「仕事と家庭の調和」めぐり、新たな労働時間制の導入を議論
―「期限付きパート就労権」や「両親労働時間制」など

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2014年4月

労働者全体の約半数が、自らの労働時間に不満を持っていることが、労働市場・職業研究所(IAB)の社会経済パネル調査(SOEP)でわかった。連邦政府内では、「仕事と家庭の調和」の要請などを背景に、新たな労働時間制の導入が議論されている。その1つが、希望すれば一定期間のみパート労働に就き、前のフルタイムへ戻ることを可能とする「期限付きパート就労権」の導入であり、これはすでに連立協定に明記されている。さらに、フルタイム労働のポストのまま労働時間を少し短縮する「両親労働時間制」も提案されている。

理想は、女性が週30.0時間・男性が週37.9時間

IABの調査(PDF:118.02KB)リンク先を新しいウィンドウでひらくによると、女性全体の56%、男性全体の52%が自らの労働時間に不満を持っている(表1)。その中でとくに不満度が高かったのは、女性就労者の4人に1人がそこにカテゴライズされるリンク先を新しいウィンドウでひらく僅少労働者である。男女ともに60%以上が自らの労働時間に不満を持っており(女性62%、男性65%)、そのほとんどが「労働時間の延長」を希望していた(女性54%、男性57%)。

通常パートタイム労働者は、「このまま」(女性45%、男性44%)または「労働時間の延長」(女性39%、男性46%)を希望する者が多く、この結果に男女で大きな差は出なかった。男女で結果に差が出たのは、フルタイム労働者である。女性は、「このまま」を希望する者の割合(45%)と「労働時間の短縮」を希望する者の割合(43%)がほぼ同率で、これら2つの回答で全体の90%近くを占める結果となった。これに対し、男性は、「このまま」を希望する者の割合(49%)こそ女性とほぼ同じであるが、「労働時間の延長」を希望する者の割合が20%と女性に比べやや高かった。しかし、それでもなお、「労働時間の短縮を希望する」と回答した者の割合も31%と、比較的高い結果になっている。

表1:就労形態別・男女別にみる希望労働時間の割合
  フルタイム 通常パートタイム 僅少労働 全体
男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性
週1.6時間以上の短縮 31 43 10 16 8 9 29 29
ほぼこのまま 49 45 44 45 35 38 48 44
週1.6時間以上の延長 20 12 46 39 57 54 22 27
  • *15歳以上74歳以下の労働者(職業訓練生・見習生を除く)
  • 出所:IAB, Arbeitszeitwünsche von Frauen und Männern 2012, 03. 02. 2014

同調査は、希望する労働時間の長さについても、分析を行っている(表2)。それによると、女性は全体で平均週30.0時間、男性は全体で平均週37.9時間が理想と回答している。就労形態別でこれをみると、フルタイム労働者と通常パートタイム労働者において男女に差が出ていることがわかる。フルタイムで就労する男性は平均でほぼ所定労働時間(週39.6時間)どおりの労働時間(週39.2時間)を希望しているのに対し、フルタイムの女性は平均で所定労働時間(週38.4時間)より2時間ほど短い労働時間(週36.3時間)を希望している。他方、パートタイムでは、男性が平均で現状の所定労働時間(週24.5時間)より5時間近く長く働きたい(週29.4時間)と考えているのに対し、女性は、その差はプラス2.5時間程度に留まっている(平均所定労働時間:週22.9時間、平均希望労働時間:週25.6時間)。

表2:就労形態別・男女別にみる実労働時間、
所定労働時間、希望労働時間の長さ(週あたり)
  フルタイム 通常パートタイム 僅少労働 全体
男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性
実労働時間 44.2 42.1 26.2 24.9 13.7 11.6 42.0 32.0
所定労働時間 39.6 38.4 24.5 22.9 14.8 11.1 38.3 29.9
希望労働時間 39.2 36.3 29.4 25.6 21.3 17.5 37.9 30.0
  • *15歳以上74歳以下の労働者(職業訓練生・見習生を除く)
  • 出所:IAB, Arbeitszeitwünsche von Frauen und Männern 2012, 03. 02. 2014

「期限付きパート就労権」の付与、連立協定に

他方、連邦政府内では、「仕事と家庭の調和」への要請や「専門労働力不足」問題を背景に、新たな労働時間制の導入が議論され始めている。

その1つが、「期限付きパートタイム就労権」の法定である。これは、2013年11月末にキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)との間で締結された連立協定書にすでに明記されているものである。同連立協定書によれば、この権利は、例えば子どもの養育や家族の介護を理由として一定期間のみパートタイム労働に就くことを希望する労働者に対して、その一定期間経過後、再び、従前の労働時間への復帰を請求する権利を保障するものであり、「復帰権(Rückkehrrecht)」とも呼ばれる。パートタイム・有期労働契約法(TzBfG)の改正によって、この権利が法律上明記することを予定している。

