従業員の協同組合組織による売却企業の買収を促進
―2014年7月成立の社会連帯経済法の一環

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係

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  • 国別労働トピック:2014年12月

企業が売却を計画する際、事前に従業員代表に通知することを義務付ける制度が2014年11月1日から施行された。7月に成立した社会連帯経済法による措置である。今回の改正で対象となるのは、従業員規模250人未満の企業。健全な企業が買収先の不在を理由として倒産してしまうことを回避する目的をもっている。

立法の背景

社会連帯経済は、一般的には、協同組合や共済組合など19世紀から発展してきた各種の非営利組織が行う活動とともに、70年代以降の社会的不平等の是正や弱者救済のための社会復帰施設の運営、環境保護のための連帯運動、既存の公共サービスや市場原理に基づく企業では満たされないニーズに対応するための活動などを行う。フランスでは社会連帯経済に取り組む企業20万社が200万人以上を雇用していると言われる。これは民間部門被用者全体の8分の1に相当する。社会連帯経済は過去10年間で44万人の新規雇用を生み出した。これは、23%という高い伸び率であり、伝統的な経済の7%を大きく上回る(注1)

政府として社会連帯経済を支援

社会連帯経済法(通称アモン法)(注2)は、「社会連帯経済」を定義づけした上で、その定義に該当する経営組織に対して公的な支援を行い、関連する部門の振興を促進する内容となっている。

同法はタイトルI 第2条において、社会連帯経済を次のように定義づけしている。

  1. 経済的または社会的地位が不安定であり、健康面で社会的援助を必要としている者のための支援活動
  2. 社会的な排除の対象となったり、健康面、経済面、文化面で不平等な状態にある者への対策のため、市民教育を行い、社会的な絆や結束を維持し強化することに貢献する活動
  3. 上記1.及び2.で挙げた目的と関連するもので、エネルギー移転または国際的な連帯に資する活動

その上で、政府として社会連帯経済を促進するために、首相直属の社会連帯経済評議会(注3)を設置し(第4条)、行政機関と連携する措置を取った。また、全国規模の代表機関である社会連帯経済会議所(注4)が設置されることになった(第5条)。その他、協同組合(注5)の設立や活動を支援する協同組合振興基金(注6)の創設(第23条)や協同組合の資金調達を容易にする措置(第24条)などがある。

同法の骨子は以下のとおりである。

  • タイトルI:一般規定(社会連帯経済の原則と範囲、社会連帯経済の振興、社会経済の事業発展への貢献等)(第1条から17条)
  • タイトルII:企業から従業員への事業譲渡を容易にするための条項(第18条から22条)
  • タイトルIII:協同組合に関する条項(第23条から50条)
  • タイトルIV:相互保険会社、積立保険会社に関する条項(第51条~58条)
  • タイトルV:支援のための措置(第59条~61条)
  • タイトルVI:アソシアシオン(注7)に関する条項(第62条~79条)
  • タイトルVII:財団と基金に関する条項(第80条~87条)
  • タイトルVIII:エコロジー関連組織に関する条項(第88条~92条)
  • タイトルIX:雑則(第93条~98条)

従業員への事業譲渡を容易に

同法にはまた、企業が自社の売却を計画する場合に、会社側から従業員側へ通知する義務が新たに導入された。従業員がSCOP(注8)と呼ばれる協同組合組織によって自社を買い取って事業を継承できるようにすることを念頭に置いている。従業員数50人以上、250人未満の中小企業(注9)で、自社の売却を計画する経営者は、売却予定の2カ月前に従業員代表にその旨通知する必要がある(同法第18条から20条)。この条項は、健全な企業でありながら買収者がいないために倒産してしまう多くの企業が存在することへの問題意識として、企業が事業継続し雇用の喪失を防ぐことを目的としている。商業・手工業・消費・社会連帯経済担当のキャロル・デルガ大臣によると、このような企業倒産のために、毎年、26000人の雇用が失われているという(注10)。2月24日に成立したフロランジュ法(注11)の工場閉鎖を計画する場合に事業継承を優先するという趣旨を強化する意味合いもある。

使用者、与党内に反対意見

だが、経営者団体はこの措置について、企業経営の自由を侵害する措置だとして反発。フランス企業運動(MEDEF)及び中小企業総連盟(CGPME)は、この法律によって企業買収による事業継続が促進されることがないばかりか、企業経営が一層煩雑になってダメージを受けるとした上で、まるで木製の足に湿布を貼るような意味のないことだと揶揄している。一方、労組側にとっても懐疑的な見解がある。労働総同盟(CGT)は、この措置は先進的だが多くの不確実性をはらんでいると指摘する(注12)。定義づけの範囲が、使用者にとって好都合に拡大解釈されると、従来の企業形態と社会連帯経済との間の違いが曖昧になる可能性があり、従来からある共済組合やアソシアシオンに対して脅威となる側面を含んでいる。そのため、この法律の条文は労働組合にとって建設的なものであると受け止めているが、法律の実効段階を注視し警戒する活動を続けていくとしている。経営者団体によるロビー活動も活発化しており、政府与党内にも同調する声がある。社会連帯経済担当省は同法の実施状況を評価するための調査を行い、2015年の早い段階までに同法による措置の具体的な手続きや条件を明確化する予定としている(注13)

参考資料

(ホームページ最終閲覧:2014年12月12日)

参考レート

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