脆弱な経済回復は雇用に及ばず
―ILO『世界の雇用動向(2014年版)』発表

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2014年2月

ILOは1月21日、『世界の雇用動向(2014年版)』を発表した。世界経済の脆弱な回復は労働市場の改善につながらず、2013年の全世界の失業者数は2億200万人(前年比500万人増)に達した。発展途上国の大半では、インフォーマルな雇用が蔓延している。報告書は、経済成長と雇用創出を強化するため、雇用を重視した政策への転換および労働所得の引き上げが必要であると強調している。報告書の概要は以下のとおり。

世界の失業者数は2013年に500万人増加

2013年の世界の失業者数は2億200万人で、1年前と比較して約500万人増加した。失業が大幅に増加したのは東アジアおよび南アジア地域で、両地域だけで新たな求職者の45%以上を占めた。これに、サハラ以南アフリカと欧州が続いた。

世界的な雇用の需給ギャップは2013年に6200万人に達し、そのうち、3200万人が新規求職者、2300万人が意欲を喪失して求職活動をしなかった人、700万人が労働市場への参加を望まず経済活動を行わなかった人であった。

現在の傾向が続けば、2018年までに失業者がさらに1300万人増加し、求職者が2億1500万人以上に達するとみられる。毎年4000万人の新規雇用が創出されるが、毎年労働市場に参入する4260万人よりも少ない。世界の失業率は、今後5年間ほぼ一定で、経済危機以前より0.5ポイント高い状態が続くと予想される。

若年失業、先進国における長期失業が増加

2013年は全世界で約7400万人の若者(15~24歳)が失業しており、1年前より100万人以上増加した。若年失業率は13.1%で、成人の約3倍となっている。中東および北アフリカが特に高く、中南米の一部やカリブ海および南欧も同様である。雇用も教育も訓練も受けていないニートの若者の比率が、経済危機以降、急増する傾向にある。

多くの先進国では、失業期間が経済危機以前の2倍となっている。ギリシャ、スペインでは、平均失業期間がそれぞれ9カ月、8カ月に達している。米国でも、全求職者の40%以上が長期失業に苛まれている。

失業の長期化は、労働市場回復の足かせとなる。長期間失業している求職者は急速にスキルを失い、類似の職業や同等の技能水準の仕事を見つけることがより困難になる。

労働力率は、経済危機前の水準より1ポイント以上低い状態にとどまる。労働力率の低下は、多くの女性が労働市場から退出した東アジアおよび南アジアで特に顕著である。同時に、これらの地域では教育水準の向上により、若者が労働市場に参入する年齢が高くなっている。先進経済地域では、特に若年労働者が労働市場で機会を見出せず、労働力率が低下した。他方、中欧や東欧などの地域では、労働力率が上昇している。

脆弱な雇用が全雇用の48%を占める

脆弱な雇用(自営業や家族労働者)に就く人の数は2013年に約1%増加し、経済危機以前の5倍に増えた。脆弱な雇用が全雇用の約48%を占めており、賃金や給与を受け取る労働者に比べて、社会保障や安定した所得へのアクセスが無いかまたは限定的な傾向がある。

ワーキング・プアの数は、2010年以前より遅いペースではあるが、世界的に低下し続けている。2013年時点で、3億7500万人の労働者(全雇用者の11.9%)が、1日1.25ドル未満で生活しており、8億3900万人(全雇用者の26.7%)が1日2ドル以下の生活を余儀なくされている。

発展途上国の大半では、インフォーマル雇用が蔓延している。インフォーマル雇用率が顕著に高いのは南アジアおよび東南アジア諸国であり、全雇用の90%を占める国もある。低所得のアンデスおよび中米諸国では70%以上のインフォーマル雇用率が続いている。これらの地域においては、フォーマルな雇用機会の欠如が貧困の持続可能な削減の障壁となっている。

雇用重視のマクロ経済政策による雇用・社会的格差の是正

世界の労働市場のより迅速な回復は、総需要不足によって阻害されている。多くの先進国で現在進められている財政健全化は、弱い個人消費に加えて、さらなる生産拡大の足かせとなっている。マクロ経済政策と労働所得増加の再均衡が雇用展望を大幅に改善させる。高所得のG20諸国では、そのような再均衡により失業率を2020年までに1.8ポイント低下させ、6100万人の追加的な雇用を創出することができる。

金融政策は、総需要にプラスの刺激を与える適応策であり続ける。もし財政危機に直面した政策担当者が迅速な金融政策を実行していなかったなら、経済規模の大きな先進諸国の失業率は1~2ポイント高かったと推計される。しかし、最近は、そのような順応型金融政策による追加的流動性の大部分が実体経済よりも資産市場に流入して持続可能な雇用回復の足かせとなり、株式・住宅価格バブルのリスクを生んでいる。

積極的労働市場政策の強化による労働市場の機能改善

就業意欲の喪失および増加する長期失業が理由で労働市場から脱落した失業者が2300万人にのぼると推計される。経済的無活動とスキルのミスマッチに対処していくためには、積極的労働市場政策(ALMP)をより強力に実行する必要がある。就業意欲をなくし労働市場から撤退する労働者が今後さらに増えるならば、スキルが低下、陳腐化するリスクが増大する。

OECD諸国の2011年の積極的労働市場政策に対する支出は、平均GDPの0.6%未満であった。先進諸国とEU地域が、この支出をGDPの1.2%まで増額すれば、390万人の追加的な雇用を創出できると推計される。積極的労働市場政策に対する支出が最低水準にとどまる地域は、労働市場の機能改善において最も恩恵を受ける可能性がある。

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