現行法上は、事業所内又は企業内に空きポストがあった場合の情報提供義務(パート・有期法7条2項)と優先考慮義務(同法9条)が使用者に課されるにとどまっている。しかし、この改正案が実現すれば、たとえフルタイム労働からパートタイム労働へとポストを転換した労働者も、従来のフルタイム労働ポストに復帰したいと考える労働者は、希望すれば、直ちに従来のフルタイム労働ポストに復帰することが可能になることになる。

フルタイムのポストのままで時短
―連邦家庭相が「両親労働時間制」提案

そのもう1つが、2014年初頭にマヌエラ・シュヴェーズィヒ連邦家庭大臣(SPD)が提案した「両親労働時間」制である。これは、フルタイム労働とパートタイム労働の間におけるポスト転換可能性を高めることを意図したものではなく、フルタイム労働のポストにとどまったまま、しかし労働時間数をわずかに短縮することを意図したものである。その具体的な制度設計について、シュヴェーズィヒ連邦家庭大臣は、「小さな子どものいる親の“フルタイム”は、週40時間などではなく、週32時間程度であるべきだ。このようなライフステージにある労働者は、職業生活に置く重点を一時的にやや控えめに設定したとしても、賃金はもちろんキャリア形成の機会においても、何らの不利益も被ることがあってはならない。父親も母親も、家庭生活のための時間をより多く持ちたいと考えているが、しかし同時に、職業生活においてキャリアを積める機会をきちんと確保できることを望んでいる。」とコメントしている。

さらに、シュヴェーズィヒ連邦家庭大臣は、時間縮減による賃金減額分を税金によって補填することも提案していたが、アンゲラ・メルケル首相は、即座にこの提案を拒否した。しかし、連立政権を担う両党は、その後、「労働時間と家庭時間」問題を省庁横断的に協議する場を設置することで合意した。と同時に、連立協定書においてもすでに、「両親手当プラス」を制度化することが明言されている。これは、とくに家事の平等な負担と職業生活への早期復帰を促すことを目的としたものであり、例えば、両親がともに週25時間から週30時間就労する夫婦には両親手当を10%増額する、パートタイム労働に復帰した者には最大28カ月(現行14カ月)まで両親手当の支給期間を延長する、といった規定を設置することを予定している。

使用者団体は「専門労働力」の確保を重視

労使団体も、ポストの変更なく、しかもフルタイムに近い形で就労できる雇用を創出することが重要である、という点で一致している。

ドイツ使用者団体連盟(BDA)のインゴ・クラマー会長は、「仕事と家庭の調和は、将来の専門労働力不足を緩和するために、決定的に重要な課題である。両親休暇を取得した者が仕事から長く離れれば離れるほど、復帰はそれだけ難しくなり、技能の低下もそれだけ大きくなる」とコメントしている。「ただ、具体的な解決策をどう見いだすかは、我々に任せてほしい。例えば、多くの使用者は、フルタイム労働者の労働時間を短くするのではなく、希望するパートタイム労働者の労働時間を長くしたいと考えている。政府も、自らが果たすべき責任を大きく企業の負担において実現しようとするのではなく、保育所不足の解消など、不就労あるいは極めて短時間な就労を解消するためにできることをまず行うべきだ」。

また、国内最大の労働組合であるIGメタルは、「仕事と家庭の調和」をテーマに50万人規模のアンケート調査を実施した。同調査によれば、組合員の10人に1人が在宅介護を行っており、中年層の3人に1人が養育を必要とする子どもと暮らしている。同労組副会長のヨルク・ホフマン氏は、「重要なのは、このような場面における労働時間の削減が、パートタイム就労にポスト変更されることなく、あくまでフルタイム就労としての扱いで実施されることである。さもないと、パートタイムの烙印が押されることになり、フルタイムへの復帰も難しくなる」とコメントしている。

参考資料

  • Jöris H., Rückkehranspruch von Teilzeitkräften auf Vollzeitbeschäftigung, NJW-Spezial 2013, S. 754.
  • Die WELT, 32-Stunden-Woche für Eltern: Schwesig verteidigt Pläne, 10. 01. 2014
  • Die WELT, IG Metall fordert für Familien 30-Stunden-Woche, 27. 01. 2014
  • Die WELT, Arbeitgeber wollen Eltern länger arbeiten lassen, 05. 02. 14
  • ZEIT online, IG Metall fordert 30-Stunden-Woche bei Sonderbelastung, 27. 01. 2014

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