働者も加えるべきだとするのがデービッド・C・ジョン氏の主張である。

一方、連邦労働省元副長官のセス・D・ハリス氏はポータブルな退職手当の創設だけでは抜本的な解決には結びつかないと指摘した。

シェアリング・エコノミー下で請負として働く労働者は異なる縦横のなかで多様なグループを形成しているため、単純で誰にでも利用可能な積み立て口座をどのようにつくるかが課題となっているとするのがセス・D・ハリス氏の主張の中身である。

2017年にはシェアリング・エコノミー下で請負として働く労働者を含めた非典型(Contingent)労働者の具体的な数と働き方についての調査が連邦労働省労働統計局によって行われる予定になっているが、増え続ける請負労働者の社会保障を含めた扱いについての施策のあり方に関する議論が活発化してきている。

(調査部海外情報担当 山崎 憲)

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