低技能職種への外国人流入の影響、地域で異なる可能性
―諮問機関報告書

カテゴリー:雇用・失業問題外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2014年9月

外国人政策に関する政府の諮問機関は7月、低技能職種への外国人労働者の流入の影響に関する報告書を公表した。労働市場への影響は総じて限定的と分析しつつ、外国人労働者が集中している地域では実態が異なる可能性を指摘。また、低賃金層の賃金を若干引き下げている可能性があるが、むしろ賃金低下自体への対応が必要であるとして、最低賃金制度の実施強化などを提言している。

外国人の定着は財政にマイナスの影響

政府の諮問機関、Migration Advisory Committee(MAC)は報告書において、低技能職種に従事する外国人労働者(注1) の増加による各種の影響を分析している。国内で低技能職種に従事する労働者1340万人(2013年時点、全就業者2970万人の45%)のうち、外国人労働者は210万人(同7%)となっており(注2)、58%を欧州域外からの外国人が占めるほか、28%が中東欧諸国(2004年及び2007年のEU加盟国)(注3)、残る14%がそれ以外のEU加盟国からの外国人だ。

報告書の推計によれば、低技能職種におけるイギリス人の雇用は、1997年から2013年の間に110万人分減少しており、またこの間、外国人労働者の雇用がほぼ同数増加している。ただし、同時期により高度な職種でイギリス人の雇用が200万人分増加していることから、外国人による国内労働者の代替が生じたとは言えない、と報告書は分析している。なお、低技能職種に従事する外国人労働者の4分の3は、国内の4分の1の自治体に集中して流入しており、労働市場への影響は全国レベルでの分析結果よりも大きい可能性があるが、こうした地域間の労働市場には一貫した特徴はなく、このため個別の分析が必要であると述べている。同様に、低賃金層の賃金を若干引き下げている可能性があるが、全国レベルでは限定的であり、これも地域差が大きいとみている。ただし、報告書はむしろ賃金低下自体の問題への対応が必要であると述べ、とりわけ一部の悪質な雇用主による外国人労働者の搾取の実態を指摘、対応策として、最低賃金制度の実施を所管する歳入関税庁(HMRC)や、労働力供給事業者の規制機関であるギャングマスター認可局(Gangmaster Licencing Authority)など、法令順守に向けた体制を強化する必要性を主張している(注4)

なお、報告書は外国人流入による経済や財政への影響(税収増の効果から社会保障等のコストへの影響を差し引いた額)についても、既存の研究成果をもとに分析を行っている。2001~2011年の期間における財政への影響として、2001年以前に入国して国内に定着している外国人については、域内出生者で年間1052ポンド(国内出生者と同等)、域外出生者では年間2198ポンド(同2倍)のコストとなっているが、これ以降に入国した外国人については総じて財政にプラスの貢献がみられ、特に域内出生者では年間2732ポンドと貢献の度合いが高い(図表1)。報告書は影響している可能性のある要因として、域内からの外国人は就業率が高く、子供も少ないこと、一方で域外からの外国人は相対的に年齢が高く、就業率は低く(あるいは既に引退しており)、家族の規模も大きいこと、また多くが低賃金の仕事に就いているとみられることなどを挙げている。なお、既存の研究から、中東欧諸国からの低技能労働者の流入はGDPの拡大に寄与したと推測されるが、一人当たりの効果はほとんどなかったと報告書はみている。

図表1:2001~2011年における財政への貢献

2001年から20011年の財政貢献を表したもの

  • 出所:MAC (2014) "Migrants in low-skilled work: The growth of EU and non-EU labour in low-skilled jobs and its impact on the UK"

このほか、報告書は低技能労働者の受け入れに関する多様な影響のメリットとデメリットを、およそ以下の通りまとめている(図表2)。労働力不足に直面する業種において労働力の調達が容易になること、また労働者自身もより高い所得を得ることができることなどを挙げている。一方、コストとしては、医療や教育・公共交通サービスの混雑、住宅需給の逼迫に伴う賃料上昇や社会的住宅、地域環境への影響、また低賃金層における賃金低下などを挙げている。

図表2:低技能の外国人労働者の流入による影響(MACによる分析)

