外国人労働者の流入が拡大
―一方で不足職種の見直しは慎重

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2015年4月

統計局が2月に公表した国内外への人の移動に関する統計によれば、2014年9月までの12カ月における人の純流入数(国内への流入者数から国外への流出者数を除いたもの)は29万8000人とほぼ10年ぶりの水準となった。欧州域内からの労働者の継続的な流入拡大に加え、域外からの労働者についても、金融危機以降初めて流入者数が流出者数を上回っている。

域内出身の労働者、10年間で2.5倍

外国人の純流入数が増加した主な要因は、EU域内の労働者の増加が続いていることにある。EU旧加盟国(EU14)からの就労目的の外国人の流入は、特に2012年後半から拡大し続けており、中でも就職目的の(予め仕事が決まっている)流入者が増加している。また、2014年に就労が自由化されたルーマニア、ブルガリアからの就労目的の純流入数も増加傾向にある(多くは求職者)ほか、2004年のEU加盟8か国(EU8)からの就労目的の流入者についても、増加幅は昨年から縮小傾向にあるものの、純流入数では依然増加している(注1)。さらに、EU域外からの労働者についても、流入者の増加と流出者の減少が同時に生じたことにより、2008年以降初めて就労目的の純流入数が増加に転じた。

図表:就労目的のイギリス人・外国人の地域別純流入数の推移 (千人)

図表:就労目的のイギリス人・外国人の地域別純流入の推移を表したもの

注:1年以上の滞在(予定)者に関する推計。各期のデータは直近12カ月のもの。

出所:Office for National Statistics 'Migration Statistics Quarterly Report - February 2015'

一方、国内に滞在している外国出生者の就業状況をみると、域内出身者が190万人、域外出身者が288万人、計478万人が就労しており、全体では2004年以降の10年間で1.8倍、特に域内出身者については2.5倍と急速な就業者数の増加がみられる。域内出身者の就業者数の増加は、このところ流入が目立って増加しているEU14出身者よりも、むしろEU8出身者で顕著だ(注2)

背景に国内労働者の育成不足

このところの景気回復や雇用状況の改善を受けて、国内では人手不足への対応を求める声が聞かれる。外国人労働者の受け入れは、こうした労働力需要の拡大に対する即効性が期待されているとみられる。例えば、建設業の専門技術者の団体Chartered Institute of Building (CIOB)は、国内の建設労働者の多くを占める40~50歳層の間で今後急速に引退者が増加するとみられるが(注3)、一方で新たに訓練を受ける若年層は減少傾向にあることから、将来的に人材不足が深刻化すると予測している。このため、長期的な国内労働者の育成に向けた訓練や支援の強化と並行して、短期的には外国人労働者の受け入れにより人材不足を補うことの重要性をCIOBは主張している。

また、これまで一貫して外国人労働者の抑制策を進めている政府にも、一部の職種における人手不足の緩和に、外国人労働者によって対応しようとする動きが見られる。

政府の諮問機関であるMigration Advisory Committee(MAC)は2月、専門技術者の受け入れに関する労働力不足職種リスト(注4)の2年ぶりとなる見直し案をまとめた。政府が昨年9月に行った諮問を受けたもので、現行のリストには含まれないが労働力不足が生じている可能性のある分野に関して、職種の追加などの検討が求められていた。政府が検討対象として挙げていたのは、①保健分野の大卒相当以上レベルの諸職種(上級医師(consultant)、看護師、訓練医など)のほか、②同じく大卒相当以上レベルのIT分野(digital technology)の職種、③送電線技師(electric linesworker)の3分野だ。

政府の諮問を受けて、MACは国内の人材の需給状況のほか、賃金水準、人材育成状況などを勘案のうえ、12の職業名(8職種)の新たな追加と、7つの職業名(3職種)の削除を改定案としてまとめた。その多くは保健分野に関するもので、個別分野の上級医師や専門医の職業名の追加・削除のほか(注5)、救急医療及び精神科の訓練医を新たにリストに追加する。さらに、MACは救急救命士を新たにリストに加えることを提案している。救急救命士は、第2階層の要件(大卒相当以上)に合致しない職種だが、近年の需要の拡大に国内での育成が対応できていないことから、現在は短期労働者など他のスキームを通じて受け入れられているという。MACは、国内では救急救命士の学士レベルの資格の新設とその取得の義務化が決まっていること、4年のうちに資格保有者が供給される見込みであることから、今後は救急救命士を大卒相当資格の職種とするとともにリストに含めて、相応の資格保有者の受け入れを可能とすることを提案している。このほか、近年不足がいわれている家庭医(General Practitioner)についても、リストに追加するか否かが検討されたが、育成途上の学生が一定数確保されており、保険省による促進策も進められていることなどから、追加は見送られた。

一方で、リストからの削除が提案された保健分野の3職種には、看護師(新生児・小児科の集中治療に係る専門看護師)が含まれる。看護師は、医師とならんで労働市場テストを通じた受け入れで多くを占める職種の一つだが、MACは今回の検討で、国内における人材不足を裏付ける十分な証拠は得られなかったとして、リストからの削除を提案、また医療機関における看護師の不足は、むしろ政府の歳出削減策の一環として看護師の数が制限されていることや、募集時に提示される労働条件の低さが影響していると分析している。

このほかIT分野では、生産管理者、データ・サイエンティスト、上級開発者、サイバー・セキュリティ専門家の4つの職業名(4職種)の新たな追加が提案された。これには、5年以上の職務経験及びチームを指導した経験が前提となり、かつ中小規模の雇用主に受け入れ許可を限定することが併せて提案されている。また、送電線技師については、ポイント制導入時点の2008年には不足職種に含まれていたが、資格要件の引き上げに伴い、高圧電流の送電線技師のみが認められることとなった経緯がある。MACは、低圧電流の技師については職務内容・給与水準により限定する形での追加を提案している。

参考資料

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