ソーシャルメディアを利用したビジネスに対する司法判断や政府の対応

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2016年4月

デジタル通信技術を活用したタクシーに代わる新しい配車サービス、「ライドシェア」は世界で拡大している。旅客運送に限定されず、様々な業種や業界に広がりを見せている。特徴は資格や許認可のニッチにあることである。新しい業態の出現は、既存の業態との対立も生まれ、労働者の就労条件の低下や従来の就労形態の労働者との格差の問題が浮き彫りになっている。これに対して、司法の判断や政府による法令の制定などによって、新規参入者に対して一定の規制をかける動きがみられる。

昼食宅配や洗濯物の回収・配達サービス

ソーシャルメディアを利用した新しいサービス形態がさまざまな分野で広がりつつある。その一つ、Uberは2015年10月にパリ市内で昼食宅配サービス「UberEATS」の提供を開始した。提携する飲食店のハンバーガー、サンドイッチ、スシなどを、配車仲介サービス部門の運転手が注文を受けて、10分以内に配達する。同年5月には、カンヌ映画祭開催期間中に、ニースとカンヌの間をヘリコプターで輸送したことで有名になった(注1)。これは携帯アプリ「UberCopter」を通じて、HelipassとAzur Hélicoptèresというヘリコプター運送企業による移動を予約するものだ。航空機製造大手のエアバスは、2016年1月、Uberとのオンデマンド輸送の協業計画を発表している。デジタル通信技術を活用し自社製のヘリコプターを幅広い層へ利用拡大することで、高い維持費に見合うサービスの提供をめざしている。

Uber型(Uber du pressingあるいはuberiserと呼ばれている)の従来にない形態は、Uber以外の企業や業界に広がりを見せる。例えば、クリーニング業界では、Cleanio社がアプリを利用した洗濯物の回収・配達サービスの提供を2016年1月に開始。運搬は自営業者が行い、クリーニングは契約下請け店が行う(注2)

配車サービス業者間の対立と司法判断

こうした新しいサービス形態の出現は既存の業種との間で競争の激化が生じ、ともすると暴力を伴う軋轢に発展している。

Uberによる相乗りサービス「UberPOP」サービス開始以降の経緯を示したのが、下の一覧「新しい配車サービスをめぐる最近の出来事」である。

国別労働トピック2016年3月「ライドシェアがタクシー・ハイヤーに与えた影響」では、VCT(ハイヤー)業者とタクシー業者との対立を紹介した。その構図はソーシャルメディアを利用した配車サービス業者の参画により複雑化しつつある。タクシー事業者とUberとの間で値下げ競争が展開されている上に(2015年10月)、既存のタクシー業者やVTC業者からは、新規参入者に対する規制強化を求める動きが起こっている(2014年12月、2016年1月)。タクシー業社はUberPOPの禁止を求めて15年6月に抗議行動を起こしたが、その際には、10人が逮捕され、70台の車両が壊された。

2014年3月にUberPOPは経済省下の機関によって摘発され、パリ地裁は同年10月、不当競争であると認定した。Uberは自らのビジネスモデルを「相乗り」であると主張したが、刑事事件で有罪となり10万ユーロの罰金が課された(2014年10月)。これを不服としてUberは控訴したのだが、あらためて2015年12月にパリ高裁が地裁判決を支持し、15万ユーロの罰金刑を課し、UberPOPを不当商行為であると認定した。

一方、UberPOPの禁止を求めるVTC業者の訴えは、パリ商事裁で棄却された(2014年12月)。その意味は、違法行為の摘発が商事裁判所の管轄外だからである。タクシー運転手はこの判断に反発して、道路を封鎖するという抗議行動に出た。既存の規制を超えた新事業の展開がもたらす混乱を収拾するために、政府は12月15日、タクシー・ハイヤー業の規制に関する法律(通称テブヌー法)を制定した(2015年1月1日から施行)。Uberはこの法令が違憲であるとして提訴した。その判断が実際に出されるまでUberはサービスの提供を続けるという姿勢を貫いていたが、2015年6月には地方都市でのUberPOPのサービス展開を期に、マルセイユ、ナント、ストラスブールでタクシー業者が抗議行動を起こし、Uberの運転者に危害が加わるようになったため、Uberは7月に自主的にUberPOPのサービス提供を中止した。その後、9月には憲法評議会が、テブヌー法の合憲を認定したことで、政府による相乗りによる配車サービスの規制が正当化された。

労相の要請に基づく報告書

Uber型の仲介企業による新たな就労形態の出現に対して、既存の税制や社会保障システムは対応しきれていない。その大きな理由として現行制度では徴収すべき税や社会保険料の徴収ができていないことである。

2015年9月には、「デジタル経済と労働(Transformation numérique et vie au travail)」というタイトルの報告書が政府に提出された。労相の要請に基づき、通信企業大手オレンジのメトラン人事部長がとりまとめたものである。報告書は、情報通信手段の普及により、新しい就労形態がもたらす弊害を指摘している。既存の社会保障システムや税制が対応できていないため、制度改革が必要だと報告書は提案している。具体的には、シェアリング・サービス業を対象とした法整備が必要だとする。フランスでは、医療や年金、失業保険や家族手当などの保険料を雇用主から徴収する。しかし、現行制度では雇用主ではないシェアリング・サービスを営む企業からの納付は十分ではないとする。

