年金保険料率引き上げ、失業扶助・生活保護支給額の増額など
―各種制度の改正、1月から実施

カテゴリー:雇用・失業問題勤労者生活・意識

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  • 国別労働トピック:2014年3月

税制や社会福祉、雇用などの様々な制度が改正され、1月1日に施行されている。まず、公的年金の保険料率(労使合計)が0.40ポイント引き上げられ17.25%となり、これに伴う使用者負担軽減のため家族手当制度の保険料率が5.40%から5.25%へと引き下げられた。また、失業扶助及び生活保護支給額がそれぞれ1.3%増額された。さらに、経済成長・競争力強化・雇用創出を目的として法人税を実質的に引き下げたことによる財源不足を補うため、消費税が19.6%から20.0%(外食などにかかる中間税率は、7.0%から10.0%)に引き上げられた。

1.家族手当保険料率の引き下げ

公的年金及び家族手当制度の保険料率が2014年1月1日に改定された。

公的年金制度には民間企業で働く雇用労働者が加入する「一般制度」と公務員や公的企業で就業する労働者を対象にした特別制度がある。公的年金の一般制度の保険料率が改定され、「社会保険料賦課対象最高賃金基準額」注1までの賃金額に対する負担では、使用者分が8.40%から8.45%へ、労働者分が6.75%から6.80%へと引き上げられた。また、賃金総額(上限なし)に対して掛かる保険料率では、使用者分が1.6%から1.75%へ、労働者分が0.1%から0.25%へと引き上げられた。したがって、月額3129ユーロ以下の賃金に対する保険料率は使用者負担分が10.0%から10.2%へ、労働者負担分が6.85%から7.05%と引き上げられた(労使合計の保険料率は16.85%から0.40ポイント引き上げられ、17.25%となった)ことになる。公的年金制度の保険料率引き上げは、特別制度も含めて全ての制度について同じ引き上げ幅で実施された。

この公的年金の保険料率引き上げによって使用者負担が更に増加し、雇用に影響することを避けるため、家族手当制度の保険料率(この家族手当制度に関しては、使用者負担のみで、労働者負担の保険料はない)が、1月1日に従来の5.40%から5.25%へと引き下げられた。なお、家族手当制度の最大の財源は使用者の拠出する社会保険料で、こども手当や生活保護(RSA)、住宅手当などの諸手当の支給に使われている。

2.失業扶助・生活保護支給額の引き上げ

法定最低賃金(SMIC)の引き上げについては既に海外労働トピック2014年1月において伝えたとおりであるが、失業補償制度のうち連帯制度(失業扶助制度)の諸手当が1月1日に引き上げられた。失業保険制度による失業手当の受給権を終了した者などに給付される連帯特別給付(ASS:Allocation de solidarite specifique)及び退職相当手当(AER:Allocation Equivalent Retraite)の給付額が1.3%増額された。これにより1日当たり15.90ユーロから16.11ユーロ(月額483.3ユーロ)となる。なお、毎年7月1日に改定されている失業保険制度の失業手当の支給額には変更はない。

約250万世帯が無収入のため生活保護を受給している。この積極的連帯所得手当(RSA:Revenu de solidarite active)の支給額が1月1日に1.3%引き上げられた。これは2014年の予想インフレ率に相当するもので、単身世帯では月額499.31ユーロ、2人世帯(夫婦又は片親と子供1人)では748.97ユーロとなった。この引き上げとは別に、現政権は貧困対策として、昨年以来、5年間の予定で毎年9月1日に2%の増額を予定している。

3.消費税率(通常税率)引き上げと軽減税率の据え置き

3-1 通常税率、19.6%から20.0%へ

フランスにおける付加価値税(TVA:Taxe sur la Valeur Ajoutee、以下、消費税)の税率には、通常税率、中間税率、軽減税率(5.5%と2.1%の2種類)がある注2。大部分の財・サービスの販売に対して通常税率が適用されている。中間税率は、暖房用木材、交通機関の運賃、飲食店での食事代(ただし、ワインなどアルコール飲料は除く)、住居のリフォーム費、博物館や美術館、動物園などの文化施設の入場料などに賦課されている。この中間税率は、軽減税率(5.5%)が適用されていた品目の一部が、引き上げられることにより、2012年の1月1日に新たに設定されたものである。5.5%の軽減税率が課せられるのは、食料品(チョコレートや飴などの菓子類、マーガリン等植物性脂質、キャビアを除く)、水及びノンアルコール飲料、身体障害者用の器機及びサービス、電気・ガスの基本料、小・中・高校の食堂、劇場の入場料などである。2.1%の軽減税率が課されているのは、一部の医薬品、テレビの視聴料などである。

