世帯当たりの社会保障給付に上限を導入
―ホームレス増加などの懸念も

カテゴリー:雇用・失業問題

イギリスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2013年8月

政府は7月、社会保障給付の受給世帯に対して、年間の平均給与額に相当する2万6000ポンドの支給額の上限を導入した。対象となる世帯の多くは一人親や子供の多い家庭などで、平均で週93ポンドの削減を受けるとみられる。政府は同制度の導入により、就労促進の効果が期待できるとしているが、給付削減で住居の賃料支払いが困難になり、ホームレスが増加する可能性も懸念されている。

年間2万6000ポンド、週500ポンドが上限

就労年齢層や子供を対象とした社会保障給付・税額控除の支出総額は年間924億ポンド(2011年度)で、公的年金を含む社会保障等支出全体の48%に相当し、年々増加する傾向にある。給付支出の拡大は、その支出内容の大きな部分を占める就労税額控除(所定の週労働時間以上の有給の仕事に、4週間以上就業する低所得世帯に対する税控除制度)注1と住宅給付の増加によるところが大きい。政府は、支給条件の改正や額の抑制により引き締めを図ってきたが注2、住宅給付については民間賃貸住宅の賃料の高騰がその妨げとなっているとみられる。

図表:社会保障給付・税額控除の支出額の推移(10億ポンド)

図表

参考:DWP Expenditure Tables

今回導入された受給制限は、就労年齢層の非就労(または限定的にしか就労していない)世帯の受給額に上限を設定するもので、実質的には低所得層向けの各種給付の受給者が対象となる。公的年金や障害者向け手当など注3の受給世帯は適用対象から除外されるほか、一定以上就労しているものの所得水準が低い世帯(就労税額控除の要件を満たす世帯。実際の適用の有無は任意)も対象外となる。結果として、およそ4万世帯が影響を受けるとみられる。政府の昨年時点の影響評価によれば、半数が一人親世帯、4割が子供のいるカップル世帯で、子供の数が4人以上の世帯が約半数にのぼる注4。また地域別には、グレーター・ロンドンに居住する世帯が半数を占める。

受給額の算定対象となるのは、求職者手当や雇用・生活補助手当などの主要な所得保障給付のほか、住宅給付や児童手当、児童税額控除、遺族手当といった給付だ。年間給与額の中央値に相当する2万6000ポンドを基に、カップル世帯で週500ポンド、単身世帯では週350ポンドが上限となる。想定される世帯当たり給付額の減少は平均週93ポンド(年間4836ポンド)で、33%の世帯では週100ポンド以上の減少となる見込みだ。9月末までに、自治体当たりの対象世帯数に応じて段階的に実施され、最終的に10月から導入が開始される「ユニバーサル・クレジット」(既存の低所得層向け給付制度を統合-後述)に組み込まれる。制度の導入により、1億1000万ポンドの支出の節約が見込まれている。

政府は、就労税額控除の適用を受ければ支給制限の適用を回避できる仕組みによって、制度の導入は就労促進につながると主張している。受給制限の対象となることが見込まれる世帯に対しては、既に昨年から通知を行って就労支援を受けるよう促しており、結果としてこうした世帯の受給者のうち1万2000人が今年6月までに何らかの仕事に就き、支給制限の適用から除外されたとしている。ただし、政府が公表した関連の調査結果からは、制度導入の直接の影響から仕事に就いた層は一部に留まることが推測される注5

制度導入の影響として懸念されているのは、受給制限の適用を受けた住宅給付の受給世帯が、現在の住居の賃料を支払えなくなることだ。既に4月から実施されている住宅給付の減額措置(公的住宅に居住する世帯で、使用していない寝室があるとみなされた場合、その分の給付を減額)の結果として、こうした世帯が増加しているとの報告も出始めている。政府は、受給者がこのような困難に直面した場合には、仕事に就いて受給制限の除外を受けるか、より賃料の低い住居や地域への移転、あるいは他の生活費の節約を行うよう求めている。また、低所得層に対する住居の提供は自治体が所管することから、自治体による新たな住居への移転などの支援に向けた予算として、2年間で1億ポンドを確保するとしている。しかし、条件に合った住宅に移転できずに受給者がホームレス化する可能性も高く、自治体の負担増が懸念されている注6

政府は、制度導入に関する一般向けのアンケート調査結果でも、73%が導入に賛成(反対は12%)しているとして、受給制限の導入は国民の支持を得ているとの自信を深めている。

週35労働時間相当の賃金所得に達する努力を義務付け

10月に導入が開始されるユニバーサル・クレジットは、既存の所得調査制の求職者手当や雇用・生活補助手当、住宅給付、各種税額控除の統合によって基準の簡素化をはかり、就労が所得を増加させることを明確に示して、受給者の就労促進をはかるものだ。

受給者は給付の申請時に、ジョブセンター・プラスのアドバイザーとの面談を通じて作成される「受給者誓約」(claimant commitment-求職者手当受給者の「求職者協定」(jobseeker's agreement)に相当)に合意することが義務付けられている。求職や就労に向けた活動に関する条件を記載した文書で、求職者の場合には通常、週毎の具体的な活動内容(新聞の求人広告や求人サイトでの応募、企業への訪問や電話などでの求職)のほか、自宅から90分で通勤でき、最低賃金以上が支払われる仕事があればこれに就くこと注7、週当たり最長35時間を求職活動に費やすこと、アドバイザーとの面談や訓練、あるいは紹介された仕事への就職などを積極的に行い、これに違反した場合は日割りでの給付削減や、違反内容によって28日~3年間の給付停止の制裁措置を受けることなどを誓約する内容が盛り込まれている。また求職者には、政府が2012年に導入した求人・求職のマッチングのためのウェブサイト「ユニバーサル・ジョブマッチ」への登録が求められ、アドバイザーは求職者の合意に基づき、サイト上での求職活動の状況を閲覧することができる。

さらに、新たな制度として、短時間または低賃金の仕事に就いた受給者に対しても、受給を継続するためには賃金所得が所定の額以上となるように努めることが条件付けられることとなった。通常の失業者の場合は、最低賃金額で週35時間労働した場合の賃金額(単身の場合は週220.85ポンド)が、また家族の育児・介護などの責任がある場合は同じく最賃額で週20時間(週126.2ポンド)の水準に達するまで、労働時間の増加や時間当たり賃金額の引き上げ、副職あるいはより賃金額の高い仕事への転職をはからなければならない。これを怠ったとアドバイザーが判断した場合は、一部の給付が停止される。

参考資料

参考レート

2013年8月 イギリスの記事一覧

関連情報