「雇う、雇われる」シェアリング・エコノミー
―ベストプラクティス企業を紹介、NELP報告

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2016年5月

スマートフォンのアプリケーションを媒介して、サービスの利用者と提供者をつなぐシェアリング・エコノミーの拡大が、「雇われて働く」ことで労働者が手にしてきた安定が失われることを危惧する声が高まっている。そうしたなか、「雇う、雇われる」という関係を維持したままシェアリング・エコノミーを活用する企業が登場し始めている。

「雇われない」働き方の拡大

シェアリング・エコノミーを活用する企業のうちでもっとも大きな影響力を持つのは、運転手と顧客をつなぎ、タクシーと同様のサービスを提供するウーバーだ。同社は資本金625億ドルと大きな利益を生み出す一方で、運転手を「雇用している」労働者としては扱わない。運転手は売り上げから15%のマージンを支払う一方、価格の決定権はない。労働時間や最低賃金、安全衛生、健康保険、年金などへの義務をウーバーは負わない。ウーバーを仲介して働く労働者は、米国で16万人にのぼる。

タクシーと同様のサービスであるライドシェアから始まり、子守や在宅介護、家事サービス、宅配などの分野で、こうした、「雇われない」で働く労働が拡大している。

「雇用する」シェアリング・エコノミー

多くのシェアリング・エコノミー企業が、雇用主としての責任と負担を回避するなか、いったんはその方向に進みながら、「雇う、雇われる」という関係に回帰してきた企業もある。

法律、経済関係の民間シンクタンクNELPは、サービスの提供者を「雇用」する次の12社を紹介している。

Hello Alfred社(ランドリークリーニング。以下カッコはサービス内容)、Managed by Q社(クリーニングサービス)、Shyp社(宅配)、HomeHero社、Honor社(在宅介護)、Munchery社、Sprig社(調理宅配)、Instacart社(食材購入宅配)、Bridj社(バスシェアリング)、Eden社(技術支援)、Kichensurging社(ケータリング宅配)、Luxe社(バレーパーキング)。

これらの企業は、サービスの提供者を仕事単位の請負から、雇用関係へと変更してきた。

離職率低下と顧客満足度向上が理由

クリーニングサービスを行うManaged by Q社は目的の一つとして離職率をあげた。同社は、正規雇用してきた技術スタッフと雇用してこなかったオペレーターの処遇を同等にしたことで、離職率が大幅に低下したという。宅配のShyp社は、トレーニングや社会保障を充実させたことで、245人の従業員のうち、1人の離職にとどまったとする。
それ以外の企業の多くが、顧客満足度向上を理由にあげた。

在宅介護を行うHonor社は、法律で定められた病気休暇や社会保障に加えて、職業訓練やキャリア上昇の機会を提供することを通じて、サービスの質の向上をはかっているという。

調理宅配のSprig社、技術支援のEden社、ケータリング宅配のKichensurging社、バレーパーキングのLuxe社も同様に顧客満足度の向上を理由にあげている。そのうち、Luxe社の場合、戦略的投資とする。

社会的使命を掲げる企業も

社会的使命を理由とする企業もある。
ランドリークリーニングのHello Alfred社は、労働力の発達にとって雇用は欠くことができないものであり、技能育成と健康保険や年金などの社会保障を手に入れることが経済発展の礎となるとした。

バスシェアリングのBridj社は、経済発展の源は最前線で働く労働者であるとして、時給15ドルを保証することを宣言し、「公正な労働が公正な対価を得る」ための戦いにより、現在進みつつある傾向を変えるための一歩を始めることに興奮しているとした。

時給については、調理宅配のMunchery社も、7.25ドルにとどまる連邦最低賃金を上回る11ドルを保証するとともに、恩恵として、健康保険や年金などの社会保障を提供するとした。

(国際研究部 山崎 憲)

参考

(ウェブサイト最終閲覧:2016年4月10日)

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