フォルクスワーゲン・チャタヌーガ工場:少数組合の可能性

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2015年2月

2014年12月8日、テネシー州に位置するフォルクス・ワーゲン(VW)チャタヌーガ工場は、「全米自動車労働組合(UAW)と二週間に一度協議をすることになる」、と発表した。

UAWは2014年2月12~14日に行われたチャタヌーガ工場の組織化選挙で敗北していた。それにもかかわらず、従業員の組織化を継続し、投票からおよそ10カ月を経た12月に、労働組合の組織化に賛成する従業員が45%に達していた。

この状況を受けて、VWの経営側は、労働組合が合法的な団体交渉権を獲得していないものの、定期的な協議を開始することを決定したのだ。この協議は合法的な団体交渉ではない。

これまで合法的であるかどうかを問わず、労働組合と協議を行うことがなかったアメリカで操業する外国自動車企業のなかで、今回のVWの動向は新局面を開くものとして注目される。

フォルクス・ワーゲンとUAWの実験

労働組合と使用者による交渉の手続きは、全国労働関係法(NLRA)が規定し、全国労働関係委員会(NLRB)が運用を管理している。

労働組合が合法的な交渉を使用者と行うためには、対象となる従業員による投票で過半数の賛成票を獲得しなければならない。これを組織化選挙による組合承認という。労働組合による組織化を望まない使用者が増えていることや、近隣住民による労働組合バッシングなどにより、近年は労働組合が組織化選挙で勝利することは難しくなっている。

労働組合の組織化を使用者が望まない理由は、職務範囲を超えた連携を従業員に求める場合、労働組合の存在が障害となると考えるからである。これまで、アメリカの労働組合の交渉力は一人ひとりの職務範囲を限定させることで保たれてきた。労働組合の組織化を阻止する動きは、1980年代の日本からアメリカに進出した自動車メーカーの成功により、広く知られるようになった。とくに、労働組合の勢力のあまり強くないアメリカ南部で拡大した。近隣住民の反応はこうした経営方針に影響を受けている。労働組合の勢力が強ければ企業の投資活動の阻害となり、ひいては経済発展や雇用創出に悪影響がでるというものである。

VWが工場を新規に立ち上げたのも、テネシー州のチャタヌーガという南部だった。だが、VWは労働組合の組織化を阻止してきたこれまでの外国自動車メーカーと同じ方法をとならなかった。ドイツ本国の従業員代表制度(Betriebsrat)と同様の仕組みを導入しようとしたのである。そのときの、従業員代表はアメリカの労働組合であるUAWとなることを期待したのである。

一方のUAW側も、硬直的な働き方ではなく、経営側が望む柔軟な働き方の導入に協力することを表明していた。そのために、ドイツの従業員代表組織や自動車産業の労働者を組織する産業別労働組合IGメタルの協力を得ていた。

予期せぬ敗北

UAWは工場前に支部事務所ローカル42を立ち上げ、従業員への組織化をすすめつつ組織化選挙に臨んだ。

しかし、2014年2月12~14日に行われた投票は、反対712、賛成626となり、UAWは合法的な団体交渉権を獲得できなかった。使用者側が賛同したうえで失敗した。

その主たる原因は、地域住民からの反発だった。

テネシー州選出の連邦上院議員が投票日に「組織化に反対すれば新たな工場を誘致する」と発言したことや、「全国ライト・トゥ・ワーク法的防御基金(The National Right to Work Legal Defense Foundation)」などの草の根の組織が従業員の暮らす地域で反組合活動を展開したことがその代表である。

つまりは、労働組合の存在そのものが地域経済の発展や雇用促進においてマイナスとなるとする運動が、従業員の投票行動に大きな影響を与えたのである。労働組合はもはや、近隣住民との関係を無視することができなくなったのだ。

少数派組合としての可能性

ローカル42は組織化選挙の敗北後、2014年7月から新たな組織化を開始した。それは、労働組合費を徴収せずにメンバーシップを付与するというものだった。その結果、従業員の45%をメンバーとすることに成功した。ブルーカラーだけだと過半数を超えている。

UAWとしては、合法的な団体交渉権の獲得を長期的なゴールにおいている。それは、組織化対象となる従業員の過半数をローカル42のメンバーとして、使用者側の自発的な承認を待つことだ。一度、失敗した組織化選挙は避けるかっこうだ。

しかし、それを待つことなく、メンバーが従業員の過半数に達していない段階で、使用者側がローカル42との協議を行ったのである。これにはこれまでのアメリカの労使関係の伝統からみて、大きな意義がある。使用者側はその協議を合法的な団体交渉ではないとしている。それにもかかわらず、使用者側もUAW側もともに、ドイツの従業員代表に類似するような職場における働かせ方についての協議を始めていることを認めたのだ。これは、メンバーだけを対象とした新しい協議の形である。

長期的には使用者側による自発的な団体交渉権承認の道が待っているとしても、現在でも従業員の少数派のメンバーだけを対象とする実質的な団体交渉が行われているとみることができるのである。こうした実質的な団体交渉を積み重ねることで、現実の合法的な団体交渉へとつなげていくという手法は、これまでのアメリカの団体交渉の歴史のなかでも画期的である。UAWがドイツ型の従業員代表を取り入れることを通じた経営協力が、これまで組織化を拒否してきた企業に与える影響は小さくない。

(山崎 憲)

参考資料

  • Ben, Penn, UAW Membership in Chattanooga Plant Exceeds 45 Percent, VW Tells Employees, Daily Labor Report, Dec.09, 2014

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