北京市、社会保障関連の給付金など引き上げ
―最低賃金、失業保険、基本年金など

カテゴリー:労働条件・就業環境

中国の記事一覧

  • 国別労働トピック:2014年2月

北京市人的資源社会保障局の発表によると、北京市は2014年の社会保障関連6項目の給付金などの引き上げを決めた。6項目は、最低賃金と失業保険、都市・農村住民の基本年金・福利年金、都市企業従業員基本年金、障害年金、最低生活保護の給付金。

図表1:北京市の社会保障の待遇(2014年)
社会保障の待遇 実施時期 調整内容(調整後)
最低賃金 4月1日 月額1560元
失業保険金 4月1日 平均120元引き上げ
都市・農村住民の基本年金及び福利年金 1月1日 都市・農村住民の基本年金:1人あたり月額430元
福利年金:1人あたり月額350元
都市企業従業員基本年金 1月1日 約10%引き上げ
障害手当 1月1日 1人あたり月額3394元
最低生活保護 1月1日 都市:1人あたり月額650元
農村:1人あたり月額560元

出所:北京市人的資源社会保障局

1.最低賃金

4月1日から、現行の月額1400元を11.4%引き上げ1560元とする。今回の引き上げにより、北京市の最低賃金は5年連続して引き上げられたことになる。パートタイム労働者の最低賃金は時間額15.2元から16.9元に、祝日の最低賃金は36.6元から40.8元になる。

北京市の最低賃金には、個人負担分の年金、失業保険、医療保険などの社会保険料及び住宅積立金が含まれない。企業が最低賃金の基準から従業員の社会保障料を差し引く行為は違法である。「最低賃金法(2004年)」第12条により、下記も最低賃金から差し引くことができない。

  1. 時間外勤務手当
  2. 中夜勤(三交替制の中番での15時~23時)、深夜勤(三交替制の深夜勤での23時~翌朝7時)、高温、低温、坑内、有毒、有害などの特殊な労働環境及び労働条件下における手当
  3. 法律、法規及び国が規定する労働者の福利厚生など

図表2:北京市の最低賃金の推移(単位:元/月)

図2

出所:北京市人的資源社会保障局

2.失業保険金

失業保険金は保険料納付期間により5段階に区分されている。4月1日以降の給付基準は下記の通り。

図表3:北京市の失業保険金給付額
保険料累計納付期間 金額(元/月)
満1年~5年未満 1,012
満5年~10年未満 1,039
満10年~15年未満 1,066
満15年~20年未満 1,093
満20年以上 1,121
  • 出所:北京市人的資源社会保障局
  • 注:受給金額は、納付期間中のその納付額によらず一律である(北京市の保険料率は労働者が0.2%、使用者が1%)。受給期間は保険料の納付期間により5段階に区分されており、下記の通り。
    • 1年以上2年未満:3カ月
    • 2年以上3年未満:6カ月
    • 3年以上4年未満:9カ月
    • 5年未満:12カ月
    • 5年以上:1年につき1カ月間の追加支給。ただし最長で24カ月

図表4:北京市の失業保険金給付額の推移(単位:元/月)
図2

  • 出所:北京市人的資源社会保障局

3.都市・農村住民の基本年金及び福利年金

公的年金制度は4つ存在している。1つは、市内の企業と雇用契約している都市従業員、都市自営業者、非常勤従業員が対象の「都市従業員年金制度」。2つは公務員と政府系事業組織の従業員が対象の「公務員年金制度」。3つは、前二者に加盟していない市の戸籍を有する男性16~60歳未満、女性16~55歳未満を対象とした「都市・農村住民の基本年金」。4つは、これらいずれにも加盟していない市戸籍を有する男性60歳以上、女性55歳以上が対象の「都市・農村住民の福利年金」。このうち、後者の2つを見ると、1月1日から、「基本年金」を前年の月額390元から10.3%引き上げて350元に、「福利年金」を前年の310元から12.9%引き上げて350元にした。

基本年金と福利年金の給付額は2011年から4年間で5回引き上げられている。2014年の受給者の人数は、基本年金34.63万人、福利年金で50万人に達する見込みという。

図表5:基本年金と福利年金の給付額の推移(単位:元/月)

図3

  • 出所:北京市人的資源社会保障局

4.都市企業従業員基本年金

従業員年金制度の年金給付水準については、国務院会議が規定で1月1日からの10%引き上げの基準を示している。北京市もこの基準に沿って、前年の月額2773元から3050元に引きあげられる。

図表6:北京市の年企業従業員基本年金の給付額の推移(単位:元/月)

図4

  • 出所:北京市人的資源社会保障局
  • 注:2014年値は予測値

5.障害手当

「労働災害保険条例(2004年)」第40条により、障害手当、扶養親族弔慰金及び生活保護費用は、各地の労働保障監督部門が従業員平均賃金及び生活費の変動などの状況に応じ、適時調整することとなっている。北京市は2001年以降、毎年障害手当などの調整を行っている。2014年の調整により、労災障害手当は月額3081元か3394元になり、10.2%の増加となった。扶養親族弔慰金は一人あたり1669元から1819元になり、9%の増加となった。生活保護費用は現在一人あたり1882元であるが、2013年の北京市従業員平均賃金をふまえて調整される予定である。

6.最低生活保護

北京市の最低生活保護制度は都市部と農村部で分かれている。都市部は1人あたり月額580元から650元になり、12.07%上昇した。農村部は一人あたり月額460元から560元になり、21.74%上昇した。都市部・農村部の低収入の認定基準は850元となり、以前と比べて110元、14.86%上昇した。2013年12月末時点での最低生活保護受給者は16.55万人で、その内、都市部は10.19万人、農村部は6.36万人である。

図表7:北京市の最低生活保護制度での給付額の推移(単位:元/月)
2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
都市 330 390 410 430 480 520 580 650
農村 90 210 300 380 460 560
  • 出所:北京市人的資源社会保障局
  • 注:2008年、2009年の農村の値は地域ごとに調整されており、地域により異なる。

望まれる物価上昇並の引き上げ

「収入倍増」の実現をはじめ、物価上昇への配慮、社会の安定化などを前提に、北京市は社会保障の調整に取り組んでいる。各種社会保障の給付額の引き上げは、低収入層にとっては一安心であるが、物価上昇や医療費高騰などへの心配も強い。いずれは社会保障の給付額の上昇率が物価上昇スピードのそれに追いついてほしいという声も上がっている。一方で企業側では、最低賃金の引き上げにより人件費の増加も見込まれ、コスト負担もいっそう増加することとなる。企業側では、賃金の上昇により従業員のモチベーションが上がるものの、政府は企業に対して減税や補助金などの措置をとるべきだという声も出てきている。

参考資料

  • 北京市人的資源社会保障局、新華網、人民網、新京報、京華時報

関連情報