●メリット

  • 経営者(例えば食品製造や農業、レストランなど、イギリス人労働者の調達がしばしば困難な労働集約的業種の企業)
  • スキルを有するイギリス人労働者や未熟練の労働者がより高い賃金の仕事に特化できる
  • イギリス人労働者より流動的で柔軟な外国人労働者を確保でき、例えば就業場所の変更や就業場所で生活すること、あるいはシフト勤務など
  • 外国人労働者は、自国より高い所得を得ることができ、また家族が居る場合は送金もできる

●コスト

  • 多くの地域で人口増加や人口構成の急激な変化を引き起こす。このことは社会的包摂や厚生に影響を及ぼす可能性があるが、これについてはさらなる検討を要する
  • 医療、教育、公共交通サービスの混雑
  • 住宅市場への影響-民間賃貸市場の圧迫、大人数(複数世帯)で同居する住居の増加に伴う地域環境への影響、イギリス人に対する社会的住宅の提供に若干影響を及ぼす可能性(主として供給不足の問題)
  • 低賃金層に対する若干の賃金低下の影響-最低賃金制度などの実施強化が必要となるが、これには監督機関である歳入関税庁の体制強化を要する(現状では国内の事業者数に比して、250年に一度の監査のみ可能)

●中立的またはわずかな影響

  • 国内出生者の就業率は2004年の新規EU加盟国の大量流入後も実質的に変化していない
  • 若年労働市場(16-24歳)の状況は懸念材料として残っているが、外国人労働者の影響よりも需要不足や教育訓練政策に起因
  • 2001~2011年における外国人とイギリス人それぞれの財政への影響は、年間マイナス1000ポンドでほぼ同等、一部は2008年以降の不況の影響による。2000年以降に入国した外国人は、財政にプラスの貢献をしているが、2001年以前のEEA域外からの外国人によるマイナスの影響が大きい(相対的な年齢層および就業率の差)
  • 出所:同上

EU域内からの労働者などの流入は引き続き拡大

統計局が8月に公表した統計によれば、2014年3月までの12カ月における長期(1年以上)滞在予定の流入者数は56万人、流出者数は31万6000人であった。純流入数(流入者数から流出者数を差し引いたもの)は、24万3000人となり、前期(2013年3月までの12カ月間)から39%の増加となった。うち、域内からの外国人が13万1000人、域外からが16万2000人を占め、イギリス人については5万人の減となった。一昨年からのEU域内からの外国人の純流入数拡大に加え、昨年後半からは域外からの外国人についても増加に転じている(注5)

就労目的の流出入に限定して推移を見ると、 EU域内からの労働者が増加分を占めており、旧加盟国(EU14)と2004年加盟の中東欧諸国(EU8)の比率が高い。ルーマニア・ブルガリアからの外国人についても増加幅が拡大しているが、2014年1月の両国の労働者に対する就労制限廃止に伴って、一部で懸念されていた急激な流入拡大は生じていない。またEU域外については、引き続き流出数が流入数を上回る状況が続いている(図表3)。

図表3:就労目的の地域別純流入数の推移

就労目的の地域別純流入数の推移を表したもの

  • 注:各期とも直近12カ月間の累積、また2014年3月については速報値。出身地域は国籍(市民権)に基づく。なお、図中「EUその他」は主としてルーマニア及びブルガリア。
  • 出所:Office for National Statistics 'Migration Statistics Quarterly Report - August 2014'

統計局が労働力調査に基づいて推計している出身地域別の就労状況(就業者数)においても、同様に域内労働者の顕著な増加がみられるものの、内訳は異なる(図表4)。域内からの就業者172万人(2014年6月時点)のうち、大幅に増加しているのは EU8からの労働者(2014年1-6月期に約13万人(11%)増、6月時点で85万人)で、EU14からの労働者の増加(同3万人(4%)増、72万人)は相対的に緩やかだ。また、ルーマニア・ブルガリアからの労働者については、1-6月期の増加幅は7599人(6%増、13万人)にとどまっている。

図表4:出身地域別就業者の推移

出身地域別就業者の推移を表したもの

  • 注:各期とも3カ月ごとの平均。出身地域は国籍(市民権)に基づく。
  • 出所:Office for National Statistics ' Labour Market Statistics, August 2014'

参考資料

参考レート

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