移住者による社会保障の不正受給、対策を強化

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  • 国別労働トピック:2014年5月

EUからの移住者による社会保障の受給状況などを調査していた政府の調査委員会は3月26日、中間報告を発表した。それによると、移住者の多くは法に従っており、不正受給はごく少数であった。ただ、今後は不正受給対策を強化する必要があるとして、児童手当の支給要件の厳格化や、不正者に対する一定期間の再入国禁止などを提案している。

ブルガリア、ルーマニア出身移住者に対する懸念

ドイツでは、今年1月1日からブルガリアおよびルーマニア出身者に対する就労と移動の制限が解除された。これまでドイツは、2007年にEU加盟した両国に対し、旧加盟国として認められる最長7年の「移動の自由の適用猶予」を用いて制限してきた。それが2013年末で期限切れとなり、両国の労働者は自由にドイツへ移住して働くことが可能になった。これまでも制限がありながら両国からの移住者は2007年以降増加しており、昨年半ば時点で13万人のブルガリア人、23万人のルーマニア人が国内に居住していた。それとともに彼らの受入れにかかる通訳や語学学校などの社会統合費、児童手当、緊急医療費などの行政負担が増え、一部の自治体では財政が逼迫するケースも出てきた。さらに両国出身者に対するハルツIVの支給も増加し、給付認定をめぐって裁判に発展するケースも多発するようになった。こうした状況下で、2014年からは社会保障の受給を目的とした両国の移住者がさらに増加するのではないかという懸念が広がり、昨年11月には15の地方自治体の長が、国の対策や財政支援を求める嘆願書を提出する事態にまで発展していた。

論争を呼んだCSU文書「嘘つきは追放すべし」

EU移住者、特にブルガリア、ルーマニア出身者に対する懸念の声が高まる中、連立与党の一翼を担うキリスト教社会同盟(CSU)は昨年末「嘘つきは追放すべし(Wer betrügt, der fliegt)」とする文書を発表し、「ブルガリアとルーマニアに対する就労と移動の制限が撤廃されれば、両国から無資格者や低資格者がドイツに来て社会保障給付を不正に請求しようとするだろう」と警告し、大きな物議を醸した。このCSU文書に対しては、”特定の外国人層を犯罪者と見なしている”、”大衆迎合的だ”等の批判が噴出し、事態を重く見たメルケル首相は1月8日、11省庁の政務次官、連邦移民・難民庁長官らで構成する調査委員会を設置し、議論の鎮静化を図った。

不正受給はごく少数

3月26日に出された中間報告は、トーマス・デ・メジエール内相(CDU)とアンドレア・ナーレス労働社会相(SPD)が共同で発表し、「EU移住者の大多数は法に従っており、不正受給はごく少数だ」と述べて過熱する不正受給論に釘をさした。その上で今後の対策として、法律の濫用や詐欺が発覚したEU移住者に対する一定期間の再入国禁止措置、児童手当の支給について納税者番号の提出義務付け(重複給付防止のため)、EU移住者の「見せかけの自営」に対処するためジョブセンターや営業基準監督機関など関係当局で調整を図った上で営業法を改正、などの取り組みを提言した。そのほかEU移住者の集住地域の自治体に対しては連邦政府が財政援助を行う必要があるとした。

今回の中間報告について、ドイツ都市連絡評議会のウルリッヒ・マリー議長はマスコミの取材に応じて「提案は正しい方向に向かっている」と歓迎の意を表し、集住地域における状況緩和計画の速やかな実行を要請した。政府の調査委員会は6月に最終報告書を提出する予定である。

参考資料

  • Bundesministerium für Arbeit und Soziales, Staatssekretärsausschuss legt Zwischenbericht vor, 25.03.2014.
  • Die WELT, Missbrauch von Sozialleistungen soll erschwert warden, 26.03.14 .

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