カギ握る時間制雇用の拡大
―就業率70%達成の政策目標

カテゴリー:多様な働き方

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  • 国別労働トピック:2013年9月

朴槿恵政権は、就業率70%の達成を最優先の政策目標に掲げている。大統領任期中の5年間に238万人の新規雇用を創出し、そのうちの38%(93万人)を時間制(パートタイム)雇用でまかなう計画である。政府は、女性の経済活動への参加拡大、サービス業・中小企業などの創造経済の活性化、時間制雇用の拡大の3つを柱に政策を推進し、年平均47万8000人の雇用を創出すれば、就業率70%を達成できるとしている。

顕著に低い女性と若者の就業率

2013年7月の韓国の就業率は60.4%で、男性74.1%、女性51.3%となっている。就業率は2003年以降停滞し続けており、特に女性と若者の就業率が低いのが特徴である。

女性(15~64歳)の就業率は、2002年は52.0%、2012年は53.5%であった。長時間労働や保育サービス不足により大卒以上の高学歴女性を中心にキャリアブレーク(M字カーブ)現象が相変わらずみられる。

若者(15~29歳)の就業率は、2002年の45.1%から2012年の40.4%へと4.7%ポイント低下した。20~24歳層の若者の就業率は継続的に低下し、25~29歳層の若者の就業率は停滞している。非経済活動人口に占める若年層の割合が上昇し、「休んでいる」状態の若者が継続的に増加している。

中高年(55~64歳)の就業率は、2002年の59.5%から2012年の63.1%へと3.6%ポイント上昇した。50歳以上人口の増加が就業者の増加につながっている。

2013年3月の雇用労働者に占める時間制雇用の割合は、全体9.9%、男性4.7%、女性16.9%であった。

最低賃金・4大社会保険などの基本的労働条件を保証

政府は、時間制雇用が全体の37.8%(2012年)を占めるオランダをモデルに、時間制雇用の拡大をめざしている。オランダでは1982年、政労使が賃金抑制と労働時間短縮による雇用確保を内容とするワッセナー合意を締結した。その後、フルタイムとパートタイム労働者の均等待遇を導入し、ワークシェリングによる雇用創出を実現した。

政府は、新しく創出される雇用10件のうち、4件を良質な時間制雇用にする計画である。そのため、最低賃金や4大社会保険(国民年金、健康保険、雇用保険、労災保険)などの基本的な労働条件を保証し、雇用の安定性を改善する。時間制雇用に対し、労働時間に比例した保護原則を導入し、法律に明記する。

雇用労働部は、時間外労働の制限、労働時間に比例した保護原則の明示、労働時間短縮請求権の付与、時間制雇用の適合職種の指定・勧告などを盛り込んだ「時間制労働保護および雇用促進に関する法律」の制定を2013年下半期に推進する計画である。

公共部門が率先し民間部門に拡大

政府は、6月4日に発表した「就業率70%達成のための雇用ロードマップ」に基づき、2012年に2092時間であった年間総労働時間を2017年までに1900時間以下に削減し、ワークシェアリングによる雇用創出を推進する。時間制雇用を2012年の149万人から5年間で93万人(62%)増加させ、2017年までに242万人に拡大する計画である。公共部門が率先して時間制雇用を増やし、民間部門に広げていく方針を示している。そのため、(1)公共部門で非常勤7級以下の一般職公務員に時間制雇用の採用を導入し、段階的に対象を拡大、(2)既存の定員の再分類により、時間制雇用が可能な分野を発掘、(3)組織改正時に時間制公務員への定員切り替えを実施――などを推進する。

政府は、時間制雇用を創出する企業に対して新規採用労働者1人当たり月額60万ウォンの限度内で賃金の50%を1年間助成する。また、時間制適合職務の開発などに必要なコンサルティング費用を500~1000万ウォン支援する。さらに、来年から常用労働者1000人以下の中小・中堅企業が時間制の正規労働者1人を採用する場合、雇用保険、労災保険、国民年金の保険料を助成する。

女性・若者・中高年の雇用拡大に注力

政府は、就業率70%の達成には、女性や若者、中高年の時間制雇用の拡大が重要であると強調している。とりわけ、貧困層、女性、若者、中高年の非経済活動人口の労働市場への参加が鍵になるとみている。

このため、女性に関しては、育児休業制度の定着、職場保育施設設置の拡大など共働き夫婦のための保育サービスの拡充、ケアなどの社会サービス分野における新規雇用創出、キャリアブレーク中の女性のための就職支援サービスの強化などの施策を講じる。

若者に関しては、労働市場への早期参入を促進するため、警察、教員などの公共部門の雇用拡大、海外における就業機会の拡大、スペックを超越した採用(能力本位の採用)システムの構築・拡大、韓国型の仕事・学習デュアル・システムの導入などの対策を実施する。

中高年に関しては、60歳定年制の早期定着支援、労働時間短縮請求権の導入、退職後の人生再設計と再就職支援のための雇用希望センターの設置などを通じて、より長く働き、再就職するための基盤を構築する。

実現可能性を疑問視する声も

政府の計画について、多くの専門家は、現実的に実現可能性が低いと評価している。5年間で238万人の雇用を創出するためには、年平均7~8%の経済成長率を維持する必要がある。また、時間制雇用を通じて就業率を向上させるためには、労働の柔軟性を確保する必要があるが、政府の対策には、その具体的手段が欠けていると指摘している。

良質な時間制雇用を定着させることも容易ではない。賃金や処遇などで正規雇用と非正規雇用の格差が大きく、非正規雇用に対する差別意識が残っている現状から、正規の時間制雇用を増やすことには限界があるとみている。

専門家の多くも就業率70%の目標を達成するためには、時間制雇用の拡大が鍵を握るとみている。そのためには、女性・若者・中高年の動向が重要だとし、労働市場政策だけでなく、教育・社会政策を全般的に考慮した具体的な政策目標が必要であると主張している。

参考

  • 委託調査員レポート

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