「一人っ子政策」撤廃の影響

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  • 国別労働トピック:2016年5月

中国では2016年1月にいわゆる「一人っ子政策」が撤廃され、すべての夫婦に二人目の子どもを持つことが認められるようになった。少子化の進展に伴う労働力不足、国内の投資・消費の縮小などが問題視されてきたことなどから、1970年代から続いてきた人口抑制策は転機を迎えた。今後は「二人っ子政策」のもとで、出産を奨励する方向に舵を切る。中央政府の決定を受け、各地方政府は規定を改定し、結婚・出産の時期を遅らせることにインセンティブを与える「晩婚・晩産休暇」を廃止するとともに、年齢を問わずに法定を上回る「出産休暇」を設けるといった出産優遇措置をとり始めた。だが、経済的な理由などから、2人目の子どもを持つことに消極的なカップルは少なくないとみられている。

出産の権利と管理

中国では1970年代から急激な人口増加を抑制するため、「晩、稀、少」(遅く、間隔を空け、少なく産む)(注1) という「計画生育(出産)政策」をとるようになった。1978年には「できるだけ1夫婦あたりの子どもは一人とし、多くても二人とする」方針が国策として示され(注2)、1979年の全国計画出産工作会議でこの方針から「多くても二人とする」という文言が除かれ、上海市などで「一人っ子政策」がスタートした。1980年には「1組の夫婦に子供は一人とする」ことが全国的に提起された(注3)。法律上は、1978年憲法で「国家が計画出産を提唱し、推進する」ことが定められ、1982年憲法で夫婦に計画出産が義務付けられた(注4)。こうした原則のもとで、第二子出産の条件等の詳細な事項は各地方の条例で規定された。

2002年には「人口・計画出産法」が公布され、「公民は出産の権利を有し、また法によって計画出産を行う義務を負い、夫婦双方は計画出産の実行に共同の責任を負う。」(第17条)、「国は現行の出産政策を安定させ、公民の晩婚晩産(注5)を奨励し、1組の夫婦が一人の子どもを持つことを提唱する。法律、法規に定める条件に適合するときには、第二子の出産を求めることができる。具体的規則<弁法>は省、自治区、直轄市人民代表大会又は同常務委員会が定める。」(第18条)とされ、この規定に適合しない子ども産んだ場合は「社会養育費」を納めなければならないこととされた(第41条)。

ただし、農村部では第一子が女児の場合、第二子の出産が認められ、その後、農村部で経済上の困難がある夫婦は数年間の間隔を空けて第二子を設けてよいとされた。また、夫婦とも一人っ子の場合や、少数民族などにはこの政策を緩和する措置がとられるようになっていた。

2013年の中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議では「改革の全面的進化に伴う若干の重大な問題に関する決定」がなされ、夫婦のどちらかが一人っ子であれば、子どもを二人まで設けることを許容する「単独二人っ子政策」が打ち出された。そして、2015年の同第5回全体会議で、1組の夫婦に二人の子どもを認める方針が示され、いわゆる「一人っ子政策」は「二人っ子政策」に変わった。

「二人っ子奨励」への転換

「二人っ子政策」への変更に伴い、「人口・計画出産法」が改正された(注6)。第18条の「公民の晩婚・晩産を奨励し」という文言は削除され、「1組の夫婦が一人の子どもを持つことを提唱」は「1組の夫婦が二人の子どもを持つことを奨励」に代わった。さらに、第25条の「晩婚晩産の公民は、結婚休暇、出産休暇延長の奨励又はその他の福祉待遇を受けることができる」という条文が、「法律、法規の規定に該当し子女を出産する夫婦は、出産休暇の延長の奨励、その他福利待遇を受けられる」に改められた。

