「待機労働契約」が拡大

カテゴリー:非正規雇用労働法・働くルール労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2013年9月

雇用主の求めに応じて不定期に働き、労働時間に応じて賃金が支払われる「待機労働契約」の労働者の増加をめぐり、論議が高まっている。週ごとの労働時間や収入額の不安定さ、正規従業員との間の処遇格差などに強い批判が集まる一方、業務の繁閑に合わせた柔軟な人員配置の手段としての有用性や、育児・介護あるいは学業などの事情を抱えた労働者が可能な範囲で柔軟に働くことができる、といった利点も主張されている。

100万人にのぼる可能性も

待機労働契約(zero-hours contract)は、雇用主の要請がある場合のみ働き、労働時間に応じて報酬を受け取る契約だ注1。法的な定義はなく、一般的には、雇用主には仕事を提供する義務がない一方で、労働者も契約上は、仕事を引き受けるか否かを任意に決めることができる。また雇用主が労働者に対して職場での待機を求める場合には、待機時間は労働時間とみなされて労働時間規制の対象となるほか、最低賃金の算定の際にも考慮される(自宅での待機時間は対象外)。雇用法上、被用者とはみなされにくいため、雇用主には休暇手当や傷病手当などの支払い義務は生じず、また仕事を提供しないことで実質的には解雇が可能であることなど、法的な権利は正規従業員に比べて限定的になりがちだ注2

統計局は、待機労働契約による労働者数は2012年時点で25万人と推計、2004年の10万8000人から2.5倍近く増加したとしている注3。またビジネス・イノベーション・技能省の職場雇用関係調査(WERS)によれば、待機労働を利用している事業所は全体の8%で、規模の大きい事業所で利用比率が高く(100人以上規模の事業所では2004年の11%から23%に増加)、また業種別には、ホテル・レストラン業で急速な普及がみられる(2004年の4%から2011年には19%に増加)ほか、医療・介護業(同7%から13%)、教育業(1%から10%)などで比率が高い注4

ただしシンクタンクや労組は、自らが待機労働契約により働いていると認識していない労働者が考慮されていないことなどを理由に注5、実際の労働者数は統計局の推計をはるかに上回っていると見ている。例えば、介護業の関連団体スキルズ・フォー・ケアは、業界内の待機労働者の規模について30万7000人と推定しているという注6。またシンクタンクのCIPDが7月末にまとめた調査結果注7は、待機労働契約による労働者数は就業者全体のおよそ4%、100万人に達している可能性もあるとしている。なお待機労働者の平均的な労働時間は週19時間で、約4割は週30時間以上働いている。また14%の労働者が、しばしば生活水準の維持が困難な労働時間分の仕事しか提供されないと回答している。

飲食業・小売業の大手企業が盛んに活用

待機労働を巡っては、雇用や収入の不安定さとともに、正規従業員との間の処遇格差や雇用上の権利が制限されることなど、問題がこれまでも指摘されてきたところだが、この7月、大手スポーツ用品小売チェーンで従業員2万3000人のうち9割をこうした労働者が占め、また正規従業員との間で大きな処遇格差が設けられていることが明らかになって以降注8、にわかに注目を集めることとなった。国内では同種の事例として、大手ファストフードチェーンや小売業チェーンなどが同様に労働者の大半、それぞれ数千~数万人をこうした契約のもとで働かせていることが相次いで報告されている。ただし、フランチャイズによる店舗展開を行っている企業は、こうした契約の利用は各店舗の判断による、と説明している。また雇用主によっては、週当たりの最低勤務時間(例えば週8時間)の設定や、休暇手当や傷病手当の支払い対象とするなど、法定以上の権利を保証するケースもあるという。あるいは、従来の日雇い労働(casual work)よりも安定した契約内容として、待機労働契約への切り替えを行う雇用主もみられる。

待機労働契約の拡大とその悪用の可能性への懸念から、ビジネス・イノベーション技能相は既に5月、法制度の見直しに向けた検討を行う意向を示しており、労使など関係組織への非公式な意見聴取などを通じて調査を進めているという。ただし、待機労働は雇用主に柔軟な人員調整を可能とするばかりでなく、労働者の側にも学業や育児・介護などの都合にあわせた柔軟な働き方を可能とするとして、全面的な禁止の可能性には否定的だ。

また経営側も、待機労働契約の禁止には強く反対している。例えば経営者団体のCBIは、景気の先行きが不透明な中で、雇用主には柔軟な雇用調整の余地が不可欠であり、またこうした柔軟な働き方が失業者の増加を防止してきた、と述べている。また同じく経営者団体のIoDも、待機労働が禁止されればこれを利用する労働者が不利益を被るとともに、労働市場の柔軟性が損なわれる結果として南欧諸国のような高失業に見舞われかねない、と主張している。

ただし、契約上は仕事を受けるか否かを労働者が任意に決められるとはいえ、雇用主からの要請を断れば次に仕事を依頼されなくなるとの恐れから、労働者の側には実質的に選択の余地が乏しい場合も多いとみられる。雇用主からの急な呼び出しに対応するには、例えば託児所探しや高い費用負担などの問題が伴うため、実際には育児や介護などの必要に合わせた働き方は困難ではないかとの見方は強い。また失業抑制の効果についても、統計上は失業者に分類されないが、実際上はほとんど働いていない層が少なからず含まれている可能性が指摘されている。

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