雇用審判所への申し立て件数が大幅減、有料化が影響か

カテゴリー:労使関係

イギリスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2014年12月

雇用審判サービスの有料化以降、雇用審判所への申し立て件数が急速に減少している。申し立ての濫用を防止することを目的に掲げて政府が導入したものだが、女性や立場の弱い労働者など、本来サービスを必要としている層による適正な申し立てが、高額な料金設定によって排除されている可能性が指摘されており、労組や支援団体に留まらず経営側からも懸念が示されている。

年間の申し立て件数はほぼ半減

雇用審判サービスの有料化は、労使紛争処理制度の改革の一環として2013年7月に導入されたものだ。料金は申し立て内容に応じて2種類に区分され、未払い賃金や解雇予告手当、整理解雇手当などの請求に関するもの(レベルA)は申し立て1件につき160ポンド、審理(hearing)が行われる場合はさらに230ポンド、また不公正解雇や差別、均等賃金、内部告発などに関する申し立て(レベルB)はそれぞれ250ポンドと950ポンドとなっている。集団での申し立ての場合は人数による増額がある。一方、雇用控訴審判所については、控訴の申請が400ポンド、審理が行われる場合はさらに1200ポンドが課される。

9月に公表された審判サービスへの申し立ての受理件数に関するデータ(図表)によれば、2013年度の雇用審判所への申し立て件数は10万5803件で、前年度から45%減少した。また直近の四半期データでは、2014年4-6月期の申し立て件数は8540件で、前年同期の4万4334件から81%の減となった。内容別には、「労働時間指令」 (2013年4-6月の2万1313件から2014年4-6月には2171件、90%減)、「不公正解雇」(同11258件から2919件、74%減)、「賃金の不正な控除」 (事業譲渡に伴う不公正解雇を含む:9797件から2545件、74%減)、「均等賃金」(8991件から1995件、75%減)、「性差別」(6310件から591件、91%減)などで顕著に件数が減少している(注1)

図表:雇用審判所への申し立て件数の推移

図表:雇用審判所への申し立て件数の推移

  • 出所:Ministry of Justice "Tribunal statistics quarterly: April to June 2014"

適正な申し立てが排除されている可能性

政府はサービス有料化に際して、根拠の弱い、あるいは訴権の濫用にあたる申し立ての削減を目的に掲げていた(注2)が、有料化以降の件数の減少がそうした効果によるものかは不明だ。法務省のヴァラ担当相は、労使間の紛争解決のコストを納税者が負担すべきではなく、有料化により紛争当事者がこれを負担することは公正であると主張。低所得層については、料金免除の制度(注3)が利用可能であり、サービスから排除されているわけではないと述べている。

一方、イギリス労働組合会議(TUC)は、有料化により申し立てが抑制されることで、労働者に対するハラスメントや虐待に対する追及を免れやすくなっているとして、「悪質な雇用主の勝利」だと批判している(注4)。また、法律相談などの市民サービスを提供している非営利団体Citizens Adviceは、市民から寄せられる関連の相談内容を分析、本来は雇用審判所への申し立てが妥当とみられる(2分の1あるいはそれ以上の確率で勝訴する可能性がある)内容の相談のうち、実際に申し立てを行うとしている相談者は3割にとどまるとの結果を報告している。全体の半数以上が、料金・費用を理由に申し立てを断念しているという。雇用審判所への申し立てに関するビジネス・イノベーション・技能省の調査でも、申し立てを断念した者の46%が、もし料金がなければ申し立てについて改めて検討する、と回答している。

さらに、同種の違和感は経営側からも聞かれる。イギリス産業連盟(CBI)や小企業連盟(FSB)は、申し立て件数の減少自体は評価しつつも、高額な料金を課すことによって、こうしたサービスが必要な層を排除することには懸念を示している。

なお、雇用審判所の負荷を軽減する施策の一環として、この4月からは、雇用審判所への申し立てに先立って、助言・斡旋・仲裁局(ACAS)に届け出(early conciliation notification)を義務付ける制度が導入されている(注5)。従来行われていた任意の斡旋制度(pre-claim conciliation)に替わる制度だが、届出内容は申し立て者と雇用主の氏名・連絡先、当該の雇用主に雇用されていた期間(申し立ての内容によっては勤続期間が資格要件となっている場合がある)のみで、届出の段階では紛争の具体的な内容は問われない。ACASは届出を受けて、双方に斡旋の打診を行うが、斡旋を受けるか否かは任意だ。4-6月期の届出1万7145件(注6)のうち、労使のいずれかが斡旋を拒否した件数はおよそ2600件(15%)にとどまり、大半が斡旋を受けている。

参考資料

参考レート

2014年12月 イギリスの記事一覧

関連情報