「政府系事業組織」の高度な専門性を考慮した管理規定を公表

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  • 国別労働トピック:2015年7月

中国共産党中央弁公庁はこのほど、「事業単位の管理人員に対する管理暫定規定」(以下:「暫定規定」)を公表した(注1)。「事業単位」(Institutional Organization)と呼ばれる政府系事業組織の管理人員(管理職層)について、それぞれの職務を担当するのに必要な資格要件や、選抜方式、任期、評価制度などを定めている。

「事業単位」に含まれる組織

「事業単位」は全国に110万ほどあり、約3100万人が従事している。現在の中国における「事業単位」とは、社会公益目的のため、国家機関が設立する社会サービス組織、あるいは他の組織が国有資産を利用して設立する組織で、教育、科学技術、文化、衛生などの活動を行なう社会サービス組織とされている(表1)。事業内容は(1)行政機能、(2)生産経営、(3)公益サービス、の3種類に大別される。よく知られた「事業単位」としては、北京大学、清華大学、中国科学院、CCTV(中国中央電視台)、人民日報社、新華社通信、北京同仁医院、北京協和医院、といった教育、研究、報道、医療などの各種機関がある。

表1:「事業単位」に関する定義の推移 (1950年代以降)
規定(発表時期) 事業単位に関する定義
「1954年国家決算と1955年国家予算の報告」(1955年、全国人民代表大会) 国家機関により統制され、経済計算(economic calculation)を行わない部門や単位で、その経費は国家より支出される。たとえば、学校や、病院、研究所など。
国務院「編制管理に関する暫定方法」(1963年) 国家発展あるいは生産条件の改善のため、人民の文化、教育、衛生などの水準を向上させる。その経費は国家により支出される単位である。
「国務院各部門の直属する事業単位の編成管理に関する試行」(1984年) 国家発展あるいは生産条件の改善のため、国民経済、人民文化生活、社会福利などのサービス活動に従事し、国家資金の蓄積を直接目的とする単位である。
国務院「事業単位登記管理暫定条例」(1998年) 社会公益目的のため、国家機関が設立する社会サービス組織、あるいは他の組織が国有資産を利用して設立する組織で、教育、科学技術、文化、衛生などの活動を行う社会サービス組織である。

硬直的な人事管理を活性化

今回の「暫定規定」は「事業単位」の管理人員に対して、初めて示された規定である。これまでは、政府行政機関の幹部公務員に対する条例(「党政府指導幹部選抜任用仕事条例」)を参照に管理されてきたが、「事業単位」の管理人員には高い専門性や技術が求められており、この条例を適用したままにしておくのは問題があった。たとえば、医療知識や仕事の経験の乏しい人物も病院の院長に任命することができるので、組織の運営・発展に支障を来たすこともある。このため、2014年に中国政府は条例を修正し、「事業単位」の管理人員を適用範囲から除外。このたび発表された「暫定規定」で、任命資格、選抜方式、任期、評価制度などを新たに規定した。

任命にあたっての資格要件

管理人員を任命する際の基本条件については、①組織管理能力、公共サービス精神、改革精神、②関連する専門分野の資質、就業経験、政策・法律・業界の発展状況に関する知識、業界での名声、③事業への意欲と責任感の強さ、などを備えていることをあげている。

選抜方式

業界の特徴や職位の需要に基づいて選抜方法を決める。具体的には、組織内での選抜・競争のほか、公開選抜(注2)や、ヘッドハンティングのように第三者に委託して外部から人材を選抜する方式がある。
選抜された人員の任用については、状況に応じて、「選任制」「委任制」「聘任制」(注3)のいずれかの方式を用いる。特に行政的な管理人員に、「聘任制」を広めるべきだとしている。

任期管理

「事業単位」では、一人の管理人員が同じポストを長期間勤めていることが少なくない。その弊害を防ぐため、「暫定規定」では初めて、管理人員の任期を明確化。一般的には3~5年、最長で10年を超えないとし、そのうえで、「事業単位」の発展の観点から、任期目標責任制を設けることについても規定した。任期目標はそれぞれの「事業単位」の特徴に基づき、基礎づくり、長期的な利益、実際の効果、を重視して設定。その設定の時には、従業員代表大会あるいは従業員代表の意見を十分に聞くべきだとしている。

評価制度

「暫定規定」では、「事業単位」の管理組織と管理人員の考査(評価)について、平時考査(日常的な評価)、年度考査、任期考査に分けている。評価の基準については、任期目標を根拠に、日常的な管理を基礎として、発展や社会的な利益につながる業績を重視。また、管理組織の年度考査と任期考査は、優秀、良好、一般、較差(「一般」に及ばないレベル)に、管理人員の年度考査と任期考査は、優秀、合格、基本合格、不合格の4段階にそれぞれ分けられている。

免職・辞職

「免職」(第34条)は、①職業年齢あるいは定年退職年齢に達するとき、②年度考査、任期考査に「不合格」、あるいは2年度連続で「基本合格」のとき、③免職に値する責任を課せられたとき、④仕事の需要あるいは他の原因があるとき、と規定。また、「辞職」(第35条)は、①他の公務等の仕事に移るとき、②自らの意志によるとき、③免職に値する責任を課せられ自ら辞めるとき、④免職に値する責任を課せられるとき、の4つのケースがあるとしている。

「暫定規定」の施行には、「事業単位」の管理人員の硬直的な人事管理を活性化する目的がある。しかし、仕組みを変えても実際に機能するかどうか、世論には疑問視する見方もある。深圳(シンセン)市では公務員の「聘任制」を試行したが、2007年~13年の6年間でひとりも辞職しなかったという。このように制度を改めても、「鉄飯碗」(雇用の安定した職場)に変りはないのではないかという厳しい声も上がっている。

人事制度・収入分配・社会保険制度の改革

2011年3月、国務院は「事業単位改革の分類推進に関する指導意見」で、「事業単位」の人事制度、収入分配制度、社会保険制度などに言及し、その後、さまざまな改革が行われてきた。

2014年5月の「事業単位人事管理条例」では、従業員の公開募集、契約規定、給与・福利厚生、社会保険など様々な分野の改革について規定。「年金二重性」の問題に関しても、民間企業の年金と一元化する方針を示した。2015年1月の「事業単位従業員年金保険制度に関する決定」では、「事業単位」の従業員に基本年金保険料の支払いを義務化。基本年金保険制度は「都市従業員基本年金制度」と同じく賦課方式と積み立て方式で構成される。企業年金も検討できることになり、「二重性年金」の改革は、長年模索し続けてきた「一元化」に向かってきた。

また、2015年1月の「事業単位従業員基本賃金標準の調整に関する実施方案」では、「事業単位人事管理条例」に基づいて、従業員の賃金標準を設定している。

参考文献

中国共産党新聞網、中国政府網、人民日報、中国新聞網、中国青年報、新華網、『瞭望』新聞週刊

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