問われる元請け企業の雇用者責任

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2016年1月

フランチャイズ展開をする本社企業と業務を下請けに外注する元請け企業の雇用者責任が問われている。全国労働関係委員会(NLRB)および裁判所では、下請け企業等との請負契約に切り替えられた労働者と元請け企業等との間に雇用関係があるとする認定や、フランチャイジーに雇用される労働者の雇用上の責任がフランチャイザーにあると裁定される動きが拡大している。

請負を雇用に戻す

中核的ではない事業部門を外注化して、雇用関係を業務ごとに契約を交わす請負契約へと切り替えてきる動きが近年、拡大してきた。その一方でそこに歯止めをかける動きも進んでいる。

カリフォルニア州でアマゾン・プライム・ナウ(Amazon Prime Now)の配達を担当していた元運転手はアマゾンおよび配達会社スクービーズ(Scoobeez Inc)に対し、10月27日にロス・アンジェルス郡高等裁判所に集団訴訟を起こした。雇用関係であれば雇用主が支払うガソリン代や車両代金、車のメンテナンス代、有料道路通行料、自動車保険等の支出が請負では自己負担となる。アマゾンは配達業務をスクービーズに委託するとともに、運転手をスクービーズとの請負契約とした。

運転手は1時間あたり11ドルの報酬と顧客からのチップを受け取る。ここから自己負担額を減じた場合、カリフォルニア州が定める最低賃金である時給9ドルを下回ることもあるという。

アマゾン・プライム・ナウのサービスは、スマートフォンのアプリケーションで受け付けた注文を一時間もしくは二時間以内に顧客に配送するものである。このサービスを展開するために、アマゾンはカリフォルニア州でスクービーズなど複数の企業に配達業務を委託している。

運転手は、アマゾンとスクービーズ両社のロゴが入った身分証とアマゾン・プライム・ナウの制服を支給されるとともに、勤務時間や運行ルート等の支持など両者の指揮命令下にある。そのため、不当に請負労働者に誤分類(Missclassification)されていると労働者側が主張し、雇用関係にあるならば手にするはずの残業代や自己負担金の弁済を求めた。この事案は、スマートフォンのアプリケーションを活用したタクシー配車サービスを行うウーバーやリフトの労働者の誤分類と同様の問題を提起している。

10月19日には別の配送運転手の誤分類に関する採決がでた。ニューヨーク連邦裁判所が、運送業を営むTXXサービスが請負として契約していたトラック運転手と雇用関係があることを認定したニューヨーク東地区地方裁判所に対する上告が棄却されたのである(Thomas v. TXX Servs., Inc., E.D.N.Y., No. 2:13-cv-02789, judgment entered 2015年10月14日)。前述のウーバーや、運送業フェデックスなどで、労働者の誤分類を正し、請負から雇用へと認定される動きが続いている。

問われるフランチャイズ本社の責任

請負契約とすることで雇用者としての責任から逃れるものが誤分類の問題であるとすれば、ノウハウや商標等を提供するフランチャイザーが提供を受ける側であるフランチャイジーに雇用される労働者に対する雇用者としての責任から逃れているとの指摘がある。

全国労働関係委員会(NLRB)法律顧問室(General Counsel Office)は2012年からフランチャイザーであるマクドナルド・USAがフランチャイジーで雇用される労働者の共同雇用者として不当労働行為を行ったとする181件の訴えを受け付けていた。調査の結果、68件が継続調査、43件が不当労働行為の実態があるとして和解を勧告したものの実行されなかったため、2014年7月19日にNLRBが共同雇用者の責任があるとしてマクドナルド・USAに訴状を発行した(145 DLR A-1, 2014年7月29日)。

マクドナルドのフランチャイズでは、2012年から始まる労働組合組織化や賃金引上げを求める活動に参加したことによる解雇が全米各地でおきた。これに対し、労働者側がマクドナルド・USAが実質的な雇用主として、不当労働行為にあたる解雇の責任があるとして、NLRBに訴えていた。NLRBは調査の結果、マクドナルド・USAがフランチャイズに対して労働組合組織化キャンペーンへの対応策を指導していたことなどに共同雇用者としての実態があるとしていた。

NLRBは労働組合組織化阻止の有力な証拠となる役員の電子メールなどの提出を求めたが、マクドナルド・USAは内部文書の提出に100万ドル以上の経費がかかっているほか、膨大な弁護士費用も負担しており、これ以上の資料の提出には応じられないとして、ニューヨーク南地区連邦地方裁判所に訴え出ていた。裁判所は10月20日にNLRB側の主張を認める裁定をした(NLRB v. McDonald's USA LLC, S.D.N.Y., No. 1:15-mc-00322, 2015年10月30日)。マクドナルド・USA側は、フランチャイジーで雇用されるすべての従業員に対して共同雇用者としての責任があるとみなされるようにNLRBが根本的に法律を書き換えようとしていると主張していた。裁定により、マクドナルド・USAはNLRBの求める資料を提出することになり、NLRBでの審議が継続されることになった。

(山崎 憲)

参考

  • Erik Larson, 2015, McDonald's Must Turn Over More Documents to NLEB, Daily Labor Report, Oct.30, 2015
  • Lisa Nagele-Piazza, 2015, Amazon Faces Delivery Driver's Wage & Hour Class Action, Oct.28, 2015

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