働く中国の女性に変化の兆し
―背景に「仕事と家庭の両立」重視

カテゴリー:労働条件・就業環境

中国の記事一覧

  • 国別労働トピック:2013年7月

中国女性は結婚・出産後も仕事を続けるのが普通だったし、労働時間も男性とあまり変わらなかった注1。そんな傾向に変化の兆しが出ている。仕事と家庭のバランスに対する配慮が働くようになっているためだ。人材紹介会社が発表したいくつかの調査から、「働く中国女性のいま」をスケッチしてみる。

容易でない両立

中国女性は強い仕事志向を持っていると言われる。人材紹介会社の「智聯招聘」が発表した「三・八(国際女性デー)特別女性デー特別調査」によって、2010年と2012年を比較してみると、そんな傾向が垣間見える。10年調査では、仕事で成功したいと考える女性は調査対象者の92.5%に達している。職務に関しては、29.8%が女性企業家(会社社長、CEOなど)、24.9%が中間管理職、22.2%が高級管理職(副社長など)、20.4%が専門職を目指しており、いわゆる一般職員を目標とする女性は2.7%にとどまった。しかし12年には、仕事で成功したいと考えている割合は72.04%で、10年の調査から2割ほど低下している。仕事と家庭のバランスを重視する女性が増えているためだと見られている。

別の人材紹介の「科鋭国際」は今年、企業に勤める23~43歳の男女1,700人を対象に調査した。調査に携わった科鋭国際の安然氏は、インタビューを受けた人に対する印象として、「男性は職業キャリアの展望をより重視し、長期の計画を立てているのに対し、女性は年齢を重ねるほど家庭と仕事とのバランスを重視する。例えば、転職先として休暇が多い企業を優先する傾向にある」と指摘している。実際、調査によれば69.9%の女性が国有企業や民営企業よりも、福利厚生サービスが充実している外資企業を転職先として選んでいる。

しかし、仕事と家庭の両立は決して容易な問題ではない。「智聯招聘」の調査では、約4割の女性が出産後に仕事を失い、21.84%の未婚女性が昇進のために、出産をあきらめたり遅らせたりしていることが明らからになった。また、8割近くの男性は、妻の仕事での成果が自分を超えてもかまわないと考えているにもかかわらず、27.84%の女性は、自らの仕事の成功が夫婦関係に悪影響を及ぼすことを心配している。「智聯招聘」の別の調査である『出産前後の職場調査』によると、2012年の場合、68.61%の女性は出産後に転職を考え、17.36%は実際に行動に移している。出産による就労への影響としては、子どもの健康が74.44%、教育問題が63.61%、生活費支出による圧力が48.17%、家庭生活が情緒に与える影響が46.12%、家事が36.31%となっている(複数回答)。

出産後は労度時間減少

出産後の女性は、労働時間を短縮することで家庭生活との両立に務める場合が多い。前出の『出産前後の職場調査(2012)』によると、出産経験後の女性の労働時間(一日あたり)は8時間以上が出産前の87.24%から66.13%へと大幅に減少している。

出産により職場に求めるものも変化している。出産前に比べて、「時間の自由度の高い仕事に従事する」、「所定労働時間以外の残業をしない」ことなどを求める女性が増え、一方で「高い職位につく」、「辛くても自分が好きな仕事をする」などの仕事志向の女性が減っている(図)。また会社選びでは通勤時間の長さも重要になっており、通勤時間が長い場合、64.79%の女性が転職を考えると回答している。

図:出産前後の女性が職場に望む要求(単位:%、3つまでの複数回答)

図:出産前後の女性が職場に望む要求(単位:%、3つまでの複数回答) 『出産前後の職場調査(2012)』

出所:智聯招聘『出産前後の職場調査(2012年)』

転職動機は報酬への不満

中国人女性にとって、報酬は仕事満足度や転職行動を決める主な要因である。前出の「科鋭国際」の2013年調査によると、直近の昇給幅に不満を抱いている女性が38.9%(非常に不満が11.5%)に上ることが明らかとなった。これは男性よりも高い水準である。同調査によると、直近の昇給に対して44%の女性は20%以上の昇給を望んでいた。しかし、期待に達したのはわずか7.1%であった。ちなみに、国家統計局が今年5月に公表した2012年の平均賃金の対前年上昇率(実質)は、男女計で非私営部門が9.0%、私営部門が14.0%である。それに比べると、20%以上の昇給期待値はいささか高くはある。理想と現実の間にギャップがある場合の対応として最も多かったのは「新たな機会への注目」である。特に23~27歳の女性では、年長の女性に比べて昇給への不満が転職につながる可能性が高く、7.1%が「すぐに転職する」と答えている。

依然として存在する男女間の賃金格差の実態から、職業キャリアに悲観的な女性も多い。前出の調査によると、59.9%の女性が1年以内の転職を考えているが、その一番の理由は「報酬」であり、次いで「職業展望」、「福利厚生」の順となっている。

若年層に専業主婦増加

多くの女性が仕事と家庭の狭間で悩んでいるが、「智聯招聘」の出産に関する前述調査によると、4割近くの女性は専業主婦の道を選んでいる。専業主婦は特に若年層に多く見られ、30~35歳で28.10%、35-40歳で25.42%であるのに対し、25~30歳では38.24%で、20~25歳層では66.61%に達している。専業主婦を選んだ理由として最も多かったのは「子どもと一緒にいる時間を増やすため」で、64.75%を占める。また、37.50%は専業主婦を選んだ理由として「生活費負担が重くなく、仕事をする必要がない」ことをあげている。経済的な余裕の表れともとれるが、沿岸部や一線都市などの経済発展地域では就労する女性の就業率が高いので、興味深い現象と言える。

ちなみに、女性が専業主婦を希望しない理由として最も多いのは「夫の収入が少ないなどの経済的理由」で72.00%を占めている。なお、夫の67%は妻が専業主婦になることを望んでいない。専業主婦を希望しない理由として、66.36%の女性が社会からの離脱がもたらす精神的な不安をあげている。

アシスタントフェロー:李青雅

参考

  • 新華網、老猟頭網、HRoot、中国新聞網、智聯招聘『三・八節(国際女性デー)特別調査(2010、2012)』、『出産前後の職場調査(2012)』、科鋭国際『2013年中国職業女性調査報告(2013)』

関連情報