ストライキによる解雇を違法とする国内初の仲裁裁定

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2014年8月

厦門市(アモイ市)の労働争議仲裁委員会は2014年6月9日、企業側がストライキを起こした従業員を解雇したことは、労働契約法に違反しているとする中国国内で初めての裁定を下した。中国の法律にはストライキに関する具体的な規定がないため、それ以前の判例では、『企業従業員規則』などに重大な違反をしたとして、ストライキの代表者が解雇されることが当然とされてきた。

中国では経済成長が鈍化し、各企業がコストの削減を追求する一方、労働市場の構造が変化しており、従業員側は、給与水準や福利厚生の待遇改善をますます強く求めるようになっている。しかし、企業別労働組合がうまく機能せず、ストライキが増加している。

ストライキの経緯と仲裁裁定の内容

科維彤創電子工業有限会社(米国企業の全額出資子会社)は2014年1月、工場移転の計画を発表した。企業側は、工場移転に伴う従業員の不便を軽減するため、従業員に交通手当、住宅手当などを支給することとした。しかし、企業側の決定に不満を持つ従業員との話し合いがまとまらず、当該従業員が2月13~28日にストライキを断行した。企業側は3月4日、企業従業員規則に対する重大な違反を理由に、従業員40人の労働契約を解除すると通知したため、厦門市(アモイ市)の労働争議仲裁委員会が仲裁を行うこととなった。

同仲裁委員会は、「従業員の集団作業停止には原因があり、企業従業員規則に違反したと単純に決めつけることはできない。従業員が職場復帰を妨害し、威嚇、脅迫、強制などを行ったという証拠は不十分である」「企業側は一方的に労働契約を解除する前に、企業内組合の意見を聞かず、通知すらしなかった」と判断した。中国労働法第30条、中国労働契約法第43条及び中国工会法第21条は、雇用主側が一方的に労働契約を解除する際、事前にその理由を組合に通知し、意見を求めなければならないと規定している。

同仲裁委員会は、次のような裁定を下した。

  • (1)解雇された従業員(仲裁申請人34名)と企業の間の労働契約を2014年3月4日に解除する。
  • (2)裁定書が効力を発する日から10日以内に、企業側は解雇された従業員(34名)に2013年度と2014年1月1日から3月3日までの賃金(有給休暇を含む)を支払う。
  • (3)裁定書が効力を発する日から10日以内に、企業側は解雇された従業員(34名)に一度限りの労働契約解除賠償金を支払う。
  • (4)34名の従業員(申請側)は、その他の仲裁請求を取り下げる。

労使関係の変貌に伴いストが頻発

「世界の工場」といわれる中国はこれまで、豊富な人的資源と低賃金により、外資系企業を引き寄せてきたが、近年は状況が変化しつつある。中国における生産年齢人口は2011年をピークに、減少傾向が見られ、2012年は345万人、2013年は227万人それぞれ減少した。人口動態の変化に伴い、労働力不足が発生する一方、所得の上昇が物価上昇に追いついていない。最低賃金の引上げ率は2桁にのぼるが、物価上昇には追いつかない状況にある。

外資系企業が経営コストの削減を追求する一方、賃上げや福利厚生の待遇改善を求める従業員側の声がますます強まっている。最近の中国社会では、出稼ぎ労働者の「80後(1980年代以降に生まれた人々を指す)」が労働力の主力になっている。60~70年代に生まれた人々と異なり、より積極的に労働者権益を求める特徴がある。外資系企業の労務管理の厳しさや、重労働、賃金待遇の差別などに対して、しばしば抗議行動を起こしている。情報通信の発達に伴い、スマートフォンや通信アプリ、微博(中国版Twitter)、微信(WebChat 中国版LINE)、オンラインチャットシステムQQなどの通信機器を利用して、デモや抗議活動などを行っている。中国統計局のデータによると、労働紛争受理件数は、2010年60万865件、2011年58万9244件、2012年64万1202件となっている(表)。

表:労働紛争受理件数 (単位:件)
  2009年 2010年 2011年 2012年
労働紛争受理件数 684,379 600,865 589,244 641,202
集団的紛争 13,779 9,314 6,592 7,252
労働者提訴件数 627,530 558,853 586,768 620,849
  • 資料出所:2013中国統計年鑑

官製労働組合の特別性と形骸化

中国においてストが多発している要因の1つとして、労働組合がうまく機能していない点が挙げられる。中国では独立系労働組合の結成が禁止される一方、官製労働組合の中華全国総工会は力不足で、経営者側の味方につくことが多い。

中国の労働組合は基本的に共産党の指導に基づいて結成された組織である。「工会法」(「中国労働組合法」、2001年改正)は、25人以上の会員を有する企業・事業体、機関は下部工会委員会(組合委員会)を設立しなければならないと規定している。中国の労働組合はいくつかのレベルに分かれており、全国統一組織の中華全国総工会、全国規模または地方規模の産業工会(同じ業界または性質が近い業界の組合組織)、地方各級総工会(県級以上の地方の組合)、下部工会連合会(企業職員・労働者が多い郷・鎮(町)、都市の組合)、下部工会(企業、事業体、機関の組合)がある。また、下部工会(下部組合)を設立するためには、上級工会(上級組合)に報告して許可を得る必要がある。要するに、中国では独立した労働組合を設立することができない。

「工会法」の第3条によると、「賃金所得を生活費の主な収入源とする中国国内の企業・事業体・機関(組織、機構、会社など)の肉体労働者、頭脳労働者は、民族、種族、性別、職業、宗教・信仰、学歴を問わず、いずれも法に基づき労働組合を結成し、組合に入会する権利がある。いかなる組織や個人もこれを妨害し制限してはならない。」と規定している。つまり、賃金所得を主な収入源とする者は、労働者から管理職まで皆組合員になる資格がある。

労働組合は主に企業側と共通の認識を持っている。なぜなら、現在の労働組合組織では、労働組合の委員長が企業の高級幹部や管理職を兼務するケースが多く、企業側の利益を優先しなければならない。そのため、こうした状況に抗議するストライキが続いている。 今回の仲裁裁定では、初めて労働者側に味方しようとする中国政府の姿勢が見受けられた。中国政府は大きな騒乱を望まない一方で、人件費の上昇を期待している。人手不足に伴い賃金が上昇したことにより、コストに配慮する経営側も、労働者を確保するため、労働条件や賃金の待遇改善を余儀なくされている。

参考文献

  • 中国労工通訊、財経網、国際金融報、BBC中国語サイト

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