高齢者の早期引退傾向に変化、労働力人口が増加
―景気悪化と失業率の上昇、労働省報告書「2012年の労働市場」

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  • 国別労働トピック:2013年8月

フランス労働省が発表した報告書によると、就業者数は2012年の1年間に5.1万人減少、失業率は2012年第4四半期の時点で10.1%となった。失業率は1年間で0.8ポイント上昇したことになる。就業者数減少の主な要因は、景気の悪化による派遣労働の減少とされている。また、失業率の上昇は景気悪化とともに労働力人口の増加が挙げられている。2012年の1年間に労働力人口が22.4万人増加したが、とりわけ55歳以上65歳未満の高年齢者の労働力率の増加が顕著であり、公的年金を受給しながら就労する者の比率が上昇している。

派遣労働減少により就業者数が減少

就業者数の減少傾向は、2011年第2四半期から現れ始め、2012年半ばから強まった。2012年第1四半期には就業者数が3.0万人増加したものの、その後は同年第2四半期に0.4万人減、第3四半期に4.6万人減、第4四半期に3.1万人減となった。その結果、2012年の1年間に就業者数は5.1万人減少し(フランス本土のみ、以下、特筆しない限り同様)、同年末には2633.5万人となった(前年末と比べて0.2%減)。就業者数は、2010年の1年間で14.5万人増、2011年に8.3万人増と増加が続いていたが減少に転じ、2012年末時点での就業者数は、2008年の経済・金融危機後の最低水準よりは高いものの、同危機前よりは低い水準にある。

2012年の就業者数減少の大きな原因は、派遣労働者の減少とされている。派遣労働者数は、2008年の経済・金融危機後に大きく減少していたが、2009年末から増加に転じ、2011年第1四半期まで増加を続けた。だがその後、再び減少に転じて2012年末時点では前年同時点と比べて10.7%(6.1万人)少ない50.8万人となった。2007年初頭のピーク時より、25%(17万人)少ない水準である。特に、製造業における派遣労働者の減少が前年比16.0%(4.1万人減)と大きく、建設業の同7.9%減(1.0万人減)、サービス業の5.7%減(1.1万人減)と続いている。

就業者数を産業別にみると、製造業では2000年代初めから長期的に減少傾向にある。また、建設業では2004年から2007年にかけて増加したが、経済・金融危機後の2009年以降、減少を続けている。サービス業では、2010年及び2011年は前年比で増加したが、2012年は減少に転じた。

安定的な雇用が減少傾向

就業者のうち安定した職に就く者(無期限雇用契約を締結して就業する雇用労働者)の比率は、この10年間、76.3%から78.4%の間を推移している。経済・金融危機の前後は比較的高かったが、景気拡大期には有期雇用契約(CDD)や派遣労働が増加するために安定的な職の比率は低下した。2012年に入ってから、安定した職に就いている者の比率は上昇傾向にあったが、第4四半期に低下に転じ76.5%となった。

過去最悪に近づく失業率

失業率(ILOの定義による)は、2009年末から2011年半ばにかけて低下傾向にあったが、2011年後半に入って上昇に転じた。その後も失業率は上昇を続け、2012年の1年間に0.8ポイント上昇し第4四半期には10.1%に達した。過去最悪の失業率(1994年半ば及び1997年第1四半期に記録した10.8%)に迫っている。なお、海外県を含むフランス全土の失業率は、フランス本土より高く2012年第4四半期で10.5%だった。

失業率を男女別に見ると、男性の方が景気悪化の影響を受けやすい。2011年第4四半期に9.1%であった男性の失業率は、2012年の1年間に上昇を続け、同年第4四半期には10.1%となり史上最悪となった。女性の失業率も上昇を続け、2012年末時点で10.2%となったが、前年比では0.6ポイントの増加であった。これは、景気の影響を受けやすい製造業や建設業、あるいは派遣として就業する者が、比較的男性に多いためである。ちなみに、労働省の報告書によると、2011年に派遣労働者として就業した者の65%が男性だった。

若年失業率が25%超

年齢階層別では、若年者の失業率の上昇が目立つ。通常、若年者の失業率は景気後退期に中年層より大きく上昇し、逆に景気拡大期には中年層と比べて大きく低下する傾向にある。15歳以上25歳未満の失業率は上昇を続け、2012年第4四半期には史上初めて25%を突破し25.5%となった。若年層の失業率に男女間の差はほとんど見られない。また、25歳以上50歳未満の失業率(9.1%)との差は16ポイント超に達し、これも史上最高値となっている。1990年代に史上最悪の失業率(10.8%)を記録した際、若年層と中年層の失業率の差が13ポイントだったことを踏まえると、若年層の雇用状況は当時より厳しいと言える。なお、50歳以上の失業率は他の年齢階層より低いが、上昇を続けており、2012年第4四半期には7.1%となった。

