男女採用差別に関する裁判で中国初の勝訴判決

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2015年1月

杭州市西湖区人民法院は2014年11月12日、採用における男女差別に関する訴訟で、被告の職業技能訓練学校が原告の女子大学生の平等な就職の権利を侵害したとして、慰謝料2000元の支払いを命じた。これは男女採用差別に関する裁判における中国で初めての勝訴判決である。2013年にも男女採用差別をめぐり裁判で争われたが、裁判所の調停で同年12月に和解が成立した(注1)。原告が裁判において勝訴し、精神的損害賠償(慰謝料)として金銭を勝ち取ったのはこれが初めてとなる。

男女採用差別に関する法規制

労働法第13条、就業促進法第27条および婦女権益保障法第23条は、「国家規定により女性に適応しないと定められた職種またはポスト(注2)を除いて、性別を理由に女性の採用を拒否し、または女性の採用基準を引き上げてはならない」と規定している。就業促進法はまた、「雇用者は従業員を募集し、職業仲介機構は就職仲介活動を行う際に、労働者に平等な就職機会と公平な就業条件を提供し、採用差別を行ってはならない」(第26条)、「本法の規定に違反し、採用差別を受けた場合、労働者は人民法院に提訴することができる。」(第62条)と規定している。

事件の概要と人民法院の対応

原告の女子大学生は2014年6月、杭州市西湖区の東方調理職業技能訓練学校のコピーライター企画職の求人に応募した。しかし一向に返事が来なかったため、再度応募条件を調べてみると、「男性のみ」という採用条件が付いていた。原告がその条件について学校に尋ねると、「コピーライター職は校長と一緒に出張することが多く、費用を節約するため同じ部屋に宿泊できるよう、男性限定としている」と説明された。これに納得できない原告が直接学校に行くと、学校側は同じ理由で応募を受け付けなかった。

原告は2014年7月、杭州市西湖区人民法院に対し東方調理職業技能訓練学校を訴えた。同人民法院は当初、この訴訟を受理することはできないとして、原告に過去の裁判例などの証拠となる資料を提出するよう要請した。原告は、戸籍地や病気に基づく採用差別の裁判例や前述の2013年12月に和解に至った男女採用差別の裁判例などの判決書および調停書を提出した。人民法院は原告の提出した判例と今回提訴された案件とは性質が異なるため、新しい証拠を提出するよう要請した。原告は改めて訴訟書を書き直して、人民法院に提出した。人民法院は2014年8月、ようやく原告の訴えを受理した。

裁判の経過と判決の内容

杭州市西湖区人民法院は2014年9月、公開審理を実施したが、被告側は欠席し、書面によって反論および証拠を提出した。被告側の主張は、「今回募集する職には特別な事情があり、残業が多いことのほか、校長と一緒に出張して、顧客に応対することが少なくない。学校の出張管理制度では、費用を節約するため、2人以上(偶数)の出張は、必ず2人で一部屋に宿泊しなければならず、それを超える経費は支払われない。校長が男性のため、男性限定で求人募集することは、女性に十分配慮し、尊重していると言える。さらに、原告に対しては人事職やアシスタント職などのポストも勧めた」というものであった。

杭州市西湖区人民法院は2014年11月12日、東方調理職業技能訓練学校には就職差別の意図があり、原告の平等な就職の権利を侵害したとして、同校に慰謝料2000元の支払いを命じる判決を下した。しかし、学校側に対し書面での謝罪を求めた原告の請求は棄却された。

人民法院は、「中国の法律規定では、労働者は平等な就職の権利を有し、性別などを理由に差別することはできない。女性は男性と平等な労働の権利を享受し、国家が規定する女性に相応しくない職種あるいはポスト以外に、性別が理由で女性の応募を拒否することはできない。この事件において、被告が募集した職は、コピーライター企画職である。被告は、この職が女性の従事することができない仕事であることを証明できていない。応募条件も女性が担当できる職であり、被告が主張した、男性限定で募集する理由は法律に合致しない。このような情況において、被告は原告の条件が募集条件と合うかどうかを審査せず、ただ原告が女性であるという理由だけで拒否した。そのような行為は原告の平等な労働の権利を侵害し、原告に対する採用差別を行うものである」と判決理由を説明した。

男女採用差別の実情と法整備の必要性

経済発展に伴い、中国人女性のキャリア意識も高まり見せてきたが、厳しい経済競争、伝統文化に基づく慣習、女性の出産・育児などにより、男女の採用差別に関する問題は未だに深刻な状況が続いている。中国婦女連合会の「第3回中国女子社会地位調査(2010年)」(注3)によると、調査対象者の女性が就職の際に男女採用差別にあった割合は24.7%にのぼるという。また、同じく中国婦女連合会が2010年に発表した「女子大学生就職創業情況調査研究」では、女子大生の56.7%が就職の際に「女性のチャンスが少ない」と感じ、91.9%が「性差別を感じた」と回答している。特に理工系の女子大生で比率が高い。

中国政法大学憲政研究所が2010年に発表した「現在大学生就職差別情況の調査報告」では、大学生の求人を募集する際に、雇用企業の68.98%が明確に性別を規定していた。

今回の裁判の事例では、企業側が求人情報に「男性のみ」と規定して明白な男女採用差別を行い、それを根拠に違法と判断された。実際には、企業が求人を行う際、多くの場合は一般的に性別を明示しないが、女性の履歴書の受け取りを拒否したり、履歴書を受け取っても採用候補にしないなどの、いわゆる「ステルス差別」が行われている。また、人事部が面接を行う際、女性求職者に対してのみ、結婚していない女性や結婚して出産した女性に限り採用するなどの厳しい条件を提示する場合もある。

中国では既に、労働法、就業促進法および女性権益保障法に男女採用差別の禁止が規定されている。しかし、具体的な対策や処罰などの規定がないため、依然として男女の差別待遇が改善されない状況にある。中国においては労働者側に雇用差別が存在したことの証明義務が課されており、法整備の必要性が指摘されている。

参考資料

  • 新華網、中国青年報、人民日報、新京報、法制日報