中国国務院が「事業単位人事管理条例」を発表

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  • 国別労働トピック:2014年7月

中国国務院は5月15日に「事業単位(政府系事業組織)人事管理条例」(以下「管理条例」という。)を発表し、7月1日から施行した。管理条例は、職場設置をはじめ、従業員の公開募集、契約規定、給与・福利厚生、社会保険など様々な分野について規定している。政府系事業組織と民間企業で制度が異なる年金の二重制の問題についても、民間企業の年金と一元化する方針を示した。

事業単位と企業における年金の二重性問題

中国における事業単位(政府系事業組織、Institutional Organization)がどのような存在なのかについては、「事業単位登記管理暫定条例」に定義されている。それによると、事業単位は、社会公益目的のために、国家機関が設立する社会サービス組織、あるいは他の組織が国有資産を利用して設立する組織で、教育、科学技術、文化、衛生などの活動を行う社会サービス組織である。現在、事業単位は、(1)行政職能、(2)生産経営、(3)公益サービス、の3種類に大別されている。

事業単位は一般的に国家が設置する組織で、財政は国家予算で賄われる。事業単位で働く従業員(派遣社員やパートを除く)の年金制度は、公務員と同じ待遇で国家予算から支出される。公務員と事業単位の従業員は年金保険料を支払う必要がなく、定年退職後の年金受給額は企業に比べて倍近く高い。

都市部企業従業員年金保険は1992年に社会保障システムに組み込まれた。年金受給額は退職前給与の40~50%の水準となっている。事業単位の年金は、国家財政や単位から退職前給与の80%~90%が支払われる。勤続35年の場合、年金受給額は退職前給与の90%、勤続30年~35年の場合は85%、勤続20~30年の場合は80%である(2006年「事業単位引退・退職従業員の年金給付に関する問題の実施方法」)。

このように官民格差が著しい年金の二重制の問題が20年間持続してきた。国務院は2008年2月、事業単位の「従業員年金制度改革試行法案」を公布し、山西、上海、浙江、広東、重慶など5つの地方で試行することを決定した。しかし、同法案は多くの反対意見と社会的混乱をもたらし、実際の制度開始には至らなかった(JILPT海外労働情報2013年5月)。

年金一元化と財政支出負担

管理条例には、年金の二重制を改革し、年金一元化を実現するための規定が盛り込まれた。第35条は、事業単位および従業員は社会保険に加入し、従業員は社会保険待遇を享受することができると規定している。しかし、一元化に向けた具体的な対策は未だ示されていない。

社会的議論の焦点は、年金を一元化し、事業単位の従業員が年金保険に加入した後の財政支出をどう負担すべきかという点にある。専門家は、事業単位の年金改革における財政支出の問題には次の3つがあると指摘している。

第1は、年金制度を一元化した後、一元化前の事業単位従業員の過去の勤務時間に応じて、年金債務とみなされる部分である。この部分は積立金が不足している年金個人口座に過去の未払保険料分を入金しなければならない。現在、全国の事業単位数は111万、従業員数は3153万人である。もし、これらの事業単位従業員の年金個人口座に国家財政から補填するとしたら莫大な金額となる。

第2は、事業単位が民間企業と同じように公的年金に参加する場合、事業単位は賃金の20%、従業員は賃金の8%の保険料を負担しなければならない点である。また、公的年金に上乗せされる企業年金の最高保険料率は賃金の16%で、企業と従業員がそれぞれ賃金の8%を負担している。

事業単位の財政構造は現在、表1のように3種類に分けられる。事業単位の年金は、財政が自律した事業単位を除いて、国家財政に依存している。収入源がない事業単位がどのように年金保険料を負担するかが課題となっている。財政部分補助の事業単位では、学費や医療費の値上げなどの問題が生じる恐れがある。

表1:事業単位の財政構造
財政全額支給 すべての予算が国家財政によって保障される。一般的に義務教育機関や公衆衛生機関などの事業単位に適用されている。
財政部分補助 事業単位の人件費を国家が補助し、その他の費用は事業単位の自己収入などで賄われる。高等教育機関や非営利医療機構などの事業単位に適用されている。
財政自律 国家からの財政支給や補助がなく、事業単位が事業経営などで自己収入を上げ、それを費用として支出する。

第3は、既に定年退職した事業単位従業員の年金を誰が支払うべきか、という問題である。もし、国家が支払うとしたら、企業の公的年金と事業単位の年金との一元化は不完全なままとなる。

このように年金一元化のプロセスにおいて財政をどう支出すべきかが重要なポイントとなっており、一歩間違うと人材流失や新たな不公平を招く恐れがある。人力資源社会保障部は目下、年金一元化に関する具体的な方法を検討しているが、それに関する法案はまだ発表されていない。

人材の一般公募と契約期間規定の緩和

管理条例は、年金制度改革だけでなく、人材募集や契約期間などについても規定している。

2005年に旧人事部は「事業単位人材公開募集暫定規定」を発表し、事業単位の人材募集は一般公募しなければならないと規定した。公務員の募集と異なり、事業単位の人材募集は原則、各事業単位が自ら行っている。そのため、近年、予め採用が内定した人材の募集を公募形式にするため募集要項の条件を取り繕うことや、役員の親族のために行う縁故採用などの問題が次々と発生してきた。今回の管理条例は事業単位人材公開募集暫定規定に基づき、公募の範囲を明確化した。管理条例は、「国家政策に基づき特殊職業で募集する人材や、人事管理権限に基づいて任命する人材、機密職位で必要な人材」以外は、一般公募しなければならないと規定している。しかし、縁故採用をいかに解消するかという問題が残っている。

管理条例は人材募集の契約期間についても変更した。事業単位における人材募集採用制度の試行に関する意見」(2002)の規定では、契約期間を短期、中長期、一定期間の3種類に分けていた。管理条例は、専門人材に安心して働いてもらうため、3年以上に変更した(表2)。

表2:「事業単位」人材募集の契約期間の変更
  「事業単位における人材募集採用制度の試行に関する意見」(2002) 「事業単位人事管理条例」(2014)
契約期間 短期(3年以下)、中長期、一定期間 3年以上
試用期間 一般は3~6カ月、大学・専門学校の新卒者は3~12カ月 新卒者は12カ月(契約3年以上)
無固定期間雇用契約 勤続年数25年、または、その事業単位で10年以上勤続、かつ、法定定年退職まで10年未満の場合 その事業単位で10年以上勤続、かつ法定定年退職まで10年未満の場合
契約解除 10日間を超える連続欠勤、または、1年以内に累計20日を超える欠勤がある場合 15日間を超える連続欠勤、または、1年以内に累計30日を超える欠勤がある場合

参考資料

  • 中国政府網、南方日報、北京商報、京華時報、中国経済週刊、経済観察報、第一財経日報、経済参考報

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