個人請負労働者の誤分類を正して雇用労働者に戻す試み
―連邦労働省と住宅都市開発省の提携ほか

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2016年10月

「雇われない働き方」として、個人請負労働が拡大している。スマートフォンを利用したシェアリング・エコノミーの拡大により、「雇われて働く」労働者に代わって、個人請負労働者が顧客にサービスを提供するようになっているからだ。

このような状況に、連邦労働省と住宅都市開発省が請負労働者から雇用労働者への区分の見直しに向けた努力をはじめている。

個人請負に向かう流れを食い止める

連邦労働省は従来から個人請負労働を問題視してきた。残業代や労働時間といった厚生労働基準法による規制や、年金、健康保険などの社会保障負担を逃れるために、事業主が雇用している労働者の区分を個人請負に切り替えることが横行しているからだ。労働者の労働条件だけでなく、税収の低下や国の社会保障負担の増加にもつながりかねない。

連邦労働省は、実質的には雇用労働者と変わらないにもかかわらず、個人請負状態にあることを「誤分類(Miss-Classification)」として、連邦税の徴収を行う内国歳入庁(IRS)と連携するなどして、取り締まってきた。

今回は、住宅都市開発省が行う建設事業に関し、「誤分類」を正すためのパートナーシップ関係を構築するための覚書に連邦労働省と住宅都市開発省が調印することになった。

その内容は、調査協力、スタッフの教育訓練、請負労働者として不適切な分類を行わせないようにするために歩調を合わせる、といったことである。

建設産業では、日雇い労働者や機械工を中心とした「誤分類」の増加が深刻化している。連邦政府が行う建設事業に従事する労働者の労働条件は、ニューディール政策期につくられたデービス・ベーコン法により、地域における一般的な労働者の水準を上回らなければならない。この規制を回避して、人件費コストを低減するために、「誤分類」を利用する企業が増えているのだ。

デービス・ベーコン法は、本来は労働者と使用者に委ねられる労働条件交渉に政府が介入するものであるため、労働者が使用者に直接に訴えかけることが認められていない。そのため、「誤分類」を解消するためには、政府が乗り出さざるを得ない。

連邦労働省と住宅都市開発省による覚書の調印はこのためのものであり、コロラド、モンタナ、ノース・ダコタ、サウス・ダコタ、ユタ、ワイオミングの西部6州を対象に結ばれた。

「誤分類」による賃金未払いのケース

8月18日、ルイジアナ州の左官業ブラウンロウ・プラスタリング株式会社は、147人の労働者の未払い残業代36万5000ドルの支払いに合意した。

同社は、多くの個人請負労働者や下請け企業を利用して事業を展開している。これら個人請負や下請け企業をみつけだし、契約関係を構築する業務は、レーバー・ブローカーと呼ぶ仲介者に委託していた。

このブローカーが請負なのか、雇用なのかを連邦労働省賃金時間局が問題視し、捜査の結果、請負労働者を「誤分類」と認定した。週40時間を超える部分が残業代の対象になったが、それは、ブローカーの報酬が時間当たりの固定単価で支払われていたからだった。

ブラウンロウ・プラスタリング社は、個人請負労働者や下請け企業を選定、契約するための請負労働者を使うという、一見、特殊なビジネスモデルを用いている。だが、経営戦略や企画部分のみ中核的に企業内に残しておき、それ以外はすべて外注化するという姿は、ライドシェア事業を展開するシェアリング・エコノミー企業とも共通する。未払い賃金の支払いと合わせて、ブローカーが手配した個人請負の日雇い労働者も雇用関係があることを将来的に認める道もブラウンロウ・プラスタリング社は合意している。

連邦労働省は「誤分類」の解消による労働者の権利擁護と企業に対する法令順守を最優先順位においており、行政横断的なパートナーシップの構築や、不正をはたらく企業に対する取り締まりを強化している。

(国際研究部 山崎 憲)

参考

  • Ben Penn(2016) “‘Misscassified’Plastering Workers to Get $365K in back wages for unpaid overtime”, Daily Labor Report, Aug.17.
  • Ben Penn (2016) “Federal Agencies Partner on Worker Missclassification”, Daily Labor Report, Aug.22.

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