2016年2月にはグランギヨーム下院議員(社会党)が、タクシーとVTC業者の対立打開のための方策に関する報告書を政府に提出した。同議員はタクシーとVTC業者の対立の調停人に任命されている。現在、タクシーと各種の旅客輸送サービスの所轄行政機関は異なる。この監督業務を運輸省に一元化することとともに、旅客輸送サービスの競合を調整するための協議の場の設置を報告書は提案している。そこで対象となるのは、タクシーとVTC等の配車サービスに従事する労働者の資格の再検討などである。タクシー免許は、VTCの台頭したことで価値が低下している。これに配慮して、補償を行うことも提案している。

新しい配車サービスをめぐる最近の出来事

  • 2014年2月
    • 2月5日 Uber、パリで自動車相乗りサービスの「UberPOP」を開始
  • 2014年3月
    • 経済省下の摘発機関(DGCCRF)が「UberPOP」の違反行為を確認
  • 2014年8月
    • パリ商事裁判所、Uberに料金請求方法の変更を命令、タクシー業界の勝訴に
  • 2014年9月
    • 9月18日 下院、ハイヤー業界の規制法案を可決
  • 2014年10月
    • 法人向けハイヤー配車サービス「Uber for Business」開始
    • 10月6日 パリ地裁、Uebrに刑事事件で有罪判決(10万ユーロの罰金刑):「UberPOP」のサービスを「相乗り」と称するのは不当競争と認定、Uber側は控訴へ
  • 2014年12月
    • 12月15日 タクシー業者が、パリで抗議行動:アメリカの配車サービスUberの相乗りサービス「UberPOP」の禁止を要求、パリに通じる幹線道路の封鎖
    • 12月12日 パリ商事裁、ハイヤー会社による「UberPOP」の禁止請求を棄却
    • これに反発してタクシー運転手らが道路封鎖などの抗議行動を実施
    • 12月15日 政府はタクシー・ハイヤー業の規制に関する法律(通称テブヌー法)を制定(2015年1月1日から施行)
  • 2015年2月
    • Uber、フランスのハイヤー・サービスの規制がEUの規則に抵触すると主張し、欧州委員会に対してフランスを相手取った提訴
  • 2015年5月
    • Uber、カンヌ映画祭にあわせてヘリサービスを実施
  • 2015年6月
    • パリ首都圏のタクシー、一部料金が一律に
    • UberPOP」を仏地方都市でも開始
    • 6月10日 3都市(マルセイユ、ナント、ストラスブール)でタクシー業者が抗議行動
    • 6月25日 タクシー業者、アメリカUebrの相乗り仲介サービス「UberPOP」の禁止を求めて本日全国で抗議行動。抗議行動は一部で暴動に発展、10人が逮捕、警官7人が負傷、合計で70台の車両が損壊の被害
    • 6月29日 仏捜査当局、Uberの代表者2人を勾留し、取調べを開始。情報技術犯罪捜査班(BEFTI)、「UberPOP」の違法性についての捜査の一環
  • 2015年7月
    • UberPOP」のサービスを停止。
  • 2015年9月
    • 9月15日 報告書「デジタル経済と労働」、政府に提出
    • 9月23日 憲法評議会、UberPOP禁止の法令を合憲と認定
  • 2015年10月
    • 10月1日 Uber仏子会社の経営者2人、刑事訴追の対象に
    • 10月8日 Uber、パリで価格引き下げ
    • 10月9日 パリのタクシー料金がUberに対抗して値下げ
    • Uber、パリ市内で昼の食事の宅配サービス開始
    • Uberに加盟するハイヤー運転手らが、自前のアプリ「VTC CAB」を立ち上げ
  • 2015年12月
    • 12月8日 パリ高裁、Uberに対して15万ユーロの罰金刑。UberPOPを不当商行為と認定
    • 12月15日 Uberなどの配車サービスの運転手、待遇改善を求めて抗議行動
  • 2016年1月
    • 1月26日~29日 タクシー事業者、Uber等配車業者への規制徹底を要求して抗議行動を実施
  • 2016年2月
    • 配車業者10社を集める業界団体AMT、3日に抗議行動
    • 2月11日 タクシーと配車サービス業者の対立問題で、政府から調停人として任命されたグランギヨーム下院議員(社会党)が報告書を提出

出所:Les Echo紙、Le Mondeを参照し作成

参考資料

  • Les Echo, 31 Mars, 5 août, 17 octobre, 15 décembre, 2014, 18 février, 5 juin, 26 juin, 30 juin, 23 septembre, 6 octobre, 9 octobre, 10 octobre, 15 décembre, 2015, 18 janvier, 2016 など
  • Le Monde, 5 février, 2014, 4 juillet, 16 septembre, 2015, 27 janvier, 14 février, 2016 など

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