ミニジョブの現状と課題

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2016年1月

連邦労働・社会省(BMAS)は10月16日、ミニジョブ(僅少労働)の現状と課題について話し合う会議を開催した。会議には、ドイツ労働市場・職業研究所(IAB)やミニジョブセンターの代表者らが出席し、労働者の処遇改善を図るための方策が話し合われた。

ハルツ改革以降、200万人増

ミニジョブ(僅少労働)とは、雇用機会の拡大を目的として収入が月450ユーロ以下の場合に、所得税と社会保険料の労働者負担分を免除する制度である(ただし、使用者は免除されず、税金、健康保険、年金保険の計30%の負担義務がある)。2003年の「ハルツ労働市場改革(注1)」で、ミニジョブの報酬上限を325ユーロから400ユーロ(現在は450ユーロ(注2))に引き上げた代わりに、週労働時間の制限(上限15時間)を解除し、時給の下限を事実上廃止した。そのため、以降、この雇用形態は短期間で急速に拡大した。その後、2015年1月1日の法定最低賃金(時給8.5ユーロ)の導入に伴い、ミニジョブもその適用を受けて、再び時給の下限が設けられた。

ミニジョブに対する考え方は、労使で異なる。ドイツ使用者団体連盟(BDA)や自由民主党(FDP)は、「闇労働(社会保険料負担などから逃れる目的で届出なしに行われる労働)の防止に重要な役割を果たしている」として評価している。一方、ドイツ労働総同盟(DGB)や社会民主党(SPD)は「社会保険義務のある雇用を空洞化させ、低賃金セクターを固定させる要因になっている」として、批判的に捉えている。

2014年のミニジョブ労働者は計750万人で、2003年のハルツ改革以降、約200万人増加した(注3)。このうち、ミニジョブの専業従事者は510万人で、本業のほかに税負担のない副業としてミニジョブに従事する者は240万人であった。また、ミニジョブ労働者は、小売、飲食、宿泊、保健・医療施設、福祉施設、ビル清掃業などのサービス分野で多く働いている。

副業ミニジョブの動機 ―"頼みの綱" "節税のため"

社会経済パネル調査(SOEP)(注4)を用いたミニジョブ分析を行ったハンスベックラー財団のドロテア・ヴォス研究員は、「副業でミニジョブ労働をする者は、主に二通りに分かれる。ある者にとってミニジョブは"頼みの綱"であり、また別の者にとっては単なる"節税のため"である。前者の多くは女性で、彼女らは生活(困窮)のためにミニジョブ労働をしている。また、その場合、往々にしてパートタイムとミニジョブを組み合わせるケースが多く、特に離婚した女性が多い」と述べる。一方で、ミニジョブを副業とする男性は、経済的に裕福な階層に属していることが多く、「税金を払わずにいくらかの副収入を得たいと考える有資格専門職の者が多い」と同研究員は説明する。その上で、「特にパートタイムとミニジョブの組み合わせは女性たちにとって"困難な道"になる。社会保険加入義務のあるフルタイムと比較すると、ミニジョブを副業に持つ女性たちが将来獲得する年金は非常に少ないからである」と分析する。

同財団の経済社会研究所(WSI)前所長、ハルトムート・ザイフェルト氏も「ミニジョブを含む非正規雇用は、ドイツの雇用労働者全体の4割弱に達しており、その中には"老後の貧困問題という時限爆弾"を抱える人が多く、特に女性はその傾向が高い(注5)」と警告する。

ミニジョブ労使への啓発活動の必要性

ドイツ労働市場・職業研究所(IAB)の実態調査によると、ミニジョブ労働者の3分の1は有給休暇がなく、過半数は、疾病時の賃金継続支払い(注6)を受けていなかった。

さらに無期雇用のミニジョブ労働者の15%強は「労働契約書を使用者から受け取っておらず、主要な労働条件についても伝えられなかった」と回答している(全雇用労働者における同割合は3.5%のみ)。調査からは、ミニジョブ労使双方が請求権や権利の存在を知らないか、または知っていたとしても、それが現場で行使されていない現状が明らかになった。

そのため、まずは「ミニジョブ労働者に対して、労働者の権利と法令に関する知識を広く普及させること」、また、知識だけでは不十分で、「具体的な権利行使のために広く社会的な認知を促進しつつ、同時に使用者に対する啓発活動(例えば、労働者の権利を認めなかった場合の法的制裁情報など)も強化していく必要がある」とIABは結論付けている。

ミニジョブ労働者の状況改善に向けた取り組み

ミニジョブセンターは2003年に設置され、関連の社会保険料徴収、雇用労働者の同加入・解約手続き業務のほか、労使双方に向けた幅広い情報提供・相談サービスを行っている。同センターの主な目的は、不法就労を防ぎ、ミニジョブ全体の法的保護を促進することである。また、2014年12月からは、ミニジョブに関する独自の求人・求職仲介サービスも始めており、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)連立政権の連立協定(2013年11月締結)に基づき、情報提供サービスの拡大を進めている。同センターは、「ミニジョブ労働者は、あらゆる雇用労働者と同等の権利を有している」というスローガンをサービスの中心に掲げている。

冒頭の連邦労働・社会省(BMAS)の会議では、ミニジョブ労働者の状況改善のため、同センターの広報業務をさらに強化・拡張することが取り決められた。

会議ではさらに、2015年1月1日に導入された全国法定最低賃金(時給8.5ユーロ)が、ミニジョブ労働者の状況改善に大きな役割を果たしたことも報告された。特に最低賃金と同時に導入された「文書化義務」は、「ミニジョブ労働者の諸権利を実現する可能性を大幅に改善した」とBMASは評価している。BMASによると、最低賃金導入後、サービス業に従事するミニジョブ労働者は約19万人減少したが、同時に、ミニジョブが多い産業で社会保険加入義務のある雇用労働者数が増加した。このことから、「最低賃金の導入は、ミニジョブ労働者の待遇改善をしただけでなく、社会保険加入義務のある雇用への移行促進効果もあった」とBMASでは考えている。

参考資料

  • Rechten von Minijobbern Geltung verschaffen 16. Oktober 2015 BMAS Pressemitteilungen, Minijob als "Mittelschichtsphänomen" 04.11.15 Die Welt, Dr. Hartmut Seifert (27.11.2015) Atypical employment in Germany, WSIほか。

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