1月1日、消費税の通常税率が従来の19.6%から20.0%へ、中間税率は7.0%から10.0%へと引き上げられた。これは、経済成長・競争力強化・雇用増加を目的として、法人税を実質的に引き下げたことによる財源不足を補うための措置であり、オランド現政権が発足後の2012年の第3次補正予算法に盛り込まれていたものである。5.5%の軽減税率に関しては、消費税の税率引き上げに対する国民の批判を和らげるために、2012年の第3次補正予算法では5.0%へ引き下げられることになっていたが、厳しい財政状況を踏まえ2014年予算法によって引き下げが見送られた。

3-2 一部品目での消費税率引き下げ

このように、1月1日に消費税の税率が引き上げられたが、一部の品目では引き下げられた。例えば、低所得者向けの公営住宅の建設費や改装費に掛かる消費税の税率は、これまで中間税率の7%が適用されていたが、今回、10%に引き上げられるのではなく、逆に、5.5%に引き下げられた。また、中家賃住宅注3の建設に掛かる消費税の税率も、それまでの20%から10%へと引き下げられた。さらに、エコ住宅・産業の推進のため、住宅のエコ・リフォームの改装費(断熱効果を高める改装など)に関しても、従来7%であり本来であれば10%に引き上げられるはずだったが、1月1日から5.5%の軽減税率が適用されるようになった。映画館の入場料に掛かる消費税も、従来の7%から5.5%へと引き下げられた。これらは与党議員や財界からの圧力があったためである。歳入減を最小限に止めたい大蔵省は抵抗したが、結果的には消費税の税率引き上げによる増収額が、当初の予定より減少する見込みとなった。今回の消費税の税率改定によって、消費税の税収が年間56億ユーロ増加すると推計されている。

4. 短時間就労による低所得解消へ

4-1 パートタイム、24時間以上の原則

フルタイムでの就労を望んでいるものの、パートタイムでの就労を余儀なくされている者の就業時間は、自らの意思でパート就労している者と比べて短い上に賃金も低いとされている。そのため、短時間労働が原因で低所得を強いられている労働者を減少させるために、1月1日以降に締結されるパートタイムの雇用契約では、就業時間を原則として週24時間以上とすることが定められた。これは2013年6月に成立した雇用安定化法に基づく措置である。

既存の週24時間未満のパートタイムの雇用契約は、従業員の求めがあれば2016年1月1日までに週24時間以上に変更することも義務づけられた。雇用主はこの措置を、原則として受け入れなくてはならないが、経営状態が厳しいことを証明できる場合には拒否できる。また、家事使用人など個人の雇用主の下で就業している雇用労働者や、26歳未満の学生、職業定着訓練期間中と見なされる者は対象外とされている。さらに、本人の都合で週24時間未満の就労を望む者(家庭の事情で週24時間以上就業できない者や兼職している者など)は、自らの申し出により週24時間未満のパートタイムに従事することができる。その場合、書面でその意思を表明しなければならない。

4-2 パートの超過勤務割増賃金

パートタイムの超過勤務に対しては、原則として契約時間の10%を超える場合 (例えば、雇用契約上の労働時間が30時間の場合、34時間目以降)にのみ、25%以上の割増賃金が支払われることになっていた。つまり31時間目から33時間目の就労には、割増賃金の支払義務はなかった。1月1日以降は、契約時間を超える場合には、割増手当が支給されることになった。割増率(原則)は、契約時間の10%まで(雇用契約上の就業時間が30時間の場合、31時間目から33時間目)の就労に対して10%、それ以上の就労に対しては、25%となっている。ただし、労使協約により25%未満に設定することも可能であるが、この場合でも10%以上でなくてはならない。

4-3 労使合意の遅れによる施行延期

パートタイムが多い(3分の1以上がパートタイムの)産業では、パートタイム就労に関する労使交渉が義務づけられ、最低労働時間や超過勤務に対する割増賃金率を設定することが可能である(すなわち、パートタイムの最低労働時間を週24時間未満に設定することも可能)。交渉が合意に至らなかった場合に、週24時間の最低労働時間などが今年1月1日から適用されるはずであった。しかしながら、労働省の発表によると1月に入っても交渉が義務づけられた産業の半分近くが合意に至っていない。そのため、交渉を継続するため週24時間の最低労働時間などの適用を、2014年6月30日まで引き延ばすことを決定した注4。したがって、パートタイムの最低就業時間に関する改正は、事実上延期されたことになる。

5.ブルガリア、ルーマニアからの移動自由

このように、今年の1月1日には、様々な制度の改正・改定が実施されたが、その他にブルガリア国籍とルーマニア国籍の者の就業目的での入国が自由化された注5。両国は2007年にEUに加盟したが、両国出身労働者が急増することを回避するための激変緩和措置として「人の移動の自由」が制限されていた。なお、EU加盟国のうちクロアチアについては、移動の自由までの移行期間として2015年6月30日まで制限される。

(ホームページ最終閲覧:2014年2月27日)

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