基幹学校とデュアル職業訓練をめぐる現状

カテゴリー:人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2016年6月

ドイツ労働総同盟(DGB)の調査によると、ドイツ商工会議所(DIHK)の加盟企業が募集するデュアル職業訓練のうち、6割以上が基幹学校(ハウプトシューレ)の卒業生を「対象外」としていた。かつて基幹学校には、全体の半数以上の子どもが通っていたが、時代の変化とともに、その割合は1割強にまで減り、卒業後も職業訓練ポストの確保に苦労している姿が浮き彫りになった。

早期人材育成の苗床 ー3分岐型教育制度

連邦制のドイツでは、各州によって教育制度に多少の違いはあるが、基本的に6歳前後で日本の小学校に相当する「基礎学校(グルントシューレ)」に入学する。その後、4年間の教育を受けた後、各人の成績や志望に応じて、3つの進学先に分かれるのが一般的だ。1つは、初期職業訓練に進むことを前提とする「基幹学校(ハウプトシューレ)」、もう1つは、職業高校や専門高校などへの進学を前提とする「実科学校(レアルシューレ)」、最後は大学等への進学を前提とする「ギムナジウム」である。

この「3分岐型教育制度」はこれまで、早期に職業訓練を施すことによって、優れた熟練労働者やマイスターなどを排出する重要な要素となってきた。

基幹学校、過去10年で4割減

しかし、「3分岐型教育制度」は他方で、わずか9歳や10歳で将来の進路が決定されてしまうことをも意味する。結果として、裕福な家庭の子が「ギムナジウム」に、貧困家庭や移民の子が「基幹学校(ハウプトシューレ)」に進む傾向が長年続き、「貧困の連鎖」「格差の拡大」「階級の固定化」等の社会問題を助長する要因になっているとの批判が噴出するようになった。

50年前、子ども達の半数以上は基幹学校に進み、ギムナジウムに進む子どもはほんの一握りだった。しかし、高学歴志向や産業構造の変化、教育改革の波等を受けて、その割合は大きく変化し、現在の基幹学校は非常に不人気な進学先となっている。連邦統計局が3月に発表した資料によると、この10年で基幹学校は42%減少し、現在は3039校余りにまで落ちこんでいる。

この急激な減少傾向は、3分岐型教育制度への批判を受け、一部の州が基幹学校そのものを廃止したり、あるいは基幹学校・実科学校・ギムナジウムの3つを1つにまとめた「総合学校(ゲザムトシューレ)」を設置したりする動きの広がりとも連動している。

現在、基幹学校に通う子どもは全体の12%のみで、実科学校が25%、ギムナジウムが34%、残りの3割弱が総合学校やその他の学校に通っている。

労使双方の主張

冒頭のドイツ労働総同盟(DGB)の調査によると、ドイツ商工会議所(DIHK)の加盟企業が提供するデュアルシステム職業訓練ポストのうち61.6%は、基幹学校卒業生の応募を認めていなかった。しかし、その一方で数万席の職業訓練ポストが空席のままというミスマッチが生じており、DGBは、「企業が基幹学校卒業生を訓練から閉め出している」と批判している。

この点について、DIHKの職業訓練部門担当者は、「基幹学校の卒業生は、割合そのものが非常に少なく、DIHK加盟企業が提供している訓練以外にも沢山の職業訓練機会がある。基幹学校卒業生の4人に3人は何らかの訓練ポストを得ており、決して加盟企業が、彼らを排除しているというわけではない」と説明した上で、「基幹学校卒業生の中には、ドイツ語や数学の水準が不足している者もいるが、その場合は主に大企業が職業訓練のほかに追加的な支援を行っている(注1)。また、企業が誰を職業訓練生として選ぶかという問題と、立場の弱い若者や格差等の社会問題とは、分けて考える必要がある。さらに職業訓練ポストの採用と、実際の採用も別の問題である。DIHKは、加盟企業が質の高い職業訓練生や従業員を獲得できるよう支援することを確実にしていかなければならない」と主張している。

これに対して、労働総同盟 (DGB)は、企業側の意識改革を求めている。企業が募集する当該の職業がそれほど高いレベルを要求しないのであれば、基幹学校の卒業生や無資格の若者に対しても職業訓練ポストを開放すべきだとしている。その上で、ホテルやレストラン産業等を例に挙げ、このような企業では大量に人員が不足しているにもかかわらず、訓練生募集の多くが基幹学校卒業生を応募対象外としており、さらに高い学歴保持者を求めていることを指摘している。

若者、企業ともに任意参加のデュアル職業訓練

こうした労使の意見対立の背景には、デュアルシステムによる職業訓練が公認訓練でありながら参加が任意であるという点にある。

デュアル職業訓練は、その名の通り、実務と座学を並行して行う二元的 (デュアル)な制度が特徴となっている。約350ある公認訓練職種は、販売や事務から技術系まで幅広い。そして訓練は、企業における実務が週3~4日 (7割)、職業学校における座学が1~2日 (3割)と、実務の比重が大きい。公認訓練職種の訓練内容は法律で規定されており、期間は職種や受講生が保有する資格によって2年~3年半となっている。最終試験は、訓練分野の実習と理論に関する筆記試験と口述試験から成り、管轄の会議所等が実施する。この最終試験に合格すると初期職業訓練修了資格を得ることができ、就職や継続職業訓練、さらに上の専門学校等に進むことができる。

デュアルシステムによる職業訓練には若者の多くが参加し、訓練費用のほとんどは企業が自主的に負担する。企業と訓練生は「職業訓練契約」を締結し、期間中は訓練手当が支給され、社会保障の対象にもなる。主な対象者は、基幹学校の卒業生等の義務教育修了者や大学入学資格 (アビトゥーア)取得者で、若者が労働市場に入るための主要な経路の一つとなっている。

企業が職業訓練を提供する理由

このように企業が自主的に訓練を負担している理由はさまざまだ。連邦教育研究省(BMBF)の調査では、「要件を満たす訓練生がいたため(94%)」「労働市場では求める人材が不在のため(90%)」などの理由が上位を占める(図表1)。そのほか、「人員変動を防止するため(80%)」、「優秀な職業訓練生を獲得するため(74%)」、「間違った採用を防止するため(73%)」といった理由もあげられており、人員確保や長期間にわたる採用試験という要素も含まれていることが分かる。

図表1:企業が職業訓練を提供する理由 (複数回答)
図表:画像

  • 出所:教育研究所(BMBF)2003

基幹学校が衰退する一方で、必要性を主張する声も

最後に、前述の通り基幹学校は、3分岐型教育制度に対する批判を受けて廃止や削減が続き、進学先として敬遠されている。しかし、一方で語学力不足で学習にハンデを持つ移民の子が多く通い、基礎的なドイツ語教育や実践教育が充実しているという側面もある。この点に着目して、「昨年来、大量に受け入れている難民にとって最適な教育機関だ」として、基幹学校制度の存続と活用を求める声がある。

今後、難民の庇護手続きが進むにつれて、彼らの語学教育や職業訓練は喫緊の課題になることが予想されているが、既存の制度をどのように活用していくのか、職業訓練制度の在り方とともに、基幹学校の在り方についても議論が交わされている。

参考文献

  • Statistisches Bundesamt (Pressemitteilung Nr. 101 vom 17.03.2016)、Deutsche Welle (14.04.2015)、Der 5. Bildungsbericht (2014)、DGB (2015) "Kein Anschluss mit diesem Abschluss?" -DGB-Expertise zu den Chancen von Jugendlichen mit Hauptschulabschluss auf dem Ausbildungsmarkt ほか

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