求職者の約51%が失業保険手当の受給できず

カテゴリー:雇用・失業問題

フランスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2013年6月

労働省が3月にとりまとめた報告書によると、2011年9月末時点での求職者注1数は476万人であり、そのうち約51%に相当する243万人は失業保険制度による失業手当の受給権を持たないことが明らかになった。しかも193万人は連帯制度による失業手当(失業扶助)の受給権すらなく、失業手当の受給権が無い者の多くは若年者であった。

失業保険と失業扶助

フランスの失業保障制度は、失業保険制度(Régime d’assurance chômage)と、それを補足するための連帯制度(Régime de solidarité)という失業扶助から成り立つ。

失業保険制度は、政府が保険者となって設立されているのではなく、労使同数の代表の合意により定められた協約に基づいて運営されている。労使合意の協約を政府が承認することにより失業保険制度に強制力を持たせ、民間部門の全ての雇用主と被用者に適用させている注2。失業保険制度における失業手当(以下、失業保険手当)は、(50歳未満の場合) 過去28カ月間に4カ月以上、または610時間以上就労し保険料を納めた失業者に対して、就労期間と同じ期間支給される注3。ただし、受給可能期間は最長でも2年間となっている。支給額は従前賃金の57.4%から75.0%である(ただし、上限額あり)。

一方、連帯制度は主な財源が租税であり政府が実施する扶助制度で、給付等に関する規定は政府が決定する。失業保険手当の受給期間を満了した者など、特に困難な状況に置かれている求職者に対して支給される。連帯制度の代表的な手当に特別連帯給付(ASS:Allocation de solidarité spécifique)がある。対象は失業保険手当給付の支給期間を満了した長期失業者であり、かつ失業前の10年間に5年以上に渡り就業活動に従事していた者などである。支給額は現在477ユーロであるが、世帯の収入が一定額を超える注4と減額され、世帯の収入が1113ユーロ(一人世帯の場合)または1749ユーロ(カップル世帯)を超えると手当の受給権を失う。支給期間は6カ月間であるが更新は可能である。また、この特別連帯給付は就労しながらでも受給が可能であり、求職活動を積極的に行う必要がある。かつて一部の受給者に求職活動を免除する規定があったが、2012年1月1日で廃止された。

生活保護制度―積極的連帯所得手当(RSA)

失業保険、失業扶助ともに受給権のない者は、生活保護制度を利用することが可能である。積極的連帯所得手当(RSA=revenu de solidarité active)がフランスにおける生活保護制度に相当する注5。この手当受給者は保険診療の無料化や住民税の免除、公共交通機関の交通費や電気・電話代など公共料金の割引等の恩恵を受けることもできる。逆に、手当受給者に社会参入(就業)の意思が見られない場合、手当の支給が停止されることもある。手当受給者となった場合、社会参入の意思を表明することを目的として、日常生活を改善するための行動計画(家計の管理、社会復帰に必要な健康管理、住居の改善や確保など)や職業訓練、就職活動の方針などを明記した「社会参入契約:Contrat d’insertion」を策定・締結しなくてはならない。

求職者の4割は連帯制度の受給権さえ無い

2011年9月末時点で(以下、特筆しない限り同様)、求職者(カテゴリーA~Eの求職者)数は475.7万人であった。このうち、243万人が失業保険手当の受給権を持っていなかった。失業保険手当の受給権を持っていない求職者とは、その受給資格の要件となる4か月間以上就労していない者や、受給期間を満了した場合などである。失業手当の受給権を持たない求職者のうち、55%は同制度による失業保険手当の受給期間を満了した者であった(カテゴリーA~Cの求職者として登録していた者に限ると、48%)。失業保険手当の受給権を持っていない求職者の中には、特別連帯給付を受給している者がいる。また、一時的な就労をしている者も含まれ、さらに積極的連帯所得手当を受給している者も含まれる。失業保険手当の受給権を持たない者のうち、49.9万人は特別連帯給付の受給権者であり、193.1万人は連帯制度の受給権さえない状態だった(図表1参照)。失業保険手当の受給権を持たない求職者のうち、特別連帯給付受給者数は、前年39.4万人からおよそ3%増加し、40.5万人であった。2011年の数字として特別連帯給付受給権を得た者の75%は、失業保険手当の受給期間が満了した者であり、そのうち7割は12カ月以上失業保険手当を受給していた。

図表1:求職者と失業関連手当受給者数の関係

図表1:求職者と失業関連手当受給者数の関係(カテゴリーA~Eの求職者)

