リベラル系シンクタンクが失業保険制度の改革を提案

カテゴリー:雇用・失業問題多様な働き方労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2015年7月

景気が回復基調になり、失業率が低下傾向をみせるようになるなかで、従来のような安定した雇用ではなく、雇用期間が短い低賃金の労働や雇われずに働く請負労働者のような形態が増えたことが明らかになった。こうした景気変動や働き方の変化に対応して、失業保険制度を改革するべきだとする報告書を民間シンクタンクNELP(National Employment Law Project)が発表した。

不完全雇用に対応

NELPは労働弁護士を中心とする法律、経済関係のリベラル系シンクタンクである。NELPによれば、失業率は2014年9月に6%を切ったものの、職探しをあきらめた約600万人の人が再び求職活動に転じれば、失業率は9%を超えるという。その意味では、雇用状況が良くなっているとは言いがたい。とりわけ、25歳から54歳までの働き盛りの男性(prime-age men)の就業率が回復していないことを問題視する。

また、企業側による柔軟な雇用に対する要請から、自分の意志によらずにパートタイムや期間契約労働を選ばざるを得ない人の数が増えているが、そのことが、労働市場の底辺にいる労働者にとって、労働条件や経済地位を弱体化させているとする。そのため、仕事を失っている期間と自らの能力を下回る仕事に従事せざるを得ない不完全雇用(underemployment)の期間が長期化する傾向が強まっていると指摘する。

NELPの報告書は、こうした状況に、失業保険制度が対応できていないとして、四つの改革案を提示したものである。

失業長期化防止のための四つの改革案

一つ目の提案は失業の長期化を防止するための施策である。そのために四つの方策を呈示している。

  1. 連邦政府による失業対策予算の削減傾向が続くなかで、予算配分を再雇用向けサービスに集中させること。具体的には、キャリア・カウンセラーの数を増やすことと、失業保険の長期受給者の実像を明らかにする精度を高めるための予算を増やすことである。
  2. フルタイムの仕事を探している求職者が部分的に失業保険の給付を受けながらパートタイム労働に従事して収入を得ることができるような法改正を行うこと。
  3. 現行で29州およびコロンビア特別区にあるワークシェアリング法を他の州にも拡大し、景気後退期にワークシェアリングを活用して失業を防ぐこと。
  4. 失業者に対する採用差別を禁止すること。

二つ目の提案は、これまで失業保険給付の対象となってこなかったか、もしくは現行制度のもとでも例外的に認めてきた対象に対する適用を拡大するための施策であり、次の四つをあげる。

  1. 週20時間以上が必要とされる現行の基準を拡大してパートタイム労働者も失業保険の受給を可能にすること。
  2. 部分的失業に対する保険適用の規則を強化して、不完全雇用の状態にある労働者が人間らしい生活を保障するための所得補助を行うこと。
  3. 期間契約労働者による失業保険給付申請における恣意的な資格剥奪をやめさせること。
  4. 現在の法制度の下では給付対象とされない自発的失業であっても、個別の事案を勘案して給付対象とするように、正当な事由を拡大すること。

長期失業の状態にある求職者に対する支援の拡大

三つ目は、現行で26週を上限とする失業保険給付期間を確保し続けるとともに、給付期間が切れた長期失業者とその家族に対する支援の拡大のための施策であり、四つをあげている。

  1. 失業保険の給付期間が切れた労働者を含め、長期失業にある求職者が民間、NPO、公共機関で臨時の職に就いて賃金を得られるようにするための基金を創設すること。
  2. 最大26週間の追加的職業訓練機会の提供。
  3. 長期失業者とその家族に対する政府支援プログラムへの円滑な接続。
  4. 失業保険給付期間を短縮しようとする政治的な圧力に対抗して、26週間の給付期間のための予算を確保すること。

失業保険インフラの強化

最後は、「失業保険インフラの強化」と題して、安定した財政基盤やどのような求職者であっても利用しやすくする制度を実現するための施策として、次の三つをあげている。

  1. 政治情勢によって額が上下し、現在は低下傾向にある予算額を安定的なものとして、来るべき次の景気後退に向けた準備を確保するための信頼できる財政基準の採用すること。
  2. 連邦予算額の上下に影響を受けずに効率的に資源が保証されるように、安定的な税財源を維持すること。
  3. 低賃金労働者や言語および知識上の制限をもつ労働者が失業保険制度を利用するうえでの障壁を減らすこと。

長期失業と不安定雇用に対する多面的な取り組み

冒頭にあげたように、NELPの問題意識は、柔軟な雇用の活用が進むなかで、失業が長期化するだけでなく、不完全雇用や低賃金労働が拡大する状況で、求職者とその家族が安定した生活を送るためのセーフティーネットを充実させることにある。同時に、こうした変化は不可逆的に進展するとの予測のもとで、低くとどまる賃金を引き上げるための運動も支援するなど多面的に取り組んでいる。

(山崎 憲)

参考

McKenna, Claire, 2015, The Job Ahead: Advancing Opportunity for Unemployment Workers, National Employment Law Project.

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