年金「一元化」に向けて
―「政府系事業組織従業員年金保険制度改革に関する決定」を発表

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2015年3月

中国の年金制度は、「官」と「民」で制度が異なる「二重制」のもと、公務員(政府系事業組織の従業員を含む。以下同じ)と民間企業の従業員の年金待遇に著しい格差がある状態が続いてきた。公務員の年金の所得代替率は80%を超え、100%に達したこともある。一方、民間企業従業員の年金の所得代替率は50%以下にとどまり、国民の間に不満が広がっている。このため、中国政府は長年、年金改革を模索し続けてきた(表)。国務院は2008年、「政府系事業組織従業員年金保険制度改革試行方案」を発表したが、各方面の反対により改革は頓挫した。国務院は2015年1月14日、「政府系事業組織従業員年金保険制度改革に関する決定」(以下「決定」という)を発表し、2014年10月1日から実施する方針を示した。これにより、政府系事業組織従業員約4000万人に対する「年金保険料免除」の取扱いが終了することとなる。

基本年金保険料の支払いを義務化

公務員の年金保険料は、これまで本人負担が全くなく、全額を政府が支出してきた(注1)

今回の「決定」により、公務員のうち、政府系事業組織の従業員は基本年金保険料を支払うことが義務づけられた。改革後の基本年金保険制度は「都市従業員基本年金制度」と同じく賦課方式と積立方式(個人口座)で構成される。そのうち、政府系事業組織が支払う基本年金保険料(賦課方式)は当該組織の賃金総額(注2)の20%、個人が支払う基本年金保険料(積立方式)は個人賃金の8%である。個人の保険料の上限は当該地域における前年度の在職従業員の平均賃金の300%、下限は平均賃金の60%に設定されている。

個人口座の積立金は従業員の年金支給にしか使用できない。年金を繰り上げ受給することは認められていない。毎年政府が公表する個人年金基金利率に基づいて運用利回りが決定される。保険加入者が死亡した場合、法律に基づいて遺族が個人口座の残金を継承する。

年金給付の基本年金は基礎年金と個人口座年金で構成される。個人口座年金は60歳で定年退職する場合、総額を139等分して、139カ月間にわたり個人に対して支払われる。

これまで、政府系事業組織の年金支給額は職員の定年退職前の最後の1カ月の賃金額に基づいて支払われてきた。定年退職後の年金額も政府系事業組織の賃金水準に基づいて調整され、これが企業従業員と政府系事業組織従業員の年金待遇格差が生じる原因となってきた。「決定」の改革により、政府系事業組織従業員の年金額は本人の年金保険料の支払期間や支払金額などに基づいて計算されることとなる。

「決定」の実施前に定年退職した従業員は、従来と同じ年金待遇を享受する。「決定」の実施後、年金保険料の支払期間が15年未満の従業員は、定年退職基本年金(基礎年金+個人口座年金)に加えて、過渡的な年金(方案では具体的に規定されていない)を受け取る。年金保険料の支払期間が15年以上の従業員は、定年退職基本年金(基礎年金+個人口座年金)のみを受け取る。

その他、「決定」は企業年金を奨励し、政府系事業組織は基本年金保険に加入した上で、企業年金も創設すべきであると規定している。企業年金の保険料は、企業が賃金総額の8%、個人が個人賃金の4%である。

年金財政の改善につながらない懸念も

今回の「決定」は民間企業と政府系事業組織の年金の公平化に資するものの、中国で急速に進展する高齢化によって深刻化する年金財政問題の解決にはつながらない可能性がある。

国連によると、中国の65歳以上人口は2015年の1.32億人から2050年には3.31億人に達し、65歳以上人口の比率は2015年の13%から2050年には39%まで上昇すると予測される。同期間に、15~64歳の人口は10億人から8.49億人に減少する。中国では多くの省・地域で年金基金の赤字が毎年発生し、在職職員の個人年金口座の資金を使ってそれを穴埋めして、定年退職者の年金支払いに充てている。

2012年における年金の隠れ債務は、社会賦課口座が83.6万億元、個人口座が2.6万億元で、合計86.2万億元にのぼり、GDPの166%を占めるといわれている(中国社会科学院の「中国年金発展報告2014」)。

政府系事業組織の従業員約4000万人が年金保険料を支払うようになれば、社会全体の年金賦課口座の赤字を緩和することができる。しかし、現実には、政府が政府系事業組織の従業員に年金保険料を支払わせるために賃金を引き上げ、新たな財政負担が発生すると指摘する専門家もいる。

表:政府系事業組織の従業員年金に関する規定と改革
  機関 規定 内容
1978年 国務院 『「老弱病残」の幹部に関する試行方法』 政府系事業組織従業員の定年退職制度を確立し、定年退職年齢、待遇などを定めた。
1993年 国務院 『政府系事業組織従業員賃金制度の改革実施方法』 定年退職者の定年退職後の退職金と生活待遇を規定した。
1994年 旧人事部 『政府機関・政府系事業組織の賃金制度改革実施中の若干問題に関する規定』 退職金に関して支給基数、比例標準などを詳細に規定した。
2006年 旧人事部、財政部 『政府系事業組織定年退職者の年金などの問題に関する実施方法』 政府系事業組織従業員の定年退職後の年金は定年退職前の賃金の70%~90%を支払うと規定した。
2008年 国務院 『政府系事業組織従業員年金保険制度改革試行方案』 山西、上海、浙江、広東、重慶の5カ所を試行地域として政府系事業組織の改革を推進すると規定した。
2015年 国務院 『政府系事業組織従業員年金保険制度改革に関する決定』 政府系事業組織と企業年金保険制度の一元化へ向けた改革を実施した。

出所:中国政府網

参考資料

  • 中国政府網、第一財経日報、京華時報、北京晩報

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