失業期間が1年以上の長期失業者の(失業者全体に占める)比率は、2012年第4四半期に40.6%となり、前年より1.4ポイント低下した。これは2012年に新たに失業者となった者(失業期間が1年未満の失業者)が増加したために、長期失業者が相対的に減少したことによる。

カテゴリーA~Eの求職者数(注1)は、2012年の1年間増加し続け12月末時点で523.9万人となった。これは前年同月末比で39.5万人増加。また、カテゴリーA~Cの求職者(1カ月間に積極的に就職活動を行なっていた求職者)数やカテゴリーAの求職者(積極的に就職活動を行なっている求職者のうち、1カ月間に就業活動を一切行なわなかった者)数に限ってみても前々年より増加し続けており、その増加率も高くなっている。

高年齢者の就業率・労働力率が上昇

55歳以上65歳未満の高年齢層の就業率は、2008年第1四半期には37.9%であった。その後、高年齢者就業促進策 (公的年金支給開始年齢の引き上げや早期・段階的退職制度の縮小、失業手当受給者の求職活動免除の制限) の影響で上昇が続いており、2012年第4四半期には45.8%となった。2012年の1年間で高年齢(55歳以上65歳未満)の就業率は3.0ポイント上昇した。男性の就業率が3.4ポイント上昇したのに対して女性についても2.7ポイント上昇した。

高年齢者(50歳以上)の失業率は他の年齢階層より低いが上昇が続いており、2012年第4四半期には7.1%となっている。55歳以上65歳未満の高年齢者の労働力率は、2012年第4四半期に前年同時期と比べて3.7ポイント上昇して49.4%になり上昇傾向が見られる。さらに、65歳以上の労働力率も上昇し続けている。65歳以上70歳未満の労働力率は、2000年代前半の3% 程度から2012年には6%に達した。一方で70歳以上75歳未満の労働力率は上昇傾向にあるものの、2012年末時点で1.8%と低い水準にとどまっている。

60歳人口のうち、(50歳以降に)労働市場から引退した者の比率は、2012年には39%であった。これは2006年と比べて27ポイント低い。また、60歳以上70歳未満の非労働力者の66%が、就労活動を終えて直ちに年金生活に入った。その理由として67%は公的年金受給条件を満たしたためと答えており、16%は定年を迎えたためである。就労生活から年金生活に直接入った者は、公的部門で就労していた者や、健康状態が良好な者、高学歴者に多く見られる。

逆に、60歳以上70歳未満の非労働力者の34%は、離職後、失業期間や療養期間を経たり、早期・段階的退職制度を利用した後に年金生活に入った。失業期間や療養期間を経て、年金生活に入った者では、離職後から年金生活を開始するまでの期間に、就労を希望していた割合が高い。離職の直後には年金生活に入れなかった者には、離職を余儀なくされたものの、公的年金を直ぐには受給できなかった者が多い。

年金受給者の就労が増加

60歳以上70歳未満の公的年金受給者のうち7%が就業していた。この割合は、2006年と比べて倍増している。2009年以降、就労しながらの公的年金の受給に関する条件が実質的に撤廃されたことによる影響とされる。就労しながら公的年金を受給している者の半数は、公的年金額が不十分なことを理由に就労しているが、パートタイムで就労している者が多い。また、経済的な理由以外で就労しているものも4割以上に上っている。このような就労しながら公的年金を受給している者は、男性で高学歴で管理職に就く者に多い。特に、管理職や高学歴者の所得代替率(現役時代の賃金に対する年金給付額の比率)が低いことに加えて、高年齢でも就労可能な場合が多いことが、年金を受給しながらの就労を促進させている。

2012年に50歳以上60歳未満であった就業者は、平均で61.4歳で引退することを考えている。この年齢は2006年と比べて1.5歳高い。引退予定年齢が高まっていると言えよう。

高学歴者で高い引退年齢

バカロレア+2年以上の学業修了証(注2)を持つ者の引退予定年齢は63.4歳である一方、バカロレア未満の学歴者(注3)は60.9歳となっており、高学歴者の方が引退予定年齢が高い。2012年に50歳以上60歳未満であった就業者の60%は、公的年金の受給権を獲得した時点で引退する意向を示しており、年金受給開始以前に引退する予定の者は5%に過ぎない。また、19%の者は、年金受給しながら就業することを希望しており、この半数以上は経済的な理由により就業継続の意向をもっている。フランスでは長年、労働者の早期引退傾向が続いていたが、最近では高年齢者の就労傾向が高まってきている。

参考資料

(ホームページ最終閲覧:2013年8月14日)

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