法改正を受け、各地方はそれぞれの「人口・計画出産条例」の見直しを進めている。これまで各地方政府は「一人っ子政策」を推進するため、晩婚・晩産者に対して結婚・出産時の休暇を優遇する規定を設けていた。例えば、北京市、上海市では7日間(結婚休暇(注7)とあわせて10日間)、広東省では10日間(同13日間)の「晩婚休暇」が、北京市、上海市、広東省では30日間、山東省では60日間の「晩産休暇」が、対象となる労働者に付与されていた。「一人っ子父母栄光証」(注8)を取得している者などに、さらに長い休暇を与える地方もあった。

「人口・計画出産法」の改正とともに各地方は条例を改正し、「晩婚休暇」「晩産休暇」など「一人っ子」を奨励する規定を相次いで廃止。それに代わり、「二人っ子政策」に基づく出産を促すため、出産の年齢にかかわらず法定(98日間)(注9)を上回る日数の出産 (生育、育児)休暇を設ける措置などをとり始めている(表1)。上海市や広東省では30日間、四川省、安徽(あんき)省では60日間の出産休暇を法定日数に上乗せして付与することが定められた。
また、配偶者 (夫)の「出産介護休暇」 (育児休暇、出産付添休暇)について、各地で妻の出産年齢などの条件を外し、付与日数を増やす改定も行われている。上海市ではそれまでの3日間(注10)を10日間に、広東省では10日間(注11)を15日間に増やした。

表1:主な地域の「人口・計画出産条例」の内容(改正後)
地域 結婚休暇 出産(生育)休暇 配偶者の育児休暇
北京市 10日 128日(法廷日数+30日) 15日
天津市 3日 128日(法廷日数+30日) 7日
山西省 30日 158日(法廷日数+60日) 15日
遼寧省 10日 158日(法廷日数+60日) 15日
上海市 10日 128日(法廷日数+30日) 10日
浙江省 3日 128日(法廷日数+30日) 15日
安徽(あんき)省 3日 158日 (法定日数+60日) 10日1)
山東省 3日 158日 (法定日数+60日) 7日
湖北省 3日 128日 (法定日数+30日) 15日
広東省 3日 128日 (法定日数+30日) 15日
広西チワン族自治区 3日 148日 (法定日数+50日) 25日
四川省 3日 158日 (法定日数+60日) 20日
  • 1)夫婦が別々の地方で暮らしている場合は20日間。
  • 資料出所:中国国家衛生・計画出産委員会、各地方政府ウェブサイト

少子高齢化に歯止めはかかるか

中国国家統計局によると、中国の生産年齢人口(15~59歳)は2011年をピークに減少に転じた。「二人っ子政策」への転換には、こうした少子高齢化に歯止めをかけることが期待されている。中国社会科学院人口・労働経済研究所では「中国の出産率はすでに非常に低い状況であることから、今後の労働力不足は目に見えており、高齢化が急激に進んでいる。二人目出産の全面解禁は、出産率を速やかに引き上げ、人口構造上の矛盾を緩和する上で、極めてプラスに働く」との見方を示している。

しかし、「中国青年報」などが約3000人の男女を対象に実施した調査結果 (2015年11月発表)によると、二人目の子どもを持つことについて「考える」と答えた人は約半数の46.2%だった。そして、51.6%が「生活の質は落としたくない」、40.4%が「今の生活のリズムを崩したくない」、32.1%が「職場での出世の可能性を犠牲にしたくない」として、二人の子どもを持つことに慎重な姿勢をみせている。また、86.6%が「社会の福利厚生が整わなければ安心して二人目を産めない」と答えている。

中国のメディアである「毎日経済新聞」の報道によると、中国の旅行サイト「携程網」の最高経営責任者 (CEO)である梁建章氏 (北京大学教授)は2015年12月に行われたフォーラムで、「本当に二人目を産みたい夫婦は30%程度だ」との考えを示した。そのうえで、政府はGDP (国内総生産)の15%程度に相当する額の補助金を子育て世帯に支給することを検討すべきだと提案し、育児世帯の負担を軽減し、社会の少子高齢化に歯止めをかける必要性を訴えた。

参考資料

  • 新華網、人材網、人民網、第一財経、中国国家衛生・計画出産委員会ウェブサイト、中国人大網、中国通信、毎経網

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