出稼ぎ労働者、高齢化の様相
―統計局、2012年の状況公表

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2013年7月

統計局は5月、2012年の出稼ぎ労働者の状況を公表した。人数は2億6261万人で、前年に比べ3.9%増え、依然として増加しているものの、40歳以下の層の比率は低下しており、高齢化の様相を示している。今後は、出稼ぎ労働者の「都市市民化」―農村戸籍から都市戸籍への移行が最大焦点として浮上する見通しだ。

地域間の賃金格差、縮小傾向

統計局によれば、2012年の出稼ぎ労働者は2億6261万人で、前年比で983万人、3.9%増加した。このうち地元から離れて就労している労働者注1は1億6336万人で前年比で473万人、3.0%増加した。ここ1、2年はその伸びが鈍化傾向にある(図表1)。

就業先を地区別注2に見ると、東部が1億6980万人で前年比2.7%増、中部が4706万人で6.0%増、西部が4479万人で6.2%の増加となっている。地元を離れて就労している労働者の内、出身の市・省以外で就業している者が前年比2.3%増の7647万人、出身の市・省で就業している者が3.6%増の8689万人となっている。年々、東部の比重が低下する一方で、中・西部の比重が高まっているほか、出身の市・省で就労する者の割合が高まる傾向にある。

平均月収は2290元であった(図表2)。地区別に見ると、それぞれ前年比で全国が11.8%、東部が11.4%、中部が12.5%、西部が11.8%の上昇であり、先進的に発展してきた東部と中・西部の格差は縮小する傾向にある。

図表1:地元から離れて就労する出稼ぎ労働者数の推移(単位:万人)

図表1:地元から離れて就労する出稼ぎ労働者数の推移(単位:万人)(統計局)

出所:統計局、人的資源社会保障部資料より作成

図表2:出稼ぎ労働者の平均月収の推移(単位:元/月)
  2008年 2009年 2010年 2011年 2012年
全国 1,340 1,417 1,690 2,049 2,290
  東部地区 1,352 1,422 1,696 2,053 2,286
  中部地区 1,275 1,350 1,632 2,006 2,257
  西部地区 1,273 1,378 1,643 1,990 2,226

出所:統計局

注:東・中・西部地区以外に香港・マカオ・台湾および外国での就業者が0.3%を占める。これら地域での平均月収は5500元。

なお、賃金については、都市私営企業で前年比17.1%、都市非私営企業で11.9%の上昇となっており、出稼ぎ労働者の賃金上昇率はそれらを下回る状況にある。こうした状況について、中国労働学会副会長の蘇氏は「私営企業の賃金水準は非私営企業と比べると低いので、私営企業の賃金上昇率が高いことは良いことと言える。一方で、出稼ぎ労働者は低収入あるいは中程度の収入層の主要なグループとなっているので、彼らの賃金の伸び率が低いことは、格差縮小の観点から言って問題だ」と述べている。

社会保険への加入状況は、それぞれ養老保険(年金)が14.3%。労災保険が24.0%、医療保険が16.9%、失業保険が8.4%、生育保険が6.1%と、いずれも低い値ではあるが、年々加入率は上昇している(図表3)。

図表3:出稼ぎ労働者の社会保険加入率(単位:%)
  2008年 2009年 2010年 2011年 2012年
養老保険 9.8 7.6 9.5 13.9 14.3
労災保険 24.1 21.8 24.1 23.6 24.0
医療保険 13.1 12.2 14.3 16.7 16.9
失業保険 3.7 3.9 4.9 8 8.4
生育保険 2 2.4 2.9 5.6 6.1

出所:統計局

進む高齢化、増えない若年層

出稼ぎ労働者の年齢構成を見ると、高齢化が進みつつあるのが見てとれる。年齢階級別では16~20歳が4.9%、21~30歳が31.9%、31~40歳の22.5%、41~50歳が25.6%、50歳以上が15.1%となっており、40歳以下はここ数年、低下傾向にある(図表4)。平均年齢も2008年の34歳から2012年には37.3歳にまで上昇している。出稼ぎ労働者はある程度の年齢に達すると帰郷する傾向があるため、高齢化は将来的な出稼ぎ労働者の減少要因になり得ると見られる。

図表4:出稼ぎ労働者の年齢階級別割合(単位:%)
  2008年 2009年 2010年 2011年 2012年
16-20歳 10.7 8.5 6.5 6.3 4.9
21-30歳 35.3 35.8 35.9 32.7 31.9
31-40歳 24 23.6 23.5 22.7 22.5
41-50歳 18.6 19.9 21.2 24 25.6
50歳以上 11.4 12.2 12.9 14.3 15.1

出所:統計局

都市戸籍への移行が焦点に

政府は今後も経済成長を持続させるための主要な政策の一つとして「都市化」の促進を挙げている。都市化には、建物や道路のようなインフラの整備も含まれるが、それと共に重要とされているのが出稼ぎ労働者の「都市市民化」、すなわち農村戸籍をもつ彼らの都市戸籍への移行である。

農村戸籍の出稼ぎ労働者は社会保険・教育・住宅と様々な面で都市戸籍の住民と比べて差別的な待遇を受けている。特に近年は旧来の製造業に代わって建築業に従事する出稼ぎ労働者が増加傾向にあるが(図表5)、建築業に従事する出稼ぎ労働者は他業種に比べると、賃金未払いが多く発生している。また、書面での労働契約を結んでいる割合も他業種に比べて低いとされている。こうした状況は労働災害が発生した際などにトラブルの原因となるため、是正が求められる。

ただし問題の全ての原因が、出稼ぎ労働者を受け入れている当該の都市だけにあるわけではない。例えば中学校卒業程度の出稼ぎ労働者で農業以外の職業訓練を受講している者は25.6%に留まっている。大多数の者は職業訓練を全く受けていない。これは、そうした職業訓練の機会がそもそも乏しいだけでなく、仮にそのような機会があったとしても、出稼ぎ労働者がそれらを利用しないためである。出稼ぎ労働者が「都市市民」となり、戸籍の面でもそれ以外の面でも都市の一員となるためには、中央政府、出稼ぎ労働者の送り元、受け入れ先、そして出稼ぎ労働者自身の4者が主体的に責任を負う必要がある。それによって初めて出稼ぎ労働者は都市に融和し、「都市市民化」が経済成長の起爆剤となり得ると考えられている。

図表5:業種別出稼ぎ労働者の分布(単位:%)
  2008年 2009年 2010年 2011年 2012年
製造 37.2 36.1 36.7 36.0 35.7
建築 13.8 15.2 16.1 17.7 18.4
交通運輸・倉庫・郵便 6.4 6.8 6.9 6.6 6.6
卸売・小売 9.0 10.0 10.0 10.1 9.8
宿泊・飲食 5.5 6.0 6.0 5.3 5.2
その他のサービス 12.2 12.7 12.7 212.2 12.2

出所:統計局

出所

  • 統計局、人的資源社会保障部、新華社通信、経済観察報

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