出所:労働省発表資料をもとに作成。

失業保険手当や特別連帯給付などの受給権を持たない求職者(カテゴリーA~Eの求職者)は193.1万人であった。このうち156.7万人がカテゴリーA~Cの求職者として登録していたが、そのうち39.1万人が就労しており、65.0万人が積極的連帯所得手当を受給していた(就労しながら積極的連帯所得手当を受給していた者は11.8万人であった)。残りの64.4万人は、就労もせず積極的連帯所得手当も受給していなかった(図表2参照)注6

図表2:失業保険制度・連帯制度の受給権のない156.7万人の内訳

図表2:失業保険制度・連帯制度の受給権のない156.7万人の内訳詳細

出所:労働省発表資料より作成

特に若年者、長期失業者が受給できず

失業保険手当や特別連帯給付などの受給権のない求職者を年齢階級別に見ると、30歳未満が38%(カテゴリーA~Eの求職者の場合)、30歳以上40歳未満が25%を占めるなど、若年者に多い。また、過去5年間に求職者登録されていた期間は、51%が2年以上に及んでいた(33%が3年以上)。したがって、失業保険手当や特別連帯給付などの受給権のない求職者には、長期失業者や繰り返し失業者となる者が多いと言える。さらに、一般事務職と現場労働者(ブルーカラー)で86%を占めていた。

  1. 求職者(demandeurs d’emploi)の分類について
    フランスでは雇用局に求職者登録をしている者をA~Eの5つのカテゴリーに分類している。カテゴリーAの求職者とは、積極的に求職活動を行なっている求職者のうち、1カ月間に一切の就労活動を行なわなかった者を指す。カテゴリーAの求職者が「失業者(Chômeur)」または「(狭義の)求職者」として扱われることが多い。カテゴリーBとは、積極的な就職活動を行なっている求職者のうち、1カ月間に78時間以下の(一時的な)就労をした者であり、1カ月間に78時間を超える就労活動を行った者をカテゴリーCの求職者としている。カテゴリーA ~Cの求職者は、1カ月間に積極的に就職活動を行なっていた求職者である。積極的な求職活動を行なっていなくとも、公共職業安定所に求職者登録をすることが可能な場合がある。職業訓練中や病気療養中で無職の者は、積極的な求職活動を行なっていなくとも求職者登録が認められ、カテゴリーDと分類される。また、同様に、ある種の特殊雇用契約を締結して就業している者などは、積極的な求職活動を行なっていなくとも求職者登録が認められ、カテゴリーEに分類される。ILOなどによる失業者の定義に従えば、カテゴリーD及びカテゴリーEの求職者は積極的な求職活動を行なっていないため、失業者には当てはまらない。
  2. 失業保険制度の主な財源は、被用者と雇用主が拠出する保険料である。保険料率は、現在、労働者負担分が2.4%、使用者負担分が4.0%である。
  3. 就労期間=保険料拠出期間=失業保険制度による失業手当の受給可能期間。
  4. ここで言う収入とは、配偶者の収入や不動産収入、有価証券売却収入、利子収入などの合計のこと。一定額とは、一人世帯の場合、636ユーロ、カップル世帯の場合1272ユーロ。カップル世帯について、フランスでは共同生活を営む非婚姻カップルを対象として、税控除や遺産相続、年金・保険給付など夫婦の権利の一部を認めるパックス(Pacs:Pacte civil de solidalité:連帯市民契約)制度がある。このパックスは同性カップルでも利用可能である。なお、世帯の分類における「カップル」は一般的には夫婦を指すが、同性のカップルでも夫婦世帯に準ずる扱いを受けることのできる現状を考慮して、ここでは、「カップル世帯」という表現を使う。
  5. かつて経済的および社会的な自立を目的として、最低限度の所得を保障するともに手当受給者の社会参入(主に就業)を促す制度、日本の生活保護に相当する社会参入最低所得手当=RMI(Revenu Minimum d’Insertion)の制度が存在していた。2009年6月1日以降は、RMIを中心とした社会扶助制度を改編して設置された積極的連帯所得手当がその働きを担っている。RMIの制度では、世帯収入が増加するにつれてRMI支給額が減額されたが、RSAではその減額率を下げることとなった。また、RMIより支給対象が広げられ低所得就業者の支援が拡大された。
  6. 積極的連帯所得手当は原則として25歳以上が受給対象となっている。受給権のない者のうち37%は25才未満であり、34%は25歳以上のカップル世帯であった。

参考文献

参考レート

関連情報