民間委託と職場委員の解雇の撤回を求めるストライキ

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2015年10月

ロンドンのナショナル・ギャラリーで、従業員の雇用契約の移管を伴う民間への業務委託をめぐって生じていた労使紛争が、のべ100日以上に及ぶストライキを経て10月初めに終結した。組合側の求める民間委託の撤回は実現しなかったものの、将来的な委託の見直しや、従業員の労働条件の維持、また紛争に関連して解雇された職場委員の原職復帰などが、合意内容に盛り込まれた。

従業員の大半の雇用が委託先へ

同美術館では、政府の歳出削減に伴う補助金の減額に対応するため、経営側が収益改善策として営業時間の延長などを計画していた。しかし、労働時間や処遇をめぐって組合側との協議が難航、これを受けて、経営側は昨年7月、来館者に対する窓口サービスやガイドなどを民間委託する方針を示した。労働組合は、従業員600人のうち、対象業務に従事するおよそ400人の従業員の雇用に影響が生じるとして計画の撤回を求めたものの、経営側は、業務委託はサービス拡大による収益改善のために必要な措置であると延べるとともに、対象となる従業員の雇用は委託先企業に引き継がれ、労働条件も保護される(注1)として、計画再考の可能性を否定した。

加えて、反対運動の中心となっていた労働組合の職場委員が解雇されたことも、対立の悪化を招いた。経営側が先行して導入した一部の警備業務の民間委託に関して、同職場委員が委託費に関する内部情報を上部団体である公務部門労組PCSの交渉委員に提供したことが守秘義務違反にあたる、というのが処分の理由だ。経営側は、2月のストライキ開始直前に職場委員を停職処分としたのち、5月に解雇した。

組合側は、民間委託の撤回と職場委員の原職復帰を求めて断続的にストライキを実施していたが、経営側が7月末に委託先事業者を決定したことを受けて、8月上旬に無期限ストに移行した。委託先となるセキュリタス社は、主に小売店舗や空港などの警備を請け負う企業であることから、ひとたび雇用契約が移管されて以降は、美術館以外の職場に異動を命じられる可能性が危惧されていた。労使紛争のあっせん等を行うACAS(助言・斡旋・仲裁局)を介した交渉の中で、組合側はより柔軟な就業を受け入れることなどを含む代案を示し、業務委託の回避を求めたが、経営側は想定している条件と合わないとして、これを拒否した。

民間委託は1年後に見直し、職場委員は原職復帰

ストライキは、9月下旬に通算で100日を超え、人員不足から多くの展示室の閉鎖が続いた(注2)。現地メディアによれば、美術館の来客数はこの間、35%減少したという。組合による電子署名活動には13万人超が署名を寄せ、このほか芸術家やジャーナリスト、他労組など多くの人々が組合支持を表明した。

最終的に、10月はじめに労使間で合意が成立し、組合はストライキの終了を決めた。組合側が求めた民間委託の撤回は実現しなかったものの、経営側と受託事業者は、就業場所を含む労働条件の継続を約束、また委託契約についても1年後に見直しを行うとしたほか、解雇された職場委員の復職も認めた。組合側は、民間委託の廃止に向けて、引き続き活動を行う意向を示している。

参考資料

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