2015年における労働分野の主な制度変更

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1月1日から労働分野において、いくつかの制度変更がなされた。法定最低賃金の導入、求職者基礎保障の新しい標準給付額の適用、操短手当の受給期間延長、特定層を対象とした失業保険や助成金の実施等であり、以下に紹介する。

法定最低賃金、初の導入

1月1日から時給8.5ユーロの法定最低賃金が導入された。これにより約370万人の賃金が引き上げられ、恩恵を受けると政府は見込んでいる。導入の主な目的は、賃金ダンピングから低賃金労働者を守り、ワーキングプア(フルタイム労働にも拘わらず社会給付に頼らざるを得ない労働者等)を減らし、社会保障制度の安定性を高めることである。

最低賃金は原則として全ての業種に適用されるが、従来から時給8.5ユーロを著しく下回る業種については、経過期間が設けられ、一時的に下方への逸脱が認められる。しかし、2018年1月1日からは例外なく全ての業種で(現時点ではおそらく最低賃金委員会によって見直された金額の)最低賃金が無条件に適用される。

最低賃金委員会は、議長(1名)、議決権を有する労使の利益代表委員(各3名、計6名)、議決権を持たない学識委員(2名)で構成され、金額の適切性を判断し、必要に応じて見直しを行う。新たな金額の決定に際しては、各産業の協約賃金の動向を重視し、公正な競争条件の確保や雇用を損なわないかどうか等を総合的に判断する。

また、法定最低賃金の支払いや他の規定の順守状況については、従来の業種最低賃金と同様に連邦関税管理当局の不法就労・財務監督チーム(FKS)(注1)が管轄する。さらに法律順守を実効的に監督するため、今後数年間で1600の新規ポストがFKSに設けられる。

求職者基礎保障の給付額、引き上げ

1月1日から求職者基礎保障における新しい標準給付額が適用された。失業手当Ⅱ(ArbeitslosengeldⅡ)、および社会手当(Sozialgeld)に関する単身受給者のための標準給付額は年始から月額399ユーロに引き上げられた(詳細は図表1の通り)。

「求職者基礎保障」とは、主に長期失業者とそのパートナー等の生活保障を目的とした制度である。同制度では、求職者本人に「失業手当Ⅱ」を、同一世帯の就労能力のない家族に「社会手当」を給付する。

なお、病気や事故等で稼得能力のない困窮者の生活保障を目的とした「社会扶助(Sozialhilfe)」の給付水準も、求職者基礎保障の標準給付額と同額で設定されており、1月1日から同様に引き上げられた。

図表1:求職者基礎保障の標準給付額(月額)
受給資格者 2015年1月1日からの給付額
単身者(成人1人あたりの標準月額)、 単身養育者(ひとり親)の受給資格者 399ユーロ
家計を一にして同居するカップル 360ユーロ
独自の家計を営まない、またパートナーと家計を一つにしない成人の受給資格者 320ユーロ
14歳から18歳未満の若者 302ユーロ
6歳から14歳未満の子供 267ユーロ
0歳から 6歳未満の子供 234ユーロ

出所:BMAS(2014).

操短手当、受給期間の延長

連邦労働社会省の法規命令により、景気変動を理由とした操業短縮手当(操短手当)の受給期間は、12月31日までの請求について、12カ月まで延長できる(従来は6カ月)。受給期間の延長によって、企業が操業短縮中に、より確実な計画を策定できるようにするのが目的である。

「操短手当」とは、操業短縮に伴う労働者の収入低下に対してその一部を補填する助成策の一つである。企業が景気の理由から受注が落ち込んだ時に操業時間を短縮して従業員の雇用維持を図る場合、連邦雇用エージェンシー(BA)に申請すると操業短縮に伴う賃金減少分の一部(減少分の 60%、扶養義務がある子供を有する場合は 67%)が補填される。

短期有期労働者に対する失業手当、特別規則の延長

主に短期の有期労働者を対象とする失業手当の特別規則の期限が、従来の2014年12月末から2015年12月末に延長された。これにより、対象者は失業手当請求権のための資格取得期間を最低6カ月の被保険者期間で満たすことができる(通常は離職前2年間において通算12 カ月以上保険料納付が必要)。さらに、短期有期労働者の失業に関する社会的保障を今後どのように改善するかについては、年内に新たな判断を行う。

中小企業若年労働者に対する継続教育・訓練助成の延長

2014年末までの期限とされていた中小企業(従業員250人未満)で働く45歳未満の労働者の職業継続教育・訓練助成に関する社会法典第3編131a条の規則が2019年末まで5年延長された(使用者が講座費用を最低50パーセント負担するという助成の前提条件は変わらない)。この助成は、専門労働者の確保と中小企業従業員の雇用能力の維持・向上を目的としている。

中高年者雇用統合助成の延長

就職困難な50歳以上の中高年失業者を雇い入れる使用者に対して、対象労働者の賃金の50%を3年間助成するという2014年末までの特例措置が、2015年1月1日に5年間延長され、2019年末までとなった。

ESF「移住の背景を持つ人のための就労語学助成」の継続

すでに2008年から運営されている欧州社会基金(ESF)のプログラム「移住の背景を持つ人々のための就労語学助成」は、ESFの新しい助成期間(2014-2020年)でも再び実施されている。同プログラムは、雇用エージェンシー(AA)が仲介し、移住の背景を持つ失業者等に対して、就労を目的とした無料のドイツ語講座を提供し、さらに希望する職業についての学習、技能実習や実習場所の見つけ方などについての助言を行うものである。

介護労働者の業種最低賃金

1月1日に「介護業種のための強制的労働条件に関する第2命令(Zweite Verordnung über zwingende Arbeitsbedingungen für die Pflegebranche)」が発効した。有効期間は2017年10月31日までで、介護労働者の最低賃金額は図表2の通りである。2015年10月1日からは、同最低賃金の適用者が拡大し、介護企業で働く者も対象となる。

図表2:介護労働者の最低賃金
  バーデンヴュルテンベルク、バイエルン、ベルリン、ブレーメン、ハンブルク、ヘッセン、ニーダーザクセン、ノルトライン-ヴェストファーレン、ラインラント-プファルツ、ザールラント、シュレースヴィッヒ-ホルシュタイン ブランデンブルク、メクレンブルク-フォーアポンメルン、ザクセン、ザクセンアンハルト、チューリンゲン
  時給 上昇率 時給 上昇率
2015年1月1日から 9.40ユーロ 4.4% 8.65ユーロ 8.1%
2016年1月1日から 9.75ユーロ 3.7% 9.00ユーロ 4.1%
2017年1月1日から 10.20ユーロ 4.6% 9.50ユーロ 5.6%

出所:BMAS(2014).

公的年金の保険料率

1月1日以降の公的年金保険の保険料率は、普通年金保険で18.7%(2014年18.9%)、鉱山従業員年金保険の保険料率は24.8%(2014年、25.1%)となった。

参考資料

  • Bundesministerium für Arbeit und Soziales Pressemitteilungen(17.12.2014、01.01.2015)der-mindestlohn-giltサイト、Die Deutsche Rentenversicherungサイト、Berufsbezogene Sprachförderung für Menschen mit Migrationshintergrund (ESF-BAMF-Programm)